狼獣人
獣人と人間、魔物も入り交じって暮らす世界です。
ここの店に初めて来た日を、忘れたことは無い。
狼獣人 クウリ
そう俺様を呼ぶ者は、この国中探しても、ファンファンの店主と常連客だけだろう。
普通は、団長と呼ばれる。
帝国軍 第一騎士団 団長と。
獣人であることを誇りに思ってはいるが、この世界では嫌な思いをすることも、そりゃあある。
特に俺様のような庶民上がりの獣人は、貴族から下に見られる。
団長になった今でも。
あの日は、団長になって初めての討伐戦で成功を納め、栄誉を讃えられ、報奨を貰った日。
第一騎士団は、城での祝賀会を終えて、街へ繰り出した。
もちろん、俺様が指揮を取って。
有名人だから、街ゆく人々からは、誉め讃えられ、拍手で見送られ、騎士団の連中も、いい気分になってた。
だから、普段は入らないような貴族しか来ない超高級店の扉も開けた。
「獣人と一緒に食事なんて、出来るはずないだろう!臭くて耐えられん!」
そう奥の部屋から聞こえる。
その貴族は、獣人を余程お嫌いらしい。
なんとかしようと骨を折る店員に申し訳なくなり、自分から他の店に行くと伝えた。
騎士団の面々にも、微妙な空気が流れた。
その店を出てプラプラと歩いていると、他の団員が『ファンファンという店がある』と話し始めた。
美味しいのに、安くて良いと密かな評判の店。
面白い、とそこへ全員で向かうことにした。
今度は獣人を理由に嫌がられないことを心の底で願いながら。
「ご注文はー?」
小柄なゴブリンが注文を聞きに来た。
は?ゴブリンが店員?と驚いていたが
店主は、まさかのオーガだった。
兵士にはオーガもいるが、街の料理屋??
それが花柄の前掛けをして、頭に花を飾ってる?!
あまりの衝撃に、言葉が出ない。
「ま、、、まかせる」
ようやく絞り出した。
次々と出される酒。
「すみません、他の料理も段々出てくるので、ひとまずこれを食べて待ってて下さい」
ゴブリンが置いて行ったのは、ランプフィッシュ?何か一緒に混ざってる?初めて見る食べ物だが、きれいに飾り付けもされてる。
「これはなんだ?」
「ランプフィッシュの塩漬けラビオート和えです。とっても美味しいですよ!」
にこにことゴブリンがそう言った。
俺様は、その見た目から、大概の店で肉の丸焼きを出される。
高級店でも、そうでなくても。
肉の丸焼きだって、もちろん好きだ。
だが、もっと別の物も食べたいと内心思っていた。
けれど、狼獣人がチマチマとした料理を食べていたら笑われる気がして。
目の前のランプフィッシュを食べたら、そんな俺様の心がスっと軽くなった。
「、、、美味いな」
団員達も美味い美味い、と大喜びで食って飲んだ。
その日は、第一騎士団にとっても、俺様にとっても、温かい思い出となった。
あれから、ここには足繁く通っている。
ランプフィッシュは、もう頼まなくても出てくる。
ここでは、ただの常連客クウリとして、今日もファンを面白おかしくからかって、酒を飲む。
生きてれば、良い事49
やな事51の比率ですよね。