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17:甘くて水々しいオレンジ



「何だい……つまらないね」


「一つ良いか、其方の攻撃は軌道が読みづらい。師を仰いだ人物の影響か」


「居ないよ。私に師など居たことがない」



ヨルキオが最もな質問を投げかけると興味無さげに一蹴された。

ならばその強さは何処で手に入れた、どのように修練をした、何故その強さを得る必要性があった、彼の心中では新たな疑問が生まれ始める。

興味津々といった様子でエルヴィラを見詰める彼に気付いたイリアスは彼女達の部屋の案内を一任した。



「エルヴィラ卿の部屋は此処だ。その隣を順にレイン卿、そして双子だ」


「感謝するよ。シユン、シノン、お前達は荷物を解いておいで」


「うん、行ってきます」



レインと共に双子は各々の部屋へと姿を消す。

廊下に残されたのはエルヴィラとヨルキオだけであり、先程からずっと彼は視線を逸らさない。

疑問に思いつつ、彼ならば何か行動を起こすだろうと彼女自身もその視線にかち合わせた。



「今夜、酒盛りでもしないか」


「君から誘われるとはね。てっきり冗談かと思っていたんだが」


「嫌であったか」


「いいや、私からもお願いするよ」


「なれば今夜十一時に迎えに来る。それ迄暫し待て」



ヨルキオはそう言って頭を一撫でして颯爽と立ち去って行った。

意外な行動に呆然と立ち尽くしていると、何故かオルタが此方へと歩いて来ているのが見える。

意識を取り戻し、部屋へと戻ろうとしたところを再び彼に止められた。

何用か、と問うと彼は彼女の配属先を伝えに来たらしい。



「と言っても、決まってねぇんだよ。気分や何やらで変わるとよ」


「随分と風変わりじゃないか。どうせジクルドの提案だろう」


「よく分かってんじゃねえか。まぁそういう事だよ……あ、後、今から暇かエルヴィラ?」


「特にすることは無いけれど」


「なら街に行くぞ。家具やら下着やら揃えて来いってさ」


「君はデリカシーという言葉を知ってるかい」



突然の提案に驚くも、確かに必要な物は揃えなければならない為にそれに応じる。

直ぐに支度を整えろと言われるが、彼女は今着ている服以外に誰かと外出するのに適した服を持っていない。

お前は本当に女か、という視線を送られるが気にせずにスルーしていると腕を引かれた。

連れて行かれたのは多種多様な衣服が揃えられている大部屋。



「この中から選べ」


「はぁ? というか、態々この服から着替える必要性はあるのかい」


「俺の気分の問題だ。いいからとっとと着替えろ」



試着出来るようにカーテンで仕切られた空間に投げ込まれると、そのまま上に服を置かれる。

確かに今来ている服は騎士の様な男っぽい格好をしているが、まさか気分で着替えろと言い切られるとはエルヴィラも予想出来なかった。

渡されたのは黒色のオフショルダーに白色のレーススカートで、上の服はフリルが控えめのデザインではあるがふんだんに使われている。


諦めてそれを着てカーテンを開けると、にんまりと満足そうに笑うオルタと目線が合ってしまった。

何時の間にか彼もラフな格好に着替えを済ませてある。

直ぐ様、再び腕を引っ張られて街へと引きずられて行く。



「君、私への扱いを改めて貰いたいのだけど」


「エルヴィラなら良いだろ」



"暴君、此処にて存在"

彼の思うがままになっている自分自身にも腹が立ち、エルヴィラはつい顔を顰めてしまう。

そんな彼女を見て笑うオルタに一蹴り入れるが、何時も履いているコーンヒールと違い、ピンヒールを履いている為にふらついてしまった。

咄嗟に抱き留めた彼は彼女の体の線の細さに思わず瞠目する。



「お前……ちゃんと食ってんのか。特に腰とか細すぎねぇ?」


「食べてるよ。ちょっと君、何処に手を這わしてるんだい」



自分の腰を掴んでいるオルタの手の甲を摘み上げると、彼の口から情けない小さな悲鳴が聞こえた。

体勢を整えると、今度はエルヴィラが彼を引いて歩いて行く。

大通りに並ぶ沢山のブティックや家具屋に入り、二人で使い勝手の良い物を選んでいった。

オルタは随分と知名度が高いらしく歩いている時に沢山の民が振り返ったり、声を掛けたりしているのに対し、彼は何一つ反応をしない。



「良い質の果実が揃えられているね。香りがとても甘い」


「お嬢さん、随分と目利きなんだねぇ」


「普通さ。ふむ、オレンジを一つ頂いても?」


「勿論だよ。オルタ様も良ければどうぞ」



ふと甘い香りが鼻を掠めてエルヴィラは足を止めた。

そこは果物屋で、旬の果物が所狭しと並べてある。

優しげな笑みを浮かべる老婆が一人で営業しているらしく、手招きをされたのもありつい足を運んでしまった。


お金を払いオレンジを一つ貰うと、彼女はオルタにも差し出した。

無言で受け取り齧り付く彼は少しだけ申し訳なさそうな表情をして老婆を見ている。



「君、何だか今までと違うね。若しかしてご家族かい」


「あ? ちげぇよ」


「おやおや、お嬢さんはやはり目が良いね。そこのオルタ様は私の家に昔住んでたんだよ」



普段なら言い返すオルタが口を噤んでいる。

これは本当の事だと理解した彼女は少しだけ老婆と話そうとするが、突如彼に腕を引っ張られる。

足早に果物屋から離れて行く彼に違和感を感じながらも、きっと二人の間で何かあったのだろうと納得して放置することとした。


他人の事情にそう簡単に踏み入らない方が良い、それは自分自身にも当てはまっていたからだ。

そう簡単に曝け出してやるものか、そう簡単に心を許してなるものか、エルヴィラは静かに誓いの焔を燃やした。



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