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7:マリオネット



「大体三週間は拷問を受けたさ。そして魔女を殺す常套手段を知っているかい?」


「いや、聞いたことない」


「……火炙りの刑、言い換えれば火刑だな」



"火炙りの刑"、"火刑"とは、確か生きたまま人間に火を放つことではなかったであろうか。

レインに衝撃が走る。

何故なら、彼女の言っていることが事実なら、エルヴィラは一度死んでいるということになるのだから。


そして諦めたような表情をしながら、それを肯定した。



「私は死んだよ」


「だったら、だったら今此処にいるアンタは一体何なんだ!」


「分からない……確かに死んだのは実感したのさ。けれど、再び目を開けることが出来て、そして私はあのオークション会場に何時の間にか居たんだ」



哀愁を帯びた瞳を向ける。

それは琥珀ではなく、今やまるでセレンディバイトの様であった。

真っ黒で希少価値の高い宝石であるセレンディバイト。

偶々彼女の姓と一致したその宝石を、ふんだんに使用したピンキーリングが紐に通されて彼女の首元で密かにキラリと輝いた。


そんな言葉を聞きたくはなかった。

彼女が死んだかもしれないという憶測を、事実として扱いたくはなかった。

けれどエルヴィラが嘘をつく筈がない。



「エルヴィラ……お疲れさま」


「レイン?」


「アンタは良く頑張ったよ。たった一人で、誰にも頼らず打ち明けずに」


「うん」


「だからもう良いんだ。俺が全てを知って、そして共に居る」


「うん……!」



そっとレインはエルヴィラを抱きしめる。

何時も頼もしく、大きく見えていたその背中は華奢であった。

腕が彼の背に回り、か細い指がめい一杯握る。

決して離さぬように、強く、強く。


彼女の顔を己の胸元に押し付け、表情を見ないようにした。

きっとそれを嫌うだろうから。

ぼろぼろと涙が零れ落ち、そして彼の衣服を徐々に湿らせていく。

所々で嗚咽が漏れていた。



「ひっ……んぐ、ふ、はぁ……」


「我慢しなくていい、誰も泣くことなんか咎めない」



とんとん、とリズムよく背中を優しく叩くと堰が外れたのか大声で泣き始めた。

泣き笑いの様な表情でレインは強く掻き抱いた。

月光が辺りを静かに照らす。


しかし、その様子を何時からか、幼い彼女が見ていた。


そして翌日、エルヴィラは自身が言っていた通りにウォリーに呼び出された。

行くと同時に強く腕を掴まれて彼の自室へと連れて行かれる。

中へと入れられると、彼は何時も通りに珈琲を入れるように命じた。

昨日予測した通りだ、とエルヴィラは内心ほくそ笑む。


気付かれないように神経性の毒の粉末を溶かすと、何も変わらない様子で提供した。

満足そうに笑うウォリーは滑稽である。



「エルヴィラ、そこのベッドへと行け」


「はいはい」



珈琲を飲み終えると、エルヴィラへそう命令する。

移動したと同時に乱暴にベッドへと押されて倒れ込んだ。

勿論演技だが、これをしなければならない状況下に自分が置かれているという事実に寒気を感じる。


するとウォリーに首を絞められた。

男性の大きな両手で、死なない程度に力を込められる。

流石に苦しくなり、顔を少し歪ませながらその両腕を離そうと抵抗した。

しかしその行動は更に彼を煽り、苦痛に歪められる表情を見たいが為に力を強められる。



「は、なせっ!」


「いいねぇ、その表情が堪らないよ! さぁ、エルヴィラ、君をだ、かせ、てぇ――」



不自然に言葉が切られる。

それはウォリーの体に神経性の毒が回ったサインだった。

即効性のものを使ったのにも関わらず、ここまで効きが遅かったのは貴族として生まれた恩恵であろう。

幼い頃に多少の毒の耐性を付けられたのであろうが、今回使われたのはエルヴィラが自作した毒であった為に僅かな意味しか無かったようだ。


自分の上に倒れ込んで来た体を蹴り飛ばす。

鈍い音をたてながら床に落ちた彼は無様であった。



「はぁ……やっと効いたのか。これは改良が必要だな」


「はっ、は」


「ん? 何をしたのかだって? 君の珈琲に毒を混ぜ込んだのさ。あぁ安心してくれ、致死性ではないからね」



声も満足に出せないウォリーは強く睨む。

嘲笑うかのようにベッドに座って足を組み、見下ろすエルヴィラは愉悦を感じていた。


するとキリキリという音と共に彼の体が浮かび上がる。

腕や脚、胴の部分に強い締め付けを感じて自分の体を見ると何が細い線が入っていた。

遂には首元や額の辺りにもそれを感じる。



「私特製の()だよ。力の込め方や角度によって普通の糸としても使えるし、鋭利な刃物としても使える……今は人形師の様に、君はマリオネットとなっているのさ」



ニヤリと不敵に笑ったエルヴィラに、ウォリーは冷や汗を流した。


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