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19:親友




「なぁ、エルヴィラ知らねえか?」


「……モルドーか。俺は知らんぞ」


「朝飯一緒に食おうって誘いに来たのに居ねえんだよ。手前なら何か知ってると思ってたのによ」


「確か、昨日の夜はヨルキオと呑むって言ってたけど」


「は、はぁ!?」



翌朝、エルヴィラと朝食を共にしようと誘いに来たモルドーであったが自室に居ない為、不思議に思っていた。

隣室から出て来たレインに尋ねるも彼も分からないと言う。

ヨルキオとあの後どうなったのであろうか、そんな疑問が脳内を覆い尽くしていると、何時の間にやら彼女は姿を消していた。

そこには立ったままぼーっとしているレインと、風のように走り去ったモルドーの僅かな香りだけが残っていた。


ところ変わって、エルヴィラとヨルキオは城門を丁度潜っているところであった。

微かにアルコール臭はするものの、不快なものではなく甘い果物の香りがしている。


あれから彼らはひたすら呑み明かしていたのだ。

アルコール度数が七十度以上の酒を飲んでもケロリとしている二人を見て、アレキス達は顔を青ざめていたらしい。

普段は嗜む程度でしか酒を飲まない彼が、昨夜はかなり大酒飲みとなっていたらしく、次々と店の酒が空にされていき泣き付かれてしまう程であった。



「エルヴィラ卿」


「私も同じさ、ヨルキオ」



唯名前を呼ぶだけ、という無言のやり取りと変わらぬ会話で意思疎通を果たした。

二人は再び大通りへと出ると、また違う横道や細道に入って良さげな店を物色し始める。

偶々見つけた当たりの店に入って、そのまま先程まで飲んでいたのだ。


全くふらつく様子もなく、しっかりとした足取りで歩いている姿は流石とも言える。



「結構飲んだもんだね」


「うむ、誠に満足した」


「ははっ! 同じく、また行こうか」


「……今夜でも良いぞ?」


「あははははっ!」



ヨルキオは冗談二割、本気八割である。

彼の今までに想像がつかなかった一面を見れたからか、エルヴィラは腹に手を当てて満面の笑みだ。

楽しげに笑う彼女を見て、彼もまた嬉しそうに微笑んだ。


ヨルキオにとって、昨晩はとても充実したものであった。

寡黙で、反りの合わない人間とは全くつるみに行かない性格である彼は、一部の人から変人扱いさえされていたのだ。

そんな彼が積極的に誘うのは珍しいことである。



「い、居たぁ!」


「おや、モルドーじゃないか。どうしたんだい」


「それはアタシの台詞だっての! ヨルキオと出来てんのか!?」


「……はぁ?」



見当違いな彼女の一言に、二人はポカンと惚けてしまった。

口を薄く開いたままになっている彼女達を見て、やっとモルドーは自分が誤ったことを言ったことに気が付く。

そのまま三人で食堂まで向かうこととなり、その道中に昨日の出来事を全て話した。



「はーん、そういう事か。やっと分かったぜ」


「いきなり何を言い出すのかと思ったさ。ヨルキオに悪いからやめておくれ」


「む、何が悪いのだ?」


「君にも家庭はあるだろう。私のせいで、しっちゃかめっちゃかになっては申し訳ないからね」


「手前こそ何言ってんだ? ヨルキオは独身だぞ」



エルヴィラはその言葉に瞠目する。

彼女の中で高貴な身分の人間程、世継ぎを残そうと沢山の女性と結婚し、子供を産ませることが常識であった。

それは元々生きていた世界でも、此方の世界でも同様に考えていた。

此処は一夫多妻制と男尊女卑の風潮が強い為、ヨルキオには既に妻が複数人居るの思っていたのだ。


強く、高潔で高貴な身分の彼ならば、自ら婚姻を申し込む家も少ない筈であろう。



「意外だね」


「そうであろうか?なれば、エルヴィラ卿の年齢を考えると貴公は既に夫が居ても可笑しくはないぞ」


「冗談はやめておくれ。何で態々、気も考え方も性格も合わない男と一緒にならなきゃいけないんだい」


「で、あろう。それは私とて同じことだ」


「なるほどねぇ。ならば納得だよ」



仲睦まじく話す二人にモルドーは内心ほくそ笑んだ。

今までどれだけ求婚されようと、見合いの席を設けられようと全く興味を示さなかった彼がエルヴィラに何かしらの感情を抱いている。

これは観察して、からかわない手はないだろう、と彼女は考えた。


しかし、この推測は間違っている。

勿論ヨルキオは彼女のことを気に入ってはいるが、恋だの愛だのという思いではなかったのだ。

ここで一つの勘違いが生じてしまった。



「まぁ頑張れや、アタシは手前を応援するぜ」


「む、何のことだ」


「いーや、何でもねえよ」



先に一人で歩いて行ってしまった彼女に疑問しか浮かばなかった。

だが追い掛けるのも億劫になり、二人はそのまま食堂へと歩みを進める。

エルヴィラのことを初めて見たメイドや執事も居り、またヨルキオが誰かと一緒に行動していることに彼らは驚きと違和感を抱いた。


気にする程面倒である、と昨日の内に悟ったエルヴィラは無視して歩き、彼に至ってはその視線に気が付いていないのだろう。

お互い興味関心を示さずに歩いて行った。



「おぉ、結構な広さじゃないか」


「ほぼ全ての騎士がこの場で食事を取るからな。彼処に隊長が集まっている場所がある故、そこへ参ろう」


「構わないよ」



ヨルキオの指差す方向には先に行ってしまったモルドーや、ルフォン、オルタが座っているのが見えた。

流石に隊長や団長と食事を共にしようとは思わないのか、その机の周りは不自然に避けられている。

適当に食事を取ると二人はそこへ向けて歩き出した。


ヨルキオが誰かと行動を共にしているからか、将又エルヴィラがこの場に居るからか、好奇の視線を向けられた。



「あぁ! どの時間帯であろうと美しいのだね、麗しき女性(ベルフィオーレ)


「……君は朝から胸焼けがするね」


「それは大変だ! 共に医務室へと――」


「君が口を閉じてくれれば直ぐ様治るよ、さぁ黙れ」


「これは手厳しいものだ!」



眉間に皺を寄せ、本当に嫌がっている様子で彼女はルフォンを配う。

しかし、全く意に介さずに再びにじり寄ってくる彼にオルタが痺れを切らして頭に一発拳を入れた。

机の上で蹲っている様子を視界の端に入れながら、隊長達は穏やかに朝食を食べ終えた。



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