ライラの性格(前半)
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午前の執務が終わり、ここの所、働き通しなので、今日の午後は妻子とゆっくり過ごしたいとアレクシス殿下が言いだした。
夕刻には国の重鎮人物の来訪があるので、それまでの間ならと了承し、アレクシス殿下が少し長めの休憩を取ることになった。
自分の離宮へ妻子の顔を見に行くと言うので、その間の護衛は離宮の配備の兵へと交代だ。
その間、カイルは暇を持て余すのである。
その時間を利用して、カイルの姉と結婚したリナの兄である アルム・ハートフィル の所へ借りた本を返しに向かうことにした。
少し前くらいから、間もなく行われる継承の儀の準備や王家の森で古代の遺跡が発掘されたとかで殿下が忙しく動いているため、カイルもほぼ休暇が無く、屋敷への帰宅も出来ず、騎士団寮での寝泊まりが続いている。
モーリス邸へと帰宅出来るならば、隣接するハートフィル侯爵邸に帰宅ついでに返せるのだが、そんな暇もない。
そのため、カイルはアルムに借りた本を返せていなかった。
だが、今日、アルムが遺跡で発掘された珍しい植物を調べに、王城へと出向いていると聞いていたので、それならばこの空いた時間に返してしまおうと彼が居るはずの場所へ向かっていた。
その場所とは王宮の敷地の端に建っている国立研究所である。
ん?あれは?
向かっていたのだが、その途中で、またもや、あの娘と出くわした。
通路横の芝生に座り込んでいる。
もの凄く面倒くさそうなので関わりたくはないのだが、顔見知りであり、リナの親友の妹だ。
この娘、前々からアレクシス殿下への無礼な態度や常識が掛けている行いを目にしてきたので、俺はあまり良い感情を持っていない。
とはいえ、このまま放っておくのはマズかろう。
チッ、仕方ねえーなー。
下を向き、足を抱えて座り込み落ち込んでいる様子だったので、とりあえず声を掛けてみることにした。
「チェスター嬢。ここで何をしているのですか?」
その声に反応し、ライラが顔を勢いよく上げる。
うおっ。
カイルの顔を認識すると、知った顔であったので暗い表情からパッと明るい顔に変わった。
そして、勢いよく腕を掴まれ、顔をグッと寄せられ、大きな声で質問された。
「ここは、ここは何処ですか??」
と、涙目で必死に尋ねるのであった。
ちょちょちょ、おちちゅけ!!
ライラを落ち着かせて、話を聞いたところ、アレクシス殿下の部屋をリナと出てから、姉の居る離宮に行き、会話を楽しんでいたのだが、姉への贈り物を父から預かり忘れていた事を思い出し、一度部屋を出て父親の許へと取りに行ったそうなのだが……完全に迷子になり、帰れなくなったらしい。
それにしても、本棟や離宮からかけ離れた、こんな場所に居るのはおかしいだろう?
少しばかり呆れながら、仕方がないので案内してやることにした。
とりあえず、目の前に研究所があるので、先に自分の用事を済ませたいと言うと彼女は了承し、この場で待つと約束した。
カイルが研究所の方へ向かおうとすると、後ろでキャッと小さく声が上がった。
ん?なんだ?
今のは、あの娘の声だったよな?
振り向くと、チェスター嬢が小柄な老人に声を掛けられている。
それだけではない、腰に手を当てられたあと、腰の下の方まで手を伸ばされ、尻を何度もポンポンと軽く叩かれていた。
え?あいつ、何やってんだ?
尻触られてるのか!?クソッ。
あいつ、なぜ直ぐに、変態の手を払わない??
鞭でとは言わないが、バチンと手を叩いてしまえばいいのに。
本当にさっきまでアレクシス殿下へ鞭で挑んでいた奴と同一人物なのか??
先程の執務室での勢いはいったいどこに行ったんだ?
カイルは急いで駆けつけて声を荒げて注意し、老人の手を掴もうとしたのだが……掴むことが出来なかった。
「何をしている!!」
「何をしているのですか!?」
ん?今、俺じゃない声もしたぞ?
誰だ?
声のした方に目をやると、そちらから大きい歩幅の駆け足で近づいてくる男装の女性がいた。
彼女の腕を掴むことが出来なかったのは、この女性が先を越し、老人の手を掴んだ、からではない。
俺が声を発する数秒前に、ライラが、また鞭を振り回したのだ……。
かなりのおお振りで、ヒュンヒュンと音を鳴らし、宙を切っている。
必死で無茶苦茶振り回しているので、ライラに近づけないし、エロじじぃも腰を抜かして、地面に尻もちをつき、その場から動けなくなっている。
じじぃの頭上を鞭が舞う……あの位置から少しでも動いたら危険だ……。
まあ、こうなるとは予測していたが、予想外に反応が遅かったと少し不満に思う。
駆けつけた男装の女性も俺も、振り回される鞭を目にして、その場で少し躊躇する。
このまま、あのエロじじぃに当てて、痛い目を見させてからと思わなくもないのだが、ライラが正気に戻った時に、嫌な思いをするのは可哀そうだし、怪我を負わせたら後々面倒だろうなと考えて、とりあえず、カイルは鞭を止めることにした。
それじゃあ、やるか~。
カイルは、にじり寄り、ライラが振り回す鞭の先端が届く距離まで近づくと、機会を窺った。
カイルの方へと鞭が向かってきた瞬間、先端を素早く掴んだ。
その瞬間、グッと力を入れて、思い切り鞭を引き寄せる。
その反動で、ライラが引っ張られ、前のめりで膝をつき、地面に手をつく。
そして、鞭を手放し止まった。
老人の方を見ると、男装の女性が老人の許へ早足で駆けつけていた。
そして素早く懐から太編み紐を取り出すと、女性は老人の腕を布で縛り上げた。
老人を若干引きずりながら、チェスター嬢に向かってきて、話し掛ける。
「あの、お嬢様、大丈夫でしたか?嫌な思いをされましたよね。大変申し訳ありませんでした。」
と、深々と頭を下げた。
その間に、カイルはチェスター嬢が涙を堪えて、唇を震わせているのに気づく。
彼女がとても恐ろしい思いをしたのだと、今さら気がついたのだ。
あっ、怖かった……のか?そうか、怖くて動けなかったから、鞭が遅れたのか……。
そうか、怖かったのか……それなのに頑張ったのか……あいつ。
なのに俺は……。
鞭を振り回し抵抗するような女なのに、男に触られるという恐怖を我慢し、勇気を振り絞って行動したのだと、今更分かり、心から反省した。
世の中、自分の姉やリナのように、堂々と何倍もやり返せる女は珍しい部類なのかもしれない。
そう改めて考えさせられるのであった。
今までにない変わったタイプの女性、ライラの出現です。
後半に続きま~す。
セクハラは許すまじ