レガリア王国滅亡の物語
クロックノックが語るところによれば、こうである。
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あの日、アルカディールは突如宣戦を布告。その日のうちに騎士団が正面から攻め入ってきた。
レガリアの騎士団のほとんどはそれを抑えに出動していたが、バーミリオンは少数の魔法精鋭隊を引き連れ、転移魔法で突然城内に現れた。制止する衛兵や城に残った騎士を全て吹っ飛ばし、あっという間に玉座に到達。レガリア国王を手にかけた。
その場には王妃がいたが、ショックを受けて発狂。グラジオがヘレナの手をひいて玉座へ駆けつけたとき、そこには事切れた父の遺体の前で返り血を浴びたバーミリオンが立っていた。
激昂したグラジオはバーミリオンに斬りかかるも、魔法の剣はグラジオの剣をいとも簡単にいなし、制圧してしまう。剣の訓練で一度もバーミリオンに負けたことのなかったグラジオも、アルカディールの誇る魔法の力には勝てなかった。バーミリオンはグラジオに剣を突きつけ、「投降するならば命は助ける」と告げるも、グラジオはそれを即座に断った。
ヘレナは目の前で起こったことの恐ろしさにただ震えるばかりで、あっという間に連行されてしまった。
バーミリオンがリナリアの部屋に向かったのは、その後のことであった。
結局のところ、魔法技術に長けたアルカディールは、いつだってレガリアを征服することができたのだ。今までの関係は、「アルカディールが攻め入らない」ことを前提にした、薄氷の上の友好関係だったのである。
バーミリオン直々にいくつかの調書を取ったのち、一週間後には王妃、グラジオと、アルカディールへの帰順を拒んだレガリア騎士たちの処刑が決まる。
バーミリオンは顔色ひとつ変えず、一切の処刑を見届けたという。
ヘレナはバーミリオンの年の離れた弟ライムの婚約者として据えられる。こうしてアルカディールはレガリアを吸収した。
いくつかの小競り合いや抵抗勢力も全て鎮圧した頃には数多の血が流れ、バーミリオンは「真紅王」と呼ばれるようになる。
侵略の大義名分は、「神の恵みを正しく享受するべき人々を悪政から解放する」というものだった。宗教戦争のようだが、信教だけの問題ではなかった。実際、レガリア王国では密かに魔法を学ぶ者や、魔力が強すぎて暴発してしまう者は「悪魔の子」と差別され、元々土地に住んでいたエルフや精霊など異種族たちも差別の対象だった。虐げられていた者にとっては、確かに救済に思えたかもしれない。
レガリア滅亡後、旧レガリア国民は老若男女に関わらず、魔法教育を受けさせられた。これは魔法についての「正しい」知識を習得し、魔法が暴発しないようにする義務であって、拒否するものには容赦なく罰が与えられた。過激な政策であったが、魔法が使えるようになった旧レガリア国民は短期間に急速に増え、生活魔法の普及により各地の生活の水準は上がった。若い世代は新しい教育によって、魔法への認識を改める者も徐々に増えていく。
バーミリオン自身も王子時代から魔法の研究者であった。国王として混乱した内政を整えながら、王子時代に創設した魔法研究施設を率い、新たな魔法を研究・開発させて専門家を驚かせた。なお、彼の魔法能力は秘されており、バーミリオン自身が何の魔法を使用できるのかについては王弟ライムすら知らなかったという。
バーミリオンはアルカディールの国王として愚かな部類ではなく、むしろその在位中は国を発展させたと言えただろう。
しかし、英雄と呼ばれるにはバーミリオンは苛烈に過ぎ、血を流しすぎた。
悲しみの上に立ち上がったのは、辺境に領地を持つ男爵令息フォルド・グリフィンだった。彼は王城で騎士見習いをしていたが、レガリア陥落の日、彼はたまたま王城から離れた自領に帰省しており、捕虜にならずに済んだのである。
当然領地に追手は差し向けられたが、フォルドは落ち延び、諸国を回って仲間を集めた。騎士見習い時代には禁じられていた魔法をも身につけ、来るべき時に備えていた。
フォルドはヘレナとひそかに相思相愛の仲でもあった。だから、滅亡から7年後。ヘレナとライムの結婚式の日取りが決まった時、彼女を助けるべく蜂起を決行した。フォルドは集まったさまざまな種族の仲間たちと共にアルカディールと戦い、最終的に王弟ライムも味方につけて、ついに国の仇バーミリオンを討ち、レガリアの国とヘレナを取り戻したのである。
その後、レガリアは新たにアルカディール国王となったライムによって正式に王女であるヘレナに返還され、ヘレナは愛するフォルドと結婚。囚われの姫を救った英雄との結婚は国民からも祝福され、レガリアは今度は「魔法」と共に新しい歴史を作っていくのであった。
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