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亡国の姫は敵国の王を幸せにしたい! ~過去に戻ってわがまま姫に転身いたします!~  作者: 皐月あやめ
第四章

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特別図書室(1)

 授業の後、リナリアはアーキルのところに行って、手紙を渡した。アーキルはそれを興味深げにまじまじと見つめる。

「ああ。これがレガリア王族が送るという挨拶状かね。本物は初めて見る」

「あの、アーキル先生はいつお帰りになりますか? 特別図書室の閲覧がしたいので、鍵をお借りしたいのですが……」

 アーキルは肩をすくめた。

「私は帰省などはしないよ。どうせ家と言っても城下町のアパートに戻るだけだから、必要なものを取りに行く以外は学舎の個室にいる。気が向いたらいつでも来たまえ。ああ、特別図書室だが……リナリア君の身長では取れない資料もあるので、一人で行くのは避けた方が良いだろう。今日は使うかね」

「使います! ありがとうございます」

 アーキルが懐から取り出した古い大きな鍵を両手で受け取る。持ち手にも模様のようなものが彫ってあった。

「古風な鍵なのですね」

「うん。スペアが作られないように、また万が一紛失した場合に在処ありかがわかるよう、まじないがこめられているそうでね。当日中に返却することになっている」

「では、終わったら先生のお部屋に返却にうかがいますね」

 神官風の礼をして、待たせている三人のところに戻る。今日はティナとヨナスを学寮までお見送りすることになっていた。

(鍵を返す時に先生のお部屋で精霊界のことを聞いてみようかしら。おとぎ話に書いてあったことにすれば大丈夫……でしょうか)

 もしかしたらバーミリオンに聞いた方が良いのかもしれないが、まだ今はそのときではない。あの手紙の返事には、情報を得る目的の話題は書きたくなかった。


「リナリア様、図書室の鍵借りられたんですね! よかった」

 ティナが明るく笑って、軽く拍手をする。そのまま隣に並んで歩こうとした彼女の袖をウルが軽く引いた。

「ティナ、僕らはリナリア様の少し後ろを歩きましょう」

「え、どうしたの。いつもふつうに歩いてるじゃない?」

 ティナが驚いた顔でウルとリナリアを見る。ヨナスは少し察した風に「ああ」と頭を掻いた。

「ガリオ先生、身分の上下関係に厳しいもんね。今の時期どこで遭遇してもおかしくないから、一応そうした方がいいかも。じゃ、僕がリナリア様をエスコートしよっと♪ 役得だなー! 貴族でよかった」

 ヨナスがぴょこんとリナリアの横に位置取って、得意げに腕を差し出した。ここで断るのも気の毒なので、素直に手を置かせてもらうことにした。多分、ヨナスの気づかいなのだろうとも思ったから。

「ヨナスずるーい。じゃ、私もウルとエスコートごっこしよっと。ウル、手つなご」

「え。僕はいいですよ、そういうのは……」

「もー、ノリ悪い! ちょっとくらい良いじゃん! とりゃっ」

 ティナがウルの腕に飛びついて、両手でがっちりとホールドする。近くにいた同期が笑って「ウルとティナ、お似合いじゃん」と冷やかしてきた。騎士に兄がいるクレイルという男子だ。

 ティナはぺろっと舌を出して、「えへへ」と笑う。

「仲良しでいいでしょ!」

 ウルは「困ったなあ」と言いながらも、顔は笑っていた。後ろの二人をほほえましく見ながら、リナリアは自分がいなかったときのことに思いを馳せてしまう。


(ティナとウルは、以前も仲が良かったのかしら。もしわたくしがいなかったら、二人とも、それにフリッツも、もっとのびのびと見習い生活を送れていたの? 滅亡のとき、みんなは……)


「リナリア様、このあたりは道がでこぼこなのでお気をつけください。学院寮とちがって学寮の方は、悲しいかな、整備が行き届いてないんですよ」


 ヨナスの声に思考は中断され、注意を足元に向ける。確かに石畳が割れていたり、少し大きな石が転がっていたりする。後ろからティナの「いだっ」という声が聞こえた。どうやらつまずいたらしい。ヨナスがにやにやして後ろを振り返る。

「ティナさあ、この前もこの辺で躓いてなかったあ?」

「もー、うるさいなあ! こけてないからセーフだもん」

「そうですね。ケガがなければセーフです」

 みんなで顔を見合わせて笑う。こんな些細なことがとても楽しい。

(わたくしがいなかったら、二人はヨナスと仲良くならなかったのかもしれない。そうであるなら、少しはわたくしがいて良かったのかもと思える。人のご縁というのは、不思議なものね)


 学寮は石造りのシンプルなデザインの建物だった。砦のような学舎に近い雰囲気がある。見たところ大きな建物が一つだけなので、近くにもう一つ寮があるのかときょろきょろしていると、ウルが微笑んだ。

「学寮は男子も女子も同じ建物なんですよ。入ってから、右と左に別れます」

「まあ。男女で同じ寮なのですか」

 学院では、男子寮も女子寮も異性は入れてはいけない規則があったし、婚約者以外の異性とは必要以上に近しくしないなどの細かな規則が多かった。魔法検閲官の同期はティナなど学院の入学年齢に達していない生徒もいるから規則がゆるいのかと思っていたが、先輩たちも同じ寮に住んでいると言っていたから、年ごろの男女でもそのままということだろう。驚くリナリアに、ヨナスがうんうんと頷いた。

「わかります。僕も初めて来たときは驚きました。でも、騎士寮もそうらしいですよ。遠征のときとか、テントは別としても近い空間で寝泊まりするじゃないですか。それの練習みたいな意味があるそうです。もちろん、不順異性交遊は禁止で……」

「ふじゅんいせいこうゆうって何? そんな規則あったっけ」

 ティナが首をかしげる。リナリアも、ヨナスから離れてティナと一緒に首をかしげておいた。ヨナスがウルに助けを求めるような視線を送るが、ウルは目をそらす。

「えーーーと、あの、ほら、男女であんまりべたべたしてちゃだめだよという……」

「ダメなんだっけ。私、ウルとくっついちゃった」

「うーん、ティナのは不純じゃないから……いいんじゃない?」

「?」

 きょとんとするティナから視線を外して、ヨナスはぱんと手を打つ。

「ま、まあこの話はここまでで。じゃ、今日は夕方までに帰省しなきゃなので、ね! ティナも荷造りまだ終わってないんでしょ」

「うん。まだ……今日かさばるのが一個増えちゃったしなあ」

「あーーーそれ言わないで。ねえねえ、ウル様、年明けちょっと早く戻ってくるから、課題一緒にやってくれない? ねえ」

 ヨナスが手を合わせて頭の上に持ってくる。

「あはは、良いですよ。じゃあ、年明けは勉強会かな」

「楽しそう! 私も早めに帰ってこよっと!」

「わたくしもご一緒したいですっ」

 みんなで顔を見合わせて笑う。

「もう年明けの楽しみができちゃった」

「まあそれまでにやること山積みなんだけど……頑張るかあ」


 ティナとヨナスに手を振って、二人が学寮に入るまで見送った。ティナが玄関で振り返って、もう一度手を振ってくれたのが嬉しかった。


「さて、では特別図書室に参りましょうか。案内いたしますね」

 ウルが一歩前を歩く。今回は案内だから彼が先導する形になる。

「はい、よろしくお願いします」

 それならそれで、王女らしく。背筋を伸ばして、できるだけ子どもに見えないように一歩一歩意識する。今は子どもだからこのくらいのことで済んでいるけれど、もっと成長したら、きっと理由がなければ一緒にいるのも難しくなる。

 ウルの背中をじっと見つめてついていく。学舎の、重厚な扉の前でウルが立ち止まった。扉には、鍵に彫られているのと似ているけれども、さらに複雑な模様が彫り込まれていた。


「リナリア様、ここが特別図書室です。鍵をここに」


 示された鍵穴に、アーキルから借りた鍵を差し込んで回した。ガチッという重い手応えがある。扉を開けようとしたけれど、かなり重い。後ろからウルが手を伸ばして、リナリアの手の上に彼の手を重ねた。袖の下にちらりと青い腕飾りが見える。ウルはリナリアを見て、優しく笑う。


「すみません。この扉重いでしょう。僕が開けても良いんですけど……やっぱり最初は自分で開けてみたいですよね。一緒に開けましょうね」

「はい!」


 「せーの」という声に合わせて、一緒に扉を引いた。まず、古い紙の匂いが流れてくる。それから、壁一面の本棚。中央には閲覧用の机と椅子があり、吹き抜けに梯子はしごが架かっていて二階にも上がれるようになっている。


「わあ。アーキル先生のお部屋にも驚きましたが、もっともっと本があります」

「あはは、図書室ですからね。僕、図書館も好きですけど、ここも好きなんです。なんだか安心して……。ティナは、お化けが出そうって言って一人で来たがらないんですけど」


 ウルは、愛おしげに本棚に整然と収まった本の背表紙を撫でる。リナリアは、ぴょこんとその隣に並んだ。


「リナリア様?」

「図書室なら、本を探しているだけですから、お隣でも大丈夫ですよね」

「……そうですね」

「今は二人ですし。なんだか、『リア』だった時を思い出します」

「リナリア様、これはいたずらですか?」

 ウルは困っているようにも見えたけれど、リナリアは上目遣いに彼を見てにっこりした。


()()()()ですよ。ねえ、ウル、ちょっとナイショのご相談があるんです。お耳をお借りしても良いですか」

「構いませんが……なんでしょう」


 しゃがむウルの耳元に口を寄せて声を落とした。


「あのね、『呪い』について知りたいんですけど……」

「のっ……!?」

 ウルがパッと顔を離す。その拍子に本棚に頭をぶつけてしまい、後頭部を押さえてへたり込んでしまった。

「あっ、ごめんなさい、大丈夫ですか!? えっと、アーキル先生に言ったら、お説教されてしまいそうだなと思ったので……」

「いたた……そ、それは、僕もご注意したほうが良いんでしょうか……。あの、その手の魔法というのはですね、術者……使った方も使われた方もダメージが大きいので、初心者は手を出さない方が……」

 人差し指を立てて説明を始めるウルに、口を尖らせて見せる。

「あのね、理由はあるんですよ。大人には言っても聞いてもらえないと思ったから、ウルにご相談したのです。お説教は後でちゃんと聞きますから、もうちょっとお話を聞いてもらっても良いですか?」


 ウルはリナリアをじっと見つめ、ため息をついた。


「……わかりました。では、机のほうに……。いくら扉が重くても入り口付近でする話ではないですし、あちらに椅子を並べてお聞きしましょう。内緒話でやりとりする必要があるかもしれませんもんね」

「ありがとう、ウル!」


 ここの椅子はアーキルの部屋と同様、少し高さがある。安定しない椅子に一人でよじ登るのは危険なので、椅子に座るときは抱っこしてもらった。ウルは孤児院で小さな子の世話をしていたからか、抱き上げるのも手慣れていた。そのまま、ウルが隣に椅子を運んでくるのを待った。

ティナは平民の生徒の帰省用に城から手配している乗合馬車で、ヨナスは自宅からのお迎え馬車で帰ります。

平民出身の生徒はティナの他に四人いるので、その四人で乗って行きます。

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