雪だるまロックンロール
えーっと、緊急事態です。
私は今、神の住まう霊峰シュメナ山を、ほぼ山頂より全速力で転がり落ちている真っ最中だったりします。
どうしてこんなことになったのか? それにはとても複雑な事情があるので割愛させて頂きますが、転がり始めて既に数刻。最初は私の体を少し覆う程しかなかった雪が、いまや小さな街であれば簡単に呑み込んでしまうほどの、巨大な一つの塊にまで成長しました。
ちなみに、その威力は霊峰を守護する古竜が数十体、私の体? に潰され瞬時に轢死するほど。
おかげで私のレベルは最大値の999まで上昇しました。
……経験値うますぎじゃ無いですか? さすが古竜の名は伊達じゃありません。
それはさておき、暴走する厄災と化した私は、音速に匹敵する速度で霊峰シュメナ山を転げ落ちていきます。
一体どれだけの高さがある山なんだって突っ込みたくなりますが、そこは神の住まう霊峰。そんじょそこらの小山と一緒にしてもらっては困ります。
さて、ヒマになってきました。そうだ! 誰も見てないんだし――
「領域てっ……う゛っ。気持ち悪っ」
失礼。声を出したら雪が喉に入ってしまいました。そりゃあ、そうですよね。街一つ呑み込むほど巨大な雪玉の中心にいるんです。私に掛かる雪の圧力は計り知れません。
じゃあ、なんで潰れないんだって?
それは何を隠そう、私は異世界より召喚された勇者だからです。しかもレベル999! 本気出せばこの程度の雪の塊、ものの数秒で振り払うことだって出来るのです。
まあ、そろそろこの状態にも飽きてきましたし、軽く実証して見せましょうか。ていっ!
……あれ? 壊れない?
ていっ! ていっ! おりゃあぁああっ!
これは困ったことになりました。このままでは本当に街に被害を出してしまいます。
なんとかしなければ。
とはいえ、いい方法なんてなにも思いつきません。
途方に暮れそうになったその時、雪全体を凄まじい振動が襲いました。
そして、気がついた時には、私の体は割れた雪だるまから放り出され、空中で何者かに抱き止められていました。
恐る恐る目を開いて、ゆっくりと見上げた視線の先にいたものは、涼やかに微笑む黒髪黒目の少年。
彼こそは私の旅の最終目標。異世界より現れし漆黒の魔王。
「体冷え切ってるけど大丈夫か? それにしても、あんな遠くのシュメナ山からこの魔王城まで雪だるまになって特攻とは、さすが異世界の勇者だな」
はい。こんなの運命感じちゃうに決まってるじゃ無いですか。