16:似た者同士
「我が王に何という口の利き方を!」
緑黄の騎士が彼女の威圧に耐えながら反論をする。
既に左腰に差してある剣の柄に手を掛け、抜刀の準備は整っていた。
好戦的なその態度にエルヴィラはにんまりと笑う。
獲物を見つけた、と言わんばかりに彼女は一歩踏み出して彼に近付く。
手にした棒状の武器は殴打することに特化した物で、元より彼らを殺すつもりは無いことが伺える。
「へぇ、殺るかい?」
「貴女がその気ならば!」
「止めとけ、てめぇじゃ適わねぇよ」
双方が睨み合い、遂に武器を交えるかと思われたが今まで傍観に徹していた黒色の騎士が緑黄の騎士を制止した。
肩を掴んで後ろへと無理矢理下がらせると、代わりに彼がエルヴィラの前へと歩いて来る。
彼からは明確な殺意が感じられた。
「王の話が終わったら俺と殺り合おうぜ」
「君とか、いいねぇ! 楽しみにしておくよ」
一触即発であった雰囲気は彼ら二人によって呑み込まれる。
一旦落ち着いた空気を逃さないよう、イリアスがジクルドに進言して話を再開させた。
エルヴィラの提示した三つの条件を踏まえた上で、レインと共にこの国に雇われたこと、ウォリー・ディブァイネアを殺害したのは事実だがそれは正当防衛に当たり、彼女を罰する必要性がないことも伝える。
我関せずといった態度を取っていたエルヴィラであったが一斉に視線を向けられ騎士達を見遣ると、襲われそうになったという事実に驚き、見た目と実力は別物であるということを再認識した。
「黒色の騎士、今から殺ろう」
「いいぜぇ! こっちだ、武道場がある」
「案内を頼むよ」
「あぁ後、俺はオルタ・ガルトリオン。黒色の騎士じゃねえ」
「分かったオルタ。改めて、私はエルヴィラだ」
黒色の騎士基、オルタ・ガルトリオンはこの国に生まれた人間ではない。
他国で傭兵として雇われていたところを勧誘して騎士団に入団させたのだ。
血気盛んで武器は鋭い刃を持つ槍を扱うが、刺すことは勿論、その刃には沢山の棘が付いており引き抜くことでも大ダメージを与えることが出来るようになっている。
オルタに腕を引かれ、半ば引きずられて武道場へと連れて行かれる。
「間違えて殺しちまったら悪ぃな」
「ははっ! 面白いねぇ……そう簡単に殺される程弱くはないさ」
エルヴィラの棍棒とオルタの槍が鈍い金属音を響き渡らせる。
気迫と体重の乗った一突き一突きは彼が幾千もの戦場を潜り抜けてきた猛将だと表していた。
しかし彼女は余裕の表情で全ての攻撃を受け流しており、段々オルタにも焦りと怒りが募ってきていた。
荒々しく変化していくことに対して、エルヴィラは厭らしく嘲るように笑う。
「てっめぇ……」
「意外と気が短いねぇ! まぁいいさ! もっともっと楽しもうじゃないか!」
そう言って、エルヴィラはオルタを後方へと回し蹴りで蹴り飛ばす。
的確に鳩尾に入れられたそれに一瞬の吐き気を催した。
何とか体勢を立て直すも、今度は彼女の猛攻が待ち受けている。
自由自在、不規則な軌道で襲ってくる棍棒と、彼女自身が縦横無尽に動き回ることで予測も出来ない。
そして、心臓に一発、重たい打撃が響いた。
「本来なら即死さ。君の負けだよ、オルタ」
「分かってるよ」
床で蹲っているオルタに右手を差し出す。
そのまま起き上がるのに手を貸そうとしたが、逆に彼によって引っ張られ床へと押し倒された。
形勢逆転、とばかりに嬉しそうに口元を歪ます彼の鳩尾を再び膝で蹴り上げる。
「……阿呆だな、アイツ」
「母さんがそう簡単にやられるわけないのにね」
呆れた様子で腹に手を当てて痛がっているオルタを見遣るレインとシノン。
隊長達は何度も鳩尾を攻撃されているのを見て、彼女の容赦の無さに恐れを抱く者が殆どであった。
「さて、他にも私の事が気に入らない輩がいるだろう? 今なら手合わせでも何でもやるがどうだい」
不敵に笑って、横目で彼らを見遣るエルヴィラのその言葉に反応を示す者など誰も居なかった。