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エドワードの外交

お読みくださりありがとうございます


 チェスター家を訪れた翌翌日には、カイルはエドワードと共に、シュタルク帝国へ向けて出立していた。


 今回のエドワードの任務は、この前の強奪犯事件から辿り着いた闇組織ドグラとの繋がりを詳しく調べる事である。

 そして、この広範囲で悪事を働く闇組織を東大陸の国々が協力し合い解体する体制作りを命じられた。

 カイルはそのエドワード殿下(・・)の護衛兼補佐として、東大陸の国々を廻ることとなったのだ。


あれからしばらく経つ。


「ようやくここまで来ましたね。殿下(・・)、寒くないですか?」

 旅支度で持ってきていた上着が少し薄着であったので、駅のホームでカイルが気を使いエドワードに声を掛けた。


 夏の残暑もいつの間にか無くなり、夕方は酷く冷える様になってきた季節、闇組織の情報を集め本拠地がアドラシオン国の隣の大公国にあるという事を突き止めた。


 大公国はアドラシオン国の前王弟と五大公爵であったうちの一家が結託し起こした国である。

 公爵家の前当主が数年前に他界してから資金繰りの悪化、作物の不作が続いていて公民の暴動が起きているとの不穏な噂が漂って来ていた。


「大公が悪事に手を染めたか…」

 アドラシオン国王が報告を聞き、そう悲しそうに呟いたのが印象的であった。


 それもそのはず、強引な手段を使う前公爵が置き土産の如く、王妃に添えろと娘を押し付けてきたのだが、それは何とか回避したのだが、それでも側室の座へと治まっている。

 そして、側室には王子も誕生している。

 側妃と王子の立場はかなり危うくなるだろう。


 そういった背景もあり、アドラシオン国は全支援を願い出ている。

 そして、ここアドラシオン国に被害に遭った各国の代表と戦力が集結し、闇組織を潰すため、カイル達もウェルト王国代表としてやって来ているのである。


「おい、カイル、俺はもう殿下ではないぞ、フォード公爵だ。寒いのは……心だけだ。(リナ)に会いたい…会いたいよぉぉお~う、ううぅぅぅ。」


 戴冠式を無事に終え、アレクシス殿下が国王となった後、エドワード殿下は前々からの約束通り臣下に下り、フォード公爵となっていた。


「そうでした、あなたは立派な立派な公爵様でしたね。立派な公爵様は、殿下であった当時から何も代わり無いので、うっかり忘れておりました。それと、リナに会いたいとおっしゃいましたか?ここへ来る前にリナに会わせてあげたでしょう?さあ、しっかり仕事してくださいよ。」


「貴様、今、会わせたって言ったか!?リナの居るカントリーハウスが目視できる道を、ただ馬で走り抜けただけだったじゃないか!!リナが窓から手を振るところを、全集中して僅かにしか見ることが出来なかったのだぞ!殿下呼びもワザだな…ググッ、もうよい!!それより、何故に馬車を用意していないのだ。」


「すみません、こちらに帰られるのがあまりにも急すぎたので、用意できませんでした。」

「…全くだよ。帰りたくなかったよ。それにハートフィル侯爵領からアドラシオン国までの線路が引かれて運行が開始されたのが分かっていたのなら、あんなに急ぐ必要も無かったじゃないかってこれもか…本当にお前は、クッソーー!!」


 公爵になったエドワードがカイルの密かな嫌がらせに腹を立てていた時である。


「おや、そこに居らっしゃるのはエド、おっと今はフォード公爵、フォード公爵ではございませんか?」


 初老の細身の腰に金の懐中時計をぶら下げた紳士が話し掛けてきた。


「貴方は、フォールズ辺境伯爵。久方振りでございますね。」 

 先程とは打って変わってエドワードが柔らかな紳士的スマイルで返事をした。


 彼はいったい誰なのか?


「フォード公爵、私はもう老いぼれなので、先日、家督を息子に渡して、今は田舎でのんびり過ごしているのですよ。ただの老いぼれギルバードです。」

「ハハッ、そうでしたか。ノアが当主をしているのですか!あの才人、元気にしていますか?」


「ああ、そうか、君の結婚披露宴で、息子とは会っていたのだったね。フフッ、君と私達が親族になるとは、クククッ、世の中、面白いことも起こるものだよね。」


「ハハッ、本当にですね。そういえば、あの時は調度、貴方が体調を崩されていた時でしたね。貴方にもお会いして話をしたかったのですが、代理としてきたノアと沢山の興味深い話を国に滞在中にしました。貴方と同様、素晴らしい知識をお持ちで、とても有意義でしたよ。私はフォールズ家と親族になれて、とても光栄なのですよ。」

「もちろん、私も喜んでいるよ。んん?あっ、こちらの方は?」


ようやくカイルに気が付いて、話ていた2人がこちらを気に掛けた。


「ああ、こちらはモーリス卿です。兄の騎士です。今日は私の手伝いですけどね。そうだ、彼も我々の親族ですよ。彼の姉は、ハートフィル侯爵家に嫁いだアルムの奥方ですから。」


「ああ、では妹の…」

「そうです。」

 何の会話をしているのだろうか、さっぱり分からない。


 この方と、エドワードの関係は何だ?親族?ハートフィル侯爵家とも繋がりが?


 疑問符ばかり浮かべていた所為か顔に出てしまっていたようだ。

 エドワードが紹介がてら教えてくれた。


「カイル、こちらは義母様(おかあさま)、ハートフィル侯爵夫人の兄で、アドラシオン国貴族、前フォールズ辺境伯ギルバート殿だ。お医者様でもある。」

 なるほど、リナの母の兄か。


「初めまして、カイル・モーリスです。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしく。」




 その時、俺達の後方から女性の高い悲鳴とドロボーと言う大きな声が上がった。


 声のした方へ体を向けると、行き交う人々の合間を女性物の小さな鞄を脇に抱えたハンチング帽の男が走ってくるのが見えた。


 アイツが泥棒か。


「カイル!」

「ハッ。」


 エドワードの一言で、カイルは泥棒の方へと向かう。

 どうやら先程の短い会話は、エドワードからの捕まえろとの指令だったようだ。


 泥棒はカイルが確保しようと近づいていることなど知る由もなく、カイルの方へ向かってくる。

 泥棒は進行方向に居る者達へ、邪魔だ!どけ!と罵声を浴びせながら必死の形相で走っていた。


 ここは今はまだ乗車するのに高額な切符が必要な列車が止まる駅のロータリーである。

 周りは中流以上の民や貴族ばかり。

 泥棒には関わりたくないと、素直に泥棒へ道を開けていた。


 関りを持とうだなんて思うのは、正義感の強い者か余程の変わり者だろう。


 そうこうしているうちに泥棒がカイルの傍まできていた。


「そこをどけ!」

 泥棒が、進行の邪魔になる目に入ったカイルに向かって叫んだ。


 カイルは周りには人がいるので、ここで剣を使うのは得策ではないと考えていた。

 体術で倒そうと、泥棒が自分の間合いに入るのを待っていた時である。


 何かに足元を掬われた泥棒が、カイルの目の前で豪快に転んだ。


 泥棒は胸と顎を強く打ったらしく、目の前で悶絶していた。


 泥棒が倒れた拍子にすっ飛んできた鞄を、カイルは拾い上げる。

 鞄を取られた女性が息を切らして遅れて駆け付けてきて、鞄を見るなりお礼を言ってきた。

 カイルは何もしていないので、女性への対応に困ってしまう。


 すると、駅員と警備団が駆け付け、倒れている泥棒を縛りあげて、カイルへ事情を聞いてきた。

 カイルが、泥棒は転んだのだと話すと、周囲へ確認し周りも同様の話をしたので、女性と駅員たちは泥棒を連れて警備団と共に去っていった。


 いったい何が起きた?


 いや、カイルは気が付いていた。


 あの一瞬、鞭のようなものが泥棒の足元へ絡み、足を引っかけていたことを見逃していなかった。

 だがしかし、それをやってのけた人物は見当たらないし、名乗り出てこない。


 何処のどいつか?

 名乗り出られない事情があるのか?


 そう心の中で考えを巡らせていた時である。




カイルはエドワードと共に国外や国内と忙しく動き回り過ごしています。

日々の楽しみはエドワードいじり。

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