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9:自由闊達な白銀のチェシャ猫



あれから約二ヶ月が経った。

洋館の裏にある畑で野菜や果物を育て、森の中で生活している動物達を狩り、地下にあった書斎でこの世界のことを学ぶ。

特にシユンとシノンは育ち盛りであるし、エルヴィラは異世界人ということもあって必要性があった。


エルヴィラは暇があれば書斎から本を持ち出し、庭のチェストに座って日向ぼっこをしながら知識を漁った。

猫や犬、鳥、時には肉食動物の熊や狼が現れては彼女に寄り添って共に日を浴びていた。


今日も彼女は庭に出ていた。

すると後ろからシユンが姿を見せる。



「どうかしたのかい、シユン」


「お父さんが、何かこっちに向かって来てるって、お母さんに伝えろって」


「はぁ、何かねぇ。これは面倒なことになりそうだ」



折角の穏やかな時間を邪魔されて少し憤りを感じる。

仕方無しに、レインと取り敢えず合流しようと屋敷から外へと向かった。

ある程度急いで移動をしていると、すぐそこに彼の姿を見つける。



「レイン、何が来た」


「鎧の音がしたから、多分騎士だ。人数は大体十人だろうな」


「騎士ってことは国が絡んでるね。ウォリー・ディブァイネアを殺したのが面倒事に繋がったかなぁ」



大樹の木の枝へと登り高い所から見渡すと、銀色の鎧を着た騎士が八人と赤色の鎧を着た騎士が一人、そして白色の鎧を着た騎士が一人居た。

しかもよくよく見ると、白色の騎士は体の骨格的に女性だろう。

一つ溜息をついたエルヴィラはレインに声をかけて一度洋館へと戻った。



「放置でいいのか?」


「この屋敷まで来れない様な連中なら、彼らは会う必要性のない人間だという事だ。それに、獣避けのトラップを潜り抜けられない騎士に期待できるかい?」


「……無理だな」


「だろう? 私達はシユンとシノンを護ることだけ考えていればいいさ」



双子の元へと行く為に廊下を歩きながら会話をする。

呆れたような、諦めたような声色と表情をしたエルヴィラの言い分は最もだと思い、レインは彼女の達観した姿勢を同時に尊敬した。


寝室に着くと、双子は心配そうにソワソワと落ち着きがなかった。

二人がその部屋の扉を開けると同時にシユンがエルヴィラに抱き着く。

その様子に苦笑しながら彼女は背中を撫でる。

あまり刺激をさせないようにお菓子やお茶を持って来て普段通りの生活を始めた。


しかし、その一時間後にガチャガチャと金属同士が擦れる音が聞こえてきた。

ボソボソと話し声も聞こえ始め、そして遂にベルが鳴らされる。

レインに此処に残るように伝えると、エルヴィラは玄関へと向かった。



「先程から随分と耳障りだが、一体何の用だい」


「我らはこのクロノスリア王国の聖騎士団である。この屋敷にはある少女を探しに来た。情報の提示を命ずる」


「何とも上から目線で偉そうじゃないか……君達に話すことなんて一欠片も無いよ。お引き取り願おう」


「貴様、先程から聞いていれば我らに何という口の利き方をするのだ! 改めよ」



その聖騎士の言葉に怒りが沸点に達したエルヴィラは、腰に差してあったファルカタを抜いた。

両手に逆手で構え、聖騎士の男の首元に添える。

その早業には誰も反応することが出来なかった。


何時ものような笑顔の仮面は何処にもなく、唯々無表情を貫く。



「口の利き方を改めるのは貴様だ阿呆。今このまま貴様の首を斬り飛ばしてやろうか」



獣のような視線と、皮膚が裂けそうな程に鋭い殺気を浴びせる。

唇を細かく震わせて怯えた表情を見せる聖騎士に呆れを為したエルヴィラは、彼らに興味が失せてファルカタを閉まった。

どうせなら反抗でも反論でもしてくれれば面白かったものを、と彼女は内心がっかりした。



「君達みたいな臆病者に用はないよ。失せてくれるかい」


「あっはっはっ! 気に入った! 手前、何て名前なんだ?」



すると白色の騎士が突然大きな声で笑い出した。

アルトボイスの豪快な女性で、女の割には体格がしっかりしている。

興味津々といった瞳でエルヴィラの顔を覗き込むと、手を前に差し出して握手を求めてきた。

不可解な行動だと困惑していると無理やり腕を取られる。



「アタシはモルドー、この馬鹿共の非礼はアタシが詫びよう。どうか話を聞いてくれ」


「……君に免じよう、此方だ」



心底楽しそうに笑う彼女に毒気を抜かれたのか、エルヴィラは承諾する。


白色ノ騎士の名前はモルドー・オスタリカ。

生まれは貧乏な家庭であり、騎士になるなど雲を掴むくらい難しいことであったが並外れた執念を持ち、修練を行い、男女という性別の差を覆す程まで強くなり、そして騎士となったのだ。

聖騎士団は七つの部隊に分かれるが、今やその一つの部隊の隊長を務めている。


レインの名を呼び客間へと来るように頼む。

一人がけ用のソファにエルヴィラが座り、その前に赤色の騎士とモルドーが座った。

彼女の後ろにはレインが何時でも戦闘が開始出来るよう、ばれないよう武器に手を添えている。

彼らの後ろには八人の聖騎士が控えていた。



「さてモルドー、君の話を聞こう」


「アタシらはある少女を探している」


「ほぉ? どんな少女だ」


「彼女はオークションでウォリー・ディブァイネアに買われ、そして約二ヶ月前に彼を殺した……確か名は――」



「エルヴィラ……その少女はエルヴィラ・セレンディバイトだろう?」



何故彼女がそれを知っているのか、モルドーは不思議で堪らなかった。

彼と交流のあった人物の名前と顔はある程度把握していたが、目の前の彼女のことはどこにも載っていなかった。

疑問が頭を埋めつくしていると、エルヴィラはチェシャ猫のようににんまりと笑う。



「改めて自己紹介をしようか。私はエルヴィラ、君達の探しているエルヴィラ・セレンディバイト本人だよ」



後ろで一つ、レインが溜息を吐いた。



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