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亡国の姫は敵国の王を幸せにしたい! ~過去に戻ってわがまま姫に転身いたします!~  作者: 皐月あやめ
第三章

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親子の休日

 リナリアはヘレナと二人で母に花の冠の作り方を教わった。母は二人が摘んできた花の茎を触ってやわらかさを確認し、「このくらいの柔らかさならできるわ。こちらはブーケにしてもらいましょうね」と、使えない花をばあやに渡した。それから花と花を組んで器用に巻き付けていくのを、見よう見まねでなんとか覚える。

 勉学なら18年分予習できたリナリアも、花の冠を作るのは生まれて初めてだ。つい綺麗に作ろうと、ずれた部分をやり直そうとしているうちに茎がヘタってダメにしてしまったものが何回かあった。しょんぼりして茎がしなびた花を見ていると、後ろから聞き慣れない笑い声がした。様子を見にきた父だった。父は失敗した花を後ろから拾い上げて、それをリナリアの帽子に挿す。


「リナリアは案外不器用だな」

「思ったより難しくて……」

「リナリアは完璧主義ですからね。陛下にそっくりだわ」

「む、どれどれ」


 父がリナリアの隣に座り、なんと自分でも花冠を編み始める。リナリアは自分の作業も忘れ、ゴツゴツとした大きな手が細い花を組んでいく様をじーっと食い入るように見つめた。父は一度要領を覚えると意外にもサクサクと、かつ一定の間隔できっちりした花冠を作っていく。


(お父様が、花冠をお作りになっている……)


「あら、陛下! 細かな作業なのに、とてもお上手ですわ」

 母が嬉しそうに手を叩いた。父は褒められると、満更でもなさそうにニッと歯を見せる。

「騎士時代は料理を作ったり縄をなったり……それなりに手がかかる作業もこなしていたからな。意外とできるものだろう」

「以前私と二人で来たときにはなさいませんでしたのに」

 母がくすくす笑うと、父は母から目を逸らした。


「あの時は……お前が作るのを見ていればそれで十分だった」

「まあ、陛下……」


 父が、照れている。母は両側の頬に手を当てて少女のような顔をしていた。

 初めて見る光景に動揺して向かいのヘレナを見ると、両親の様子などは全く気にかけていないようで黙々と自分の作業に集中していた。そういえば、昔からヘレナは一度夢中になると、周りが見えなくなるほど熱中する癖があった。手元の冠はリナリアのものよりもざっくりした作りで、不恰好だったけれど、確かに完成に近づいていた。


「みんなで何してんの!」


 覗きにきたグラジオが、父が花冠を編んでいるのを見ると目を丸くした。

「父上まで、何してんの!」

「グラジオ、言葉」

「うえ。父上、何をお作りになっているんですか! それって女子がやることじゃないの……ですか」

「そうとも限るまい。お前もどうだ。手先の訓練になるかもしれんぞ」

「訓練!? やるっ……ます!」


 訓練という言葉にわかりやすく反応して、グラジオは父と母の間に座って母にやり方を教わり始めた。親子五人で輪になって、それぞれに花冠を作る。リナリアは先ほどよりも少しリラックスした気持ちになって、あまり綺麗に作ることを意識しなくなった。完璧な花冠を作るよりも、ちゃんと完成させたかった。

 母が完成した花冠をヘレナの頭にそっとのせる。ピンク色の花を中心に作った冠は、ヘレナによく似合っていた。おとぎ話に出てくる妖精のようだ。実はこの辺りにも花の精霊がいたりするのだろうか。


「できたあ!」


 ヘレナが嬉しそうな声をあげて、花がぴょんぴょんと飛び出した不恰好な冠を掲げて立ち上がった。父とグラジオが声に反応して顔を上げる。

 ヘレナはきょろきょろとみんなの顔を見回してから、最後ににっこりとリナリアに笑いかけた。


「おねえさま、おぼうしとって!」


 言われた通りに帽子をとると、ヘレナがちょこちょこと近づいてきて、リナリアの頭に自分の冠をのせた。それから満足げに手を叩く。その様子が可愛らしくて、リナリアも自然に微笑んでいた。


「おねえさま、おはなのかんむり、とってもおにあいだわ!」


「ありがとうヘレナ。ヘレナもとっても似合っているわ」

「うむ。ヘレナ、きちんと完成させられて偉いじゃないか」

 父が笑って、自分が作った冠を隣のグラジオにぱさっとのせた。グラジオは「げっ」と言って反射的に冠を取るが、その出来を見て編み目を食い入るように見つめる。

「父上、うま……お上手ですね……」

「そうだろう、ほら、父の謹製だぞ。大人しく頭にのせておけ」

 グラジオから冠を受け取ると、もう一度、今度はまるで戴冠式のように両手でグラジオの頭にのせた。

 見ることのなかった将来の図を見たような気がして、リナリアは目をこすった。父はリナリアの方を見て、にっと笑う。

「ほら、リナリアも手を進めなさい。それができたら父の頭にのせてくれるだろう?」

「は、はい! もう少しです」


 慌てて自分の作業に戻る。横目でグラジオを見ると、リナリアの作り始めの頃のように綺麗に作ろうとして何度か失敗していた。母がくすくす笑って、失敗した花を、グラジオの髪に挿していく。

 リナリアがなんとか完成させた花冠は、ところどころ隙間が空いていて、とても上手とはいえないものだった。こんな不完全な代物を父とはいえ国王の頭にのせるのは躊躇われたけれど、父がスッと頭を差し出したので、自分と同じ黒い髪の上に花冠をそっと乗せた。父は目を細めて、リナリアの髪を撫でてくれる。少し遅れてグラジオも小さめの花冠を作り、母の頭にのせた。大きさこそ小さいけれど、リナリアよりきっちりと上手に作れていて、兄としてのプライドを感じさせる。

 家族全員の頭に花冠がのったのを確認すると、父はヘレナを片手で抱き上げて「そろそろ昼にするか」、と従者たちが用意した休息所へ歩き出した。


 昼は、城のコックが作ったサンドイッチや、スコーン、小さなケーキなどを分け合って食べた。リナリアは、これが絵本で見たことがあるピクニックというものだと気づいた。

 父と兄が早めに食べ終わり、腹ごなしだと訓練をしに、少し外れたところまで歩いていく。ヘレナははしゃぎ疲れて母の膝を枕にうとうとと眠りかけていた。リナリアはまだ食事の途中だったが、自分の帽子を取って、父と兄の訓練を見にいくことにした。

 兄は従者のユクスに持たせていた木刀を構え、対する父は丸腰だ。硬い素材の上衣を脱いでリナリアの足もとにポンと放る。

「それの上に座りなさい」

 護衛の騎士たちが一定の間隔で周りを固めて、父と兄を中心に円形のスペースができていた。それはちょうど試合の舞台のようだった。父の上着をお尻に敷くのは気が引けたけれど、そう言われたのでそうっと座らせてもらう。

「さ、どのくらい上達したのか見せてもらおうか。どこからでもかかって来なさい」

 父が人差し指をくいくいっと曲げて、グラジオに挑発的に合図した。グラジオが息を吸って、木刀を構える。

「やあっ!」

 助走をつけて剣を後ろに振りかぶるグラジオ。胴を狙って横薙ぎに迫る木刀を、父は難なく横へ跳んで回避する。グラジオは空振りの勢い余って体勢を崩したが、堪えて片足を強く踏み込む。今度は頭上に剣を振って、肩を狙いにいくがダンスのステップのような軽やかさでくるりと避けられる。兄の力いっぱいの攻撃は、父に届かない。

 父はしばらく騎士としての訓練はしていないはずだが、こんなに動けるものなのかとリナリアは思わず見入ってしまった。騎士としての才能もある人だとは聞いていたが、父が武術の腕を披露するのを目の前で見たのは初めてだった。まだ三十代である父は、もしかしたら騎士としてもまだ現役でやっていけるのかもしれない。

「くっそー! なんで一発も当たらないんだ……」

「グラジオ、剣が大振りだ。ためている間に動きが読まれるぞ」

「はあっ!」

 今度はジャンプしてその勢いで振り下ろす。父が怪我をしたら、と一瞬ヒヤリとしたけれど、父の方は余裕なもので僅かに笑って斜め後ろに跳んだ。木刀がざくっと地面に刺さったところで、父がグラジオの頭を手刀で軽くトンッと叩いた。

「ほら、終わり」

「やだー!! もう一回やって!! もう一回!!」

「お前は剣に頼りすぎだ。剣を振り回しているようで、剣に振り回されているから体勢が崩れやすく、軌道を読まれやすい。一度それを捨てろ。この機に体術を教えてやる」

 グラジオが汗を拭って、カランと木刀を投げ捨てた。

 と、そこで急に強い風が吹く。ざあっと花や木が揺れる音がした。思わず目をつぶったら、帽子が風にさらわれてしまった。


「あっ」


 森の方へ飛んだ帽子を追いかけて、走り出す。後ろから兄の声が聞こえた気がした。


「すぐに戻りますから!」


 振り返って手を振り、そのまま帽子を追って木々が茂る森の中へ入った。

父は三十代半ばくらいです。母は二十代後半。

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