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逃走ルートを探しだせ!

=令和2年=

皆さま、あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いします。


 カイルへの対策が執務室で練られていた頃、カイルはチェスター伯爵親子が楽しく会話で盛り上がっている隙をついて、リナから受け取った手紙を読むことに成功した。


 驚愕の内容に、カイルは唖然とする。



 “ カイル、ごめんね。

  強奪事件、ライラの婚約者の審査も兼ねていたみたい。

  カイル、合格したよ。

  結婚する気持ちが無いならば、全力で逃げてください。

  もしもの時は兄さんに相談を。

  父さまがチェスター伯爵に協力しているから、

  対抗するには兄さんしかいないわ。 

  頑張れ!!  リナより “



  そう書いてあった。


 マジかよ!!これって、

 義兄(にい)さん、まずいことになりました じゃないか!?


 ということは、今から向かう先は、仲人付き見合いか、いいや、強制婚約か……。


 王妃の用意した席だぞ。

 これは、出たら詰む!

 巷のゴシップ紙の表紙に、『イケメン騎士(ナイト)モーリス卿、結婚確定か!?』が出てしまうやつじゃん。

 ヤバい、ヤバいってぇ……。


 カイルは冷静に考えようと努力した。

 しかし、いい案が全く思い浮かばない。


 あ~やばいやばいやばいやばい!!

 何か、何か今すぐ逃げる口実を考えなければ。


 目だけを動かし、周囲をキョロキョロ見回した時、遠目に知り合いを見つけた。


 アイツは!!


「フィリップ!?ガーライル副団長ぉぉぉぉおおおーーー!」

 思わず全身全霊で叫んでいた。


 ヤッタ!ついに見つけたぞ、突破口!!


 俺はフィリップを見つけた瞬間、これまでに見せたことのないケガレの無い浄化された笑顔で駆け寄っていた。

 スローモーションのように流れる時間。

 ルンルン気分でスキップするような気持ちが沸き上がる。


 カイルに笑顔を向けられたフィリップは明らかに可笑しいと顔を歪ませ、まずい者に見つかったといった反応で一歩後退りした。


「カ、カイル…何事だ???普段、絶対に私に寄ってこないお前が、何故お前から進んで声を掛け、寄ってくるんだ???何かあるんだろう?ヤバいのか?なあ、ヤバいのか?俺を面倒に巻き込むなよ!!」


 駆け寄り横に着いたカイルに向かって、フィリップが小声で話す。


「お前がここに居てくれて、本当に本当に本当に助かったよ!!頼む、俺に合わせてくれ。この状況から直ぐに逃げだしたいんだ。」


 カイルが懇願する横で、カイルが来た方角から歩いて来ているチェスター伯爵家の2人にチラッと目をやり、勘を働かせ何となく事情を汲んだフィリップが、貸しだと言ってくれる。


 そして、カイルは演技を始めた。


「な、何だってー!!!それは大変だ。殿下が……殿下が大変だ!!すぐに黒の隊を向かわせよう。」

 そう近づいてきたチェスター伯爵家の二人を確認し、難しいと言った表情を作り、話し始めた。


「どうかなさったのですか?」

 チェスター伯爵が声を掛ける。


「ああ、チェスター伯爵。どうやらエドワード殿下に問題が生じているようで、ガーライル副団長が私を呼びに来た所だったようです。申し訳ないのですが、お話しは後日でよろしいでしょうか?チェスター伯爵邸に私がお伺いいたしますので。」


「……ええ、構いません。では今週末にでもお越しください。」


 よしっ!よーし、キタ!

 チェスター伯爵、その返答ありがとうございます!!


 内心ウキウキしながら、どうしようと言った困った演技をし、カイルは返事をする。

「えっ、あの、今週末ですか!?ど、どうしようか。」


「何か用事でも?」

 顔を曇らせ、チェスター伯爵は質問してきた。


「実は、私の大切な人(義兄さんだけど)と、会う約束まだしてないけどをしているので…別の日でもよろしいでしょうか?」

 そのカイルの爆弾返答に、チェスター伯爵とライラが驚きの表情を浮かべた。


 フッ、俺に想い人が居ると思わせられたはず。

 さらにデートもする関係だと仄めかせたぞ。

 さあさあ、どう出る?伯爵様よーーー!!


「そうなのですね……分かりました。ではまた後日にお話しいたしましょう。モーリス殿にそのような女性が居たとは知り得ませんでしたな。きっと、素晴らしいご令嬢に違いない。ハハッ、是非、お会いしたいものですな。出来るのであれば。」


 あの不敵な笑顔を崩さぬまま、余裕のよっちゃんで返答する伯爵。

 最後が少しばかり引っかかる言い方である。


 でもカイルは、よしよし、この場を逃れる事が出来たぞ!と、一安心する。


「はい、ご紹介できる機会が来た際には是非に。それでは失礼いたします。」

 キリッと顔を決め、カイルは答えた。


 何を考えているか分からない伯爵に対し、これで逃げることが出来たとホッとするカイルであったのだが、カイルが少し歩いたところで、伯爵が声を掛けてきた。


「ああ、モーリス卿。一つ助言を。」

 その声にカイルは振り返る。


「いつまでも人のモノを欲しがっていても、自分のモノにはなりませんよ。手に入れたいならば、殺してでも奪わなければ。その覚悟がないのであれば、諦めるしかないのです。そう、諦めるには次の新たな宝石、原石を探すことです。それではまた、連絡をお待ちしています。」


 これまでとは打って変わった真面目な顔をして、チェスター伯爵はこう言い残し去っていった。


 見抜かれている。

 俺の気持ちを知られていた…好きな女…人のモノ。

 おそらく情報源はハートフィル侯爵であろうが、クソッ悔しい。

 知っていて余裕のこの仕打ち…。


 俺だって、俺だって諦めたいんだ!!!!


 でも、物心ついた時から、長年あいつだけを想い続けてきたから、そう簡単にこの気持ちを忘れられ去る事が出来ないんだ。

 妹だと、家族だと、俺は必死でもがいてるのに…。


 頼むから、まだ放っておいてくれよ。



「カイル、大丈夫か?」

 フィリップが心配そうに尋ねる。


「お前も気がついていたのか?」

 フィリップの表情と質問から、カイルは小さく呟いた。


 あの伯爵と俺との会話から推測し、俺の事を心配したという事は、フィリップは俺の気持ちに気づいていたのだと判断したのだ。


「ああ、気づいていたよ。お前の友人をしてもう何年になると思っているんだ。ガイムみたいによっぽど鈍い奴でない限り、気が付くよ。」


「そうか、気が付かないのは、当の本人とガイムだけか…ハ、ハハッ、笑っちゃうな。」

 カイルは天井を見上げ、溜息を1つ吐いた。


「あの調子だと、伯爵はお前を諦めていない様子だな。どうするんだ?チェスター伯爵家は第一王子妃へ娘がなってから、この国で最も話題の貴族だぞ。社交界でも持ちきりだ。無下には扱えない。それに、かなり手強そうだった。」


「そうなんだよ!さらにハートフィル侯爵も協力しているんだ……俺、窮地なんだよ。」

 カイルの言葉にフィリップが生唾を飲み込んだ。


 そして、今までで一番の憐れんだ顔を向けてくる。


 ……何だか無性に腹が立つ。


「そうだな、お前に残された選択は2つ。降参するか国外に逃亡するかだろうな。逃げる際には内緒で助けになるから、せいぜい(あがな)え、頑張れよ!」

 フィリップがカイルの肩をポンと叩き、冗談交じりの言葉を贈る。


 俺にはその二つしか選択肢はないのだろうか。

 俺はまだ気持ちの整理が出来ていないのに、このまま結婚へ流されるだけなのか!?


 どうにかしなければ、そうでなければ本当に国外に逃げるか…。

 国外…国外…こ、こくがいぃ!?


「それだっ!!!」

 カイルが大きく叫んだので、フィリップがビクッとした。


「なんだ?どうした?」

「フィリップ、ありがとう!お前の言葉でうまい逃げ道が見付かった。恩に着るよ。そうと決まれば、行動に移すのみ。じゃあな。」

「あ、ああ、とにかく頑張れよ~。」


 フィリップと別れ、カイルは大急ぎで騎士団総長のもとへと向かった。





カイル、周囲に結構、好きな子の事が駄々洩れしていた事実が発覚するの巻。


登場人物メモ

フィリップ・ガーライル伯爵:第二騎士団副団長、アルムやカイルの学友、昔馴染み



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