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18:彼は笊で彼女は枠




「エルヴィラ!」


あの後、オルタと別れて自室へと戻ると中には何故かレインの姿があった

慌てた様子で詰め寄ってくる彼を宥めて理由を聞くと、突如居なくなった為、ジクルドに何かされたのではないかと心配していたらしい

シユンは泣き疲れて眠ってしまっている

罪悪感に苛まれる彼女にレインは制裁として、頭に軽いチョップを喰らわせた



「それは私が悪いよ。申し訳ないね」


「無事ならそれで良い……だがな、アンタは明らかにジクルドから狙われてるんだ。危機感を持ってくれ」


「改めるよ。という事で報告だ、今夜はヨルキオと飲むことになったよ」


「また突然だな。まぁ、気をつけて行ってこいよ」



頭を優しく撫でてくるレインに違和感を覚える

実際に彼は、エルヴィラを本当の妹の様に思っており、聖騎士達と出会ってから常に彼女は何かトラブルに巻き込まれたり、ちょっかいを掛けられたりしているのを見て庇護欲を感じたのだ

自分よりも強く、逞しい彼女だが女性であることに間違いはない

純粋な力勝負では性別の壁は乗り越えることが出来ないだろう

故に、彼は過保護を加速させた


といっても束縛の強いものではない

何気なしに彼女を気にかけ、近付くジクルド達を牽制し始めたのだ

これは思いも寄らず、エルヴィラにとっても功を奏した

これは後々分かることである



それから数時間後、十一時となりドアがノックされる音が聞こえた



「エルヴィラ卿よ、待たせてしまい済まない」


「全く待っていないさ。さて、私はこの土地に明るくはない。君に全てを任せても構わないかい」


「構わぬ。元よりそのつもりよ」



ヨルキオに道案内を任せ、彼について行くと大通りから外れた横道へと入って行った

賑わいから遠ざかっていき、着いたのは落ち着いた雰囲気のバーの様な居酒屋である

大騒ぎをしている客が居ないだけで、中はかなりの人数が入っていた

夫婦で切り盛りしているらしく、明るく活発な奥方と強面だがよく笑う旦那が出迎えてくれた



「あらぁ、ヨルキオ様じゃないかい! 連れが居るなんて珍しいもんさね」


「そうであるか? 本日より、ジクルド様によって聖騎士団に引き抜かれたエルヴィラ卿である」


「へぇ、モルドー様みたいに女の人が入ったのか。よろしくな……えっと、エルヴィラ様?」


「私はそんな身分じゃないさ。呼び捨てで構わないよ」



旦那のアレキスと、その妻のサリアは気さくに話しかけてくれるエルヴィラに好感を抱いた

身分や上下関係を気にするかと思われたヨルキオだが意外とそんなことは無いらしい

二人がけの席に案内され、向かい合わせに座る



「取り敢えずカルヴァドスを二つ、つまみに生ハムのマリネを頼む。エルヴィラ卿はどうする」


「なら、私はつまみに生チョコレートを貰うよ」


「はいよ。ちょいと待っておくれ」



いきなりアルコール度数が四十度のカルヴァドスを頼むヨルキオに驚くが、彼女自身は酒に強く枠である為に有難く頂戴した

林檎酒にさっぱりとした生ハムのマリネはぴったりであろうが、彼が生チョコレートは合うのか疑問に思っていることが在り在りと伝わって来た

思案している為に無防備な口にそれを突っ込むと反応を示したが、素直に咀嚼を始めた




「ふむ、意外と合うな」


「だろう。甘い物好きには堪らないね」


「なれば今度、城下とは少し離れた場所にある店へと行こうか。果物屋が併設されている故、果実酒や甘味が充実している」


「いいねぇ、君とは話が合うから居やすいよ」




嬉しそうに、楽しそうに心の底から笑ったエルヴィラを見て、ヨルキオは今まで感じていた違和感がやっと分かった

彼女は今までずっと笑顔の仮面を貼り付けていたのだ、硬く取れることの無い鉄仮面を

それがやっと今剥がれたのであろう

その事実に彼は嬉しく感じ、その口元を緩めて口角を上げた



「其方は不思議だな。その生き方、疲れはせぬか」


「しないさ。これは私が望んで、私が手に入れた生き方で、誰かに強制されたものでは無いからね」


「嘘であろう。確かに其方自身の考え方に沿ってはいるが、元々の其方の考え方では無い」



今まで穏やかであった雰囲気が鋭いものへと変わる

それに呑まれそうになるが、何とか気を保っている彼にエルヴィラは目を細めて笑った

口元を歪に歪め笑うその姿はまるで獲物を見つけた捕食者の様に思えて仕方がなかった

口の中が乾燥して、肌をビリビリと突き刺す空気が痛くて堪らない


この時、エルヴィラ自身も実は驚いていた

まさか出会ってほんの僅かな時間しか過ごしていないヨルキオに、過去の片鱗を見破られてしまったことに対してだ

人間観察が得意なのか、それとも生きてきた年数の違いによる年の功なのかは分からないが、彼女にとっては不確定要素を含んだ要注意人物となる



「いや、踏み入りすぎた。忘れてくれて構わぬ」


「……君のその空気の読み方は流石だよ。私もやり過ぎた、すまないね」


「年相応であろう。其方は大人び過ぎている、まだ齢十五だ。好きに生きよ」


「ははっ! 心に留めておくよ」


「そう言って、明日には忘れておるだろう」



悪戯っ子の様に笑ったヨルキオに大層驚く

今まで彼に感じていたイメージが総崩れしてしまう程の大打撃であった

その様子を見て声を上げて大笑いする彼に、店主達が優しげな視線を向けていた



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