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その他 詩 純文学

金銀妖瞳 ―― ヘテロクロミア ――

作者: 山目 広介

 その少女は、半眼と言ったら良いだろうか、いつも微笑みながら目を細めていた。


 その子のことが好きだと気付いたのは、かなり時間が経った後のことだった。


 無意識に人影を追う。

 無自覚のままにその少女を目で追っていたのだ。

 授業が詰まらないから外の雲を眺めると隣の人間が視界に入る、スポーツ観戦を後ろの方で行えば前方にいる人物が目についても不思議ではない、などの他の理由を作ってまで視界に収めていた行いだった。


 目を瞑るとその横顔が、髪をかき上げる仕草が、瞼に浮かび上がる。

 夜、気分転換に外へ行けば、星影が星座を象らず、少女の一場面を形作る。

 帰り道の最中、夕暮れの時の濃い紺碧の空に浮かぶ半分の月影は、その神秘の瞳を思わせた。

 夢の中に入って来て、目覚めれば幻影が見えるのだ。

 次第に日中でも白昼夢に現れる。眺める雲は少女の面影を映す。


 細かいところは薄っすらとぼやけているのに、彩りは鮮やか。

 人混みでさえ、彼女を眩ませられない。木を隠すなら森の中というが、一本だけ桜が咲いていれば簡単に見つかってしまう。

 曇りの日でも、彼女が姿を現すだけで明るく見える。電灯の光がいらないぐらいだ。




 彼女の瞳は変わっていた。朱色と表現が正しいかは分からない。

 明かるい所では黄色に見える。暗い所では赤くもあった。

 人に聞けば橙色と答える人もいるのだ。

 猫目のように、月のように、日々、時々刻々と変化する。

 見飽きることがないかのよう。


 だが、それが理由ではない。


 ある時、少女が道端でノラの仔猫にパンの欠片を与えていると、近所でスプレー缶に穴を開けていた人がいて、それが破裂した。そして運が悪いことに仔猫にそれが当たったのだ。

 その時の少女は驚き目を見開いた。

 その両目、隠されていた上半分の色が違ったのだ。左右が、でもあるし上下が、でもある。

 右が鮮やかな緑。左は深い青。

 物珍しさとともに、その光景は目に焼き付いた。


 オッドアイと呼ばれるような、陳腐な物ではない。

 それならば片眼を隠せば良いだろう。

 しかし、それでは不十分だから彼女は半眼で過ごしていたようだ。

 金銀妖瞳(ヘテロクロミア)と表されるものだろう。

 妖しい瞳。綺麗でいて、惹き付けられる。魅惑な(まなこ)。言い得て妙だ。




 少女の魅力が微笑みだと思っていた。

 だが、それがその瞳を隠すためだったと思うと魅力が陰る。


 そう思いながら少女の姿に、鼓動が激しくなり、胸を締め付け、呼吸が乱される状況は変わらなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 長い物語のオープニングのようです。続けられませんか?
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