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レガリア騎士の矜恃

 少女が欲しいと叫んだリナリアを見る騎士たちの表情は、困惑したり呆れたりといった感じだ。

 クローブがリナリアを指差しながら詰め寄ってくる。


「リナリア、ずるいぞ!! グラジオに鷹をやったのはオレなんだから、リナリアよりはオレがもらえるはずだぞー!?」


 グラジオはしばし呆然としていたが、クローブがリナリアに詰め寄るのを見て、その間に割って入る。


「ま、待て待て。それなら、ムートの飼い主は俺だぞ」

 年長の騎士がため息をつく。

「……リナリア様、いくらリナリア様が魔法に対抗する術を学んでいらっしゃっていても、異種族は愛玩用には向きませんし、おもちゃでもございません」

 あまりの言われように、リナリアはひるんでしまった。


(そ、そんなひどいこと考えていませんのに……)

〈はァー、不愉快極まりないが、現在のレガリアでは精霊を人間とみなしておらんやつがおるのじゃな。国民全員そうだとは思わんが……上級精霊も動物と同様に扱うのは本当に本当に野蛮で腹が立つ……!〉

(そ、そうです。ひどいです。ここで負けてしまっては、あの子はひどい扱いを受けるかもしれません……頑張りますっ)


 リナリアは、きっと目力を込めて騎士を見上げた。


「わっ、わたくしは、あの子をおもちゃになんていたしませんっ! わ、わたくしの、管理のもとっ、せん、専門のっ、先生にご相談してっ、しかるべき措置をとるのです。魔法や異種族の関係のことは、騎士団は検閲官と連携するべきではないでしょうかっ!!」


 必死に訴えるリナリアの肩に、グラジオがぽんと手を置いた。


「俺も、リナに賛成。もちろん、ちゃんと父上に報告するけど、あの子を連れて帰るんなら検閲官見習いのリナにいったん預けよう」

「しかし、殿下……」

「この中で魔力や魔法について一番知ってるのはリナだ。あの子の種族? も知ってたし。それにリナは神官見習いもやってるから、魔法にダラクしない」

 淡々と語るグラジオは大人びていて、騎士たちも顔を見合わせて黙る。


「なあなあグラジオ、オレは?」


 グラジオはクローブの問いに、目をつぶって首を振った。


「だめ。うちの森の精霊だから」

「えーーー」

「ちゃんと自分の国で探せよ」

「あーあ。やっぱりリナリアがオレのコンヤクシャになればいいのにな。そしたら、レガリアの物もサハーラに持っていきやすくなるのにさあ」


 クローブの言葉に、騎士たちが警戒心をあらわにした。不穏な空気を感じてか、ラビィが慌ててクローブの腕に抱きつく。


「も、もー、兄さまったら! そんなことを言ったら、その分サハーラからも持ち出さなくちゃいけなくなるじゃない!」

「え? そうなのか? オットの方が強いんじゃないの?」


 首を傾げるクローブに、グラジオが頭を抱えた。


「あー……なんか話がややこしくなってきたな。えーと……じゃあ、その子は、いったんリナリアに預けるってことで決定な。今日はもう帰るとして……どうやって連れて帰るか、だけど……」


「あまり民の目に触れるのも不安を煽りますから、不本意ですが馬車に乗せて行くのが良いかもしれません。殿下がたがお乗りになっていたのとは別の予備の馬車がございますから、そちらに」


 グラジオは頷いてソティスを見る。

「ソティスは強いから、そっちに回ってもらったほうがいいな。えーと、じゃあ代わりの騎士は……オルセンで!」

「はっ、はい!」

 去年、雪用の馬車の準備に駆り出されていた若い騎士が、指名されて背筋を伸ばす。

 そこへ、先ほどソティスと小競り合いした騎士が「お待ちください!」と前に進み出た。

「殿下。ソティスはあれを擁護するようなことを言っておりました。あれのそばに置くのは得策ではないのでは?」

 グラジオは「はあ」とため息をついた。

「お前……名前はシャーデンだよな、確か、モーリッツ部隊の騎士。ソティスを悪く言うのもそのくらいにしておきなよ」

「わ、私は殿下や国のためを思って……」

 グラジオが腕を組んで、シャーデンを睨み上げる。

「そのくらいにしておけって言ったんだ。ソティスを俺の護衛に任命したのは誰か知ってるよな?」

 シャーデンはハッとしてその場に跪いた。

「こ……国王陛下でございます」

「そうだよ。父上が、()()()()俺の護衛に任じたんだ。それは、ソティスは信用できるって国王が認めてるってことだぞ。ソティスを疑うことは、父上を疑うようなことだ」


 リナリアは、複雑な気持ちで兄を見つめた。グラジオは、父の威信や自身の権威をかさに着るような発言は、本来嫌っている。本当はこんなことだって言いたくないだろう。


(でも、ソティスの立場を守るため、なのですね)


「それにな、そういうことはソティスに勝ってから言った方がかっこつくぞ。俺、ソティスの戦績記録してるから知ってるけど、お前ソティスに勝ったことないだろ」

 側で聞いていたクローブがヒヒッと笑う。

「じゃあ、それでやっかんでんだ! だせえ」

 怒りでか、それとも恥辱によるものか、シャーデンが赤くなった。グラジオはクローブを手で制する。

「まあそのくらいにして。シャーデン、さっきのケンカもお前がソティスを挑発したことが悪いと思ってるけど、そこは父上に報告しないでおいてやる。これからはちゃんとかっこいい騎士になってくれよな」

 ラビィが手を合わせてうっとりとグラジオを見た。

「グラジオ様……すっごくすっごくかっこいい……」

「やー、ほんとう、王子様もまだお小さいのにすごいですね。ディートリヒ坊ちゃんと同い年なんですよねえ」

 ベティもうんうんと感心した様子でグラジオを見ていた。比較されたディートリヒが「う」と声を漏らす。

「ベティ、グラジオさまと比べるなんておそれ多すぎるから、もう言わないでね……」

「はっ! そうですよね! すみません、不肖ベティ、一言多いのが欠点でございまして、今後気をつけます!」

 ディートリヒが申し訳なさそうな顔をしてリナリアの方を見た。

「リナリア様、すみません……。ベティはとても優秀なんですけど、ちょっとこういう……なんていうのかな、うっかり? なところがあって……」

「大丈夫です。わたくしは気にしませんよ」

 リナリアはディートリヒににっこり笑ってから、騎士たちに近づいた。


「その子と同じ馬車にわたくしも乗ります。ソティスがいるなら安心ですし……ベティと、侍女のクロノにもついてきてもらいます」

「いえ、そんな! 王女を危険に晒すわけには」

 焦る騎士たちに、胸を張って見せる。

「わたくし、相手が急に魔力を発動したときの対処法を知っておりますから」


 ハッタリだった。

 頭の中でクロノが呆れたようにため息をついていた。


〈われの光の防護壁頼りじゃな?〉

(そ、そうです。あの、またその魔法だけでも教えてくださると助かります……)


 グラジオが「おお」と感心した顔をする。


「リナ、もうそんなこともできるのか。かっこいいじゃん。じゃあ、リナはその子と一緒の馬車で頼むよ。悪いけど、ラビィはヘレナのこと頼んだ」

「はあいっ! ラビィ、ヘレナと仲良くできます」

 ラビィが元気に手をあげる。年長の騎士はまだ不満げだった。

「……王女殿下が同乗するのならば、もっと厳重に縛って猿ぐつわも噛ませておいた方が良いのではないでしょうか」

 騎士からの手荒な提案に、リナリアはぶんぶんと首を振った。


「や、やめた方が良いですよっ! あの、その子はまだ魔法を知らないようです。身体や精神に負担が大きすぎると、暴走を起こす可能性がありますので……えっと、むしろできるだけ安心できるようにしないといけません」


「しかしそれは……」


 言い淀み、渋る騎士に、グラジオが腕を組んで胸を反らす。


「あ、の、さ。子どもをぐるぐるに縛って連れて行くのは、騎士がすることじゃないだろ。騎士団が寄ってたかって子猫を縛りあげるみたいで、レガリアの王子としてすっごくイヤだ。もし何かあったときのセキニンを受けるのが怖いなら、俺のセキニンだから気にするな」


 グラジオの言葉を受けて、年長の騎士は改めて跪く。


「まさか、責任逃れではございません。王子殿下がレガリア騎士の矜持を説かれるならば、騎士として……お言葉に従いましょう」

「うん、そうしてほしい。じゃあ、もう帰ろう。その子の手を縛ってるベルトのヒモは、ソティスが持ってくれ」

「……はい。わかりました」

 ソティスが静かに騎士の礼をした。

 その後グラジオはウンディーネの少女に近寄ろうとしたが、騎士たちが壁になって止めた。グラジオは「やっぱダメか」と肩を落として、「おーい」と騎士の壁の向こうにいる存在に声をかける。


「おーい、精霊の女の子! 俺はグラジオ。あんたの名前は?」


 ウンディーネの少女はびくっとして、おそるおそる騎士たちの隙間からグラジオを見ようと体を傾けた。まだヒモを持っていた騎士がくんっと引っ張って、とすっと尻餅をついた。

「きゃっ。ええと、ええと、なまえ、わたし、ファルン……」

 

「ファルン。これから、俺たちと一緒に城に行くことになるからな。大人しくしててくれよ……って、なんか悪役みたいでヤダな……抵抗しないでくれると、こっちも何もしないでよくなるから」


 グラジオはそう言って、くるっと回れ右をして自分の乗ってきた馬車に向かった。ディートリヒがリナリアとラビィに礼をしてからそれについていき、ユクスは鷹のケージを確認して走って追いかける。クローブは少し残ってウンディーネの少女に興味を示していたけれど、騎士が見せないように立ち塞がるので飽きて馬車に戻った。

 リナリアは騎士の前に行って、咳払いをする。

「道を開けてください。その子の隣に行きますから」

 騎士たちが顔を見合わせて道を開けた。リナリアは、びくっと怯える少女に、できるだけ優しく笑いかけた。

「一緒に行きましょうね、ファルン。大きい人たちに囲まれてこわかったですよね。ここからは、わたくしも一緒に行きますからね」

 ファルンはまだ怯えているようだったが、それでもリナリアの目を見てゆっくりうなずいた。ばあやが不安げにリナリアを見つめていたので、リナリアはばあやにも微笑んだ。

「ばあや、わたくしは大丈夫ですから。ヘレナとラビィについていてあげてね。少し人数が減ってしまうけれど、お菓子がまだあったら食べさせてあげてください」

「かしこまりました、姫さま。くれぐれもお気をつけくださいまし」

「リナリア王女様は、不肖ベティが必ずお守りいたしますので、ご安心くださいばあや様!!」

 ベティがふんッと鼻息荒く意気込んでいた。拘束のヒモを受け取ったソティスは、わかりやすくブスッとした顔で少女について歩き始める。

 馬車に着くと、まずソティスが乗り、ファルンをひょいと抱き上げて乗せた。続けてクロノが乗り、同じような動作でリナリアを抱き上げてぽすんと椅子に座らせる。最後にベティともう一人騎士が乗り込んで、馬車の扉は閉められた。

 年長の騎士が馬に乗って先頭に立ち、リナリアたちの馬車は城に帰還するために走り出した。

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