表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

ハートフィル侯爵の掌

お読みくださりありがとうございます

 

 カイルは本をアルムに無事に返し終えた。

 ライラがチェスター伯爵からの姉への荷物をまだ受け取っていないというので、まずは伯爵の所へと向かうこととなった。


 チェスター伯爵は何処に居るのかと聞くと、内政大臣の所へ来ているらしい。

 ハートフィル侯爵の所かと、カイルは内心、面倒だと考えた。

 なぜなら、ハートフィル侯爵は、かなりの曲者貴族だからだ。


 幼馴染の父親だが、昔から苦手だ。

正直、あまり関わりたくない。

 俺の中の危険人物リスト、不動の一位を常にキープしている。

 あの人に頼まれごとをされたら断れる自信が全く無い。

それほど厄介な人物だ。


 あ~出来たら会いたくない……あの人はマジでヤバイから。



 内政大臣室のドアをノックし許可が出たので部屋に入ると、そこにはリナが居た。


 ライラがアレクシス殿下の離宮を出てから一向に帰ってこないので探していたそうなのだが、体力の限界が来たそうだ。

 きっと荷物を取りに来るであろうと、チェスター伯爵の居るこの部屋に来たという。


 そして、侯爵の部下が代わりにライラを探しにいってくれているらしく、ここで待機していたとのことだ。


「よかった。すれ違わなくて。あのあと、ソフィアの所にアレクシス殿下が来たの。それから、彼のプレッシャーに負けて、私も離宮を出てきたのよ。あの調子だと、第二子誕生も直ぐだわ……ああっと、ごめんなさい。ライラの前でこんなを、はしたなかったわね。とにかく、ライラは離宮には戻らない方がいいわ。荷物は私が預かるから。」

 リナは失敗したという表情で、ライラへ伝える。


 ライラは何も理解していないようで、キョトンとした顔で分かったとだけ返事をした。

 そんな純粋なライラを見て、リナはさらに反省した。


 カイルはそのやり取りを見ていて、とてもイライラしていた。

 ライラに対して過保護過ぎだと思ったのだ。

 この娘は社交界デビューをしているのだ、もっと常識を知るべきだ!!


 先程のような危うい場面を目にしているので、きちんとした知識や自分が狙われるという意識を持つべきで、護衛を付けるとか、回避する方法を持つべきだと考えたからだ。


 しかし、この過保護軍団は全く危険管理意識を持っていない。


 ダメだ!このままでは、ライラ(この娘)が危ない気がする。

 俺が、何とかしてやらねば!


 カイルはお節介を焼いた。

「あの、御子女の事ですが、先程、男性からの接触で危うい場面を見かけました。もう少し御子女に危機感を持つように教育なされた方が良いのではないかと……」


「ライラに何かあったのか!?教えてくれ、何があったのだ?」

 チェスター伯爵が激しくカイルに詰め寄る。


「あ、あのですね。御子女が、変な男に絡まれていたのですよ。それも次々と……だから、俺はもっと彼女に危機感を持って――—」

 カイルは肩を、伯爵にガクガク揺らされながら、精一杯伝える。


「なんてことだ!?ライラ、大丈夫か?酷いことをされていないか?怖い思いをしたのか?どんな奴だった、覚えているか?父さまが懲らしめてやるから、さあ、その男の特徴を言いなさい、探し出して八つ裂きにしてやるから。」

 カイルの言葉を遮り、カイルから手を離すと娘を抱きしめ心配するチェスター伯爵。


「そんな人いなかったわ。皆、一生懸命働いている人ばかりだったわよ。そうだ、私、あの有名なエルナス・ダルシエ に会ってお話したのよ。凄いでしょ!」

 伯爵に抱きしめられ頭を撫でられて、嬉しそうにニコニコしながら話すライラに、カイルはさらにイラっとした。


 嘘だろ……ライラ(こいつ)、さっきのセクハラ(あれ)を無かったことにしていないか?

 ちっとも危機感がないぞ。


 泣きそうになっていたくせに……。

 俺は大きくため息をついた。


 その様子を見ていたハートフィル侯爵が口を開いた。


「チェスター伯爵、どうだろう先程話していた件を彼に頼んでみるというのは?彼はアルムの嫁さんの弟でね、とても優秀な青年だ。名は、カイル・モーリスと言う。」


 なんだ?ハートフィル侯爵が何か言いだしたぞ?

 もの凄く嫌な予感しかしないんだけど……。


 ……よし、逃げよう!

 今すぐに逃げないといけないような気がする!!


「それでは送り届けましたので、私は任務に戻らせていただきま――」

 カイルが逃げようとした時にリナが話を遮る。


「うん、カイルならばピッタリだと思うわ。私も、昔、よく商会へ出向くのについてきてもらっていたから。それに彼は優秀だからアドバイスをしてくれるはずだわ。何より、剣術も凄いけど、体術も強いから、街でのボディーガードにはうってつけの人材ですわ。おじ様。」

 リナが嬉しそうに俺を褒めて、何やら後押しした。


 いやぁ、リナに褒められて凄く嬉しいけど、今は本当にそう言うの止めて。

 本当にマジで、何だか分からないけれど巻き込まれたくないから。


「それでは俺はこれで――」

 俺が再び退室の挨拶をしようとしたら、またもや遮られた。


「そうだな、君達親子からの厚い信頼、彼にお願いしようかな~。」

 そう、チェスター伯爵が声を明るくして話し、何やら決めたみたいだ。


 おいおい、いったい何の話だ?

 聞きたいけれど、でもこれは内容を聞いてはいけないような気がする……。

 聞いた瞬間に、これはきっと捕まる。


 面倒ごとに巻き込まれるのは絶対に御免だ。

 早く逃げたい!

 今すぐ逃げ出したい!!やべーぞ。


 もう一度、退出の挨拶をしようと口を動かした瞬間。

「では、モーリス殿、お願いしますね。」

 と、チェスター伯爵からお願いされていた。


「カイル、ライラ嬢を頼んだぞ。」

 ハートフィル侯爵が間を空けずに力強く念を押してくる。


「カイル、私の時の様に、商談で気づいた点とか、ライラに優しく教えてあげてね。頼りにしているわ。」

 リナが続いて後押ししてきた。


「お、おいちょっと待て。いったい何の話をしいる?俺は何を頼まれたんだ!?」

 話が進んでしまうので慌てて俺は止めに入り、内容を聞いた。


 その瞬間、ハートフィル侯爵の眼鏡がキラリと光った気がした。


 そして俺も気が付いた。

 あ、これでもう、俺は後戻りできなくなったと……。


 待ってましたー!と言わぬばかりに、チェスター伯爵が話し出す。


「おお、モーリス殿、聞き入れてくれるのですね。実は、ライラも今年、社交界デビューをしたので、商談関係を少し手伝わせようと話をしていたのですよ。なにせライラは、我がチェスター家の跡取りに、急に決まったのでね。色々と猛勉強中なのですよ。」


 完全に、巻き込まれたああぁぁぁぁ。


 カイルは肩を落とした。

 そんな中でもチェスター伯爵はライラの頭を撫で、話を続ける。


「そこで、そろそろ王都の商会に挨拶がてらお遣いに行ってもらおうと考えていたのだが……こんなに可愛い娘一人では、商会に着くまでに何かあったらと不安で仕方なくてね。その事をハートフィル侯爵に相談していたのだよ。そして君を紹介してくれたのだ。よろしく頼むよ、モーリス殿。」


 この伯爵、控えめで優しそうな見た目で、話し方も強く出ない気弱な感じの紳士という印象なのに、中身はちっともそうじゃない。


 ってか、俺、了承してないのに、引き受けた程で話が勝手に進んでるんだけど!!

 全くハートフィル侯爵家(こいつら)ときたら昔から……クソー。

 それにこの伯爵もかなりの役者だよ。


「お父様!私、もう14歳になり、社交デビューもした身です。一人で王都の商会くらい行けますわ。」

 ライラが心外だと言わんばかりに食って掛かった。


 おっ、反対してくれるのか!?


「ライラ、王都の街を甘く見てはいけないわ。特に商会の近くの路地には、良くない事を企むゴロツキが、時折、潜伏していたりするのよ。若い貴族女性の一人歩きは危険よ。私も何度か恐ろしい想いをしたことか…怖かったわ。その危機をいつもカイルが助けてくれたの。一人では危ないわ。ねえ、カイルもそう思うでしょう?」


 ちょっと、リナー!!お前なー。

 あれは、お前(リナ)が面白い情報が聞けるかもしれないと、自らゴロツキに関りにいったりするから起こっていた危険であってだな~。


 まあでも、そうでなくても、こんな年若い貴族の令嬢が街で独り歩きなど、危険であるのには間違いないなだよなぁ……この場合、どうするべき?危険っちゃー危険だよな。


「ああ、そうだな。一人は危険だ。」

 俺は同意してしまった。


「ね、だからライラ、カイルならば私が腕を保証するし、守ってもらいなさいよ。」

「ええ、分かったわ。リナ姉さまがそう言うならば、彼と一緒に行くわ。」

 ライラが受け入れた。


 え、俺と行くの?だから、何でそうなんの?


「ああ~良かった。ではこれで一安心だね。」

 ハートフィル侯爵が喜ばしいと手をパンと鳴らしまとめた。


「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ!一安心ではないですから、俺行くとは一言も返事していませんから。それに俺にも仕事がありますので無理ですよ。その用件をお受けすることは、今、非常に多忙な時期ですので、俺が殿下の傍を離れる事は不可能ですから。」


 俺は必死に断ろうとするのだが……。


「ああ、それならば大丈夫じゃないかな?そろそろ―」


 トントン、ドアがノックする音がした。


「失礼します。アレクシス殿下より、手紙を預かってまいりました。」

 と男の声がした。


「入れ。」

 ハートフィル侯爵がそういうと、カイルの部下が顔を出す。


 部下が、カイルを目にして少し驚いた表情をするが、任務が先と侯爵の許へ手紙を持って行った。

 手紙を受け取り直ぐに読むと、侯爵が笑った。


「カイル、明後日なら調整できるから一日休んで構わないそうだ。よかった、これで何も問題ない。」


 そのハートフィル侯爵の言葉に、これ以上(あらが)っても無理だと俺は抵抗を辞めた。

 この人に歯向かう事は、自分の不利益にしかならないと昔から知っているからだ。




 カイル、まんまと嵌りました。

 次はライラの護衛になりそうです。


 登場人物メモ

 ハートフィル侯爵:曲者貴族、リナの父親

 チェスター伯爵:ライラの父親


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ