VAMPIRE WOMAN
『楽に死なせて下さい』
君との出逢いは満月の夜。
その夜も若い新鮮な血を求めて牙が疼き出していた。
満月の夜は小ぶりの口から鋭く尖った牙が隠せない。
声をかける相手はいつも若い男。大半が悲鳴をあげて逃げるか腰を抜かし泣いて命乞いをする。
夜の街を一人で歩いてる君を狙っていつも通り声を掛ける。
『君の血はどんな味だい?』
だが君の反応は驚きもせず冷めた様子。
絶命を願う君が命乞いもせず私に身を任せる。
『本当に死にたいの?』
私は少し驚いた声で君に確認した。
君は余命半年と医者に宣告され、それを心配してくれる家族も友達もいない。好きな相手には自由にさせてと逃げられるしまつ。
生気の無さと死んだ目が特徴的だった。
そんな君の血を吸ったところで私の興奮はおさまらない。
『そんな血は要らない』
君の首元を尖った牙で一刺し。このまま首をへし折ってもいいが何の快楽にもならない。
いつもなら人間の血を吸いきるのに30秒も掛からないが今日はすぐに牙を抜いた。代わりに自分の指を噛み黒い血を刺した首元へ流し込んだ。
古来よりバンパイアの血がまじった人間は活力が溢れ剛気と化す。
『私の血が再び君を生かすのだろうか』
生き甲斐を感じた頃にまた君の元へ現れる。そう言い残して私は君の前から姿を消した。
1ヶ月が経過し活性化した君の血を求めて足を運んだ。だがそこには君の姿は無く、見た事の無い笑顔の写真が飾られていた。
友人のふりをして参列した御葬式。
棺の中の君はとても美しく笑顔でした。
関係者によると、結局私の血でも病魔には勝てず半年持たなかった。ただ私と会ってから死ぬまでの間、彼はここ最近に無い笑顔で生きていたようだ。断言出来ないが私の血が彼の最期を明るく照らしたのかもしれない。
満月の夜に君に会わなければ、今頃君はまだ生きていただろうか。頬を伝う涙。私の中で今まで知らない感情が芽生えていた。私は彼の事を…。