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15:三者三様、多種多様



その後、四人はジクルドの執務室へと移動させられた。

異様なモノを見る様な視線を向けられ萎縮しているシユンを気に掛けながら、エルヴィラとレインは堂々と豪勢な廊下を歩いて行く。



「ガリアス、聖騎士団部隊隊長を全員俺の部屋に集めてくれ」


「はっ!」



途中でガリアスは抜けて行き、モルドーとランサス、そしてイリアスが共に行動していた。

廊下に配置されている衛兵が一々頭を下げて礼をするのに多少の鬱陶しさを感じる。

これからこの様な堅苦しい場所で生活しなければならないことに、シユンの願いを叶える為とはいえ嫌気が差してきた。


金属音が響いて彼の執務室の大きな扉が開かれる。

部屋の床から天井までとほぼ同じ長さの窓から日光が入り込み、机や本棚を明るく照らしていた。

すると後方より鎧から発せられる金属が擦れ合う音が聞こえてくる。



「ご苦労ガリアス。さて、お前達には彼女達に自己紹介をして貰おう」


「その必要性は無いよ。名前と顔は一致しているから問題ない」


「それは手前だけだ。アタシとランサス、ガリアスは知ってるがコイツらは知らねぇから頼むよ」



紫色の騎士、黒色の騎士、青色の騎士、灰色の騎士、そして緑黄の騎士が立っていた。

各々がエルヴィラを観察するようにその姿を見ている。

シユンとシノンはレインの後ろに隠れて様子を伺っていた。



「はぁ……私はエルヴィラ・セレンディバイト。それ以外を君達に明かすつもりは無いよ、以上」


「手前、本当に嫌々だな」


「当たり前だろう。シユンの願いでなければ即刻立ち去っているさ。私は別に王族にも地位にも名誉にも興味が無いからね」



「へぇ、面白いじゃねぇの嬢ちゃん!俺はギア・ドルストローン、よろしく頼むぜ」



簡潔に自己紹介をし、呆気に取られている騎士達を放置しながらモルドーと話していると、灰色の騎士から話し掛けられた。

名前はギア・ドルストローン、酒豪として有名で厚みのある大剣を扱う。

何かに縛られることを嫌い、自由気ままに生きることを好む彼はエルヴィラのさっぱりとした裏表のない性格が気に入ったらしい。

肩を組みに来たギアを適当に(あしら)っていると、今度は青色の騎士が話し掛けに来た。



「私はルフォン・ソレストレ。武術よりは戦略を練る方が得意かな。よろしく、我が麗しき女性(ベルフィオーレ)よ」



背筋がゾッとした。

顔を青白く染め、後ろに一歩後退りながら握ってきた彼の手を振り解く。

それでもめげずに詰め寄ってくるルフォンをどうしてやろうかと考えていると、モルドーが横腹を拳で打ち付け床に転がした。

見慣れた光景なのか隊長達は呆れた瞳で見下ろしている。



「た、助かったよ。どうにもこういうタイプの人間は受け付けなくて……」


「手前も似たようなもんだろ」


「何処が似てるのかきちんと説明して貰おうか」


「コイツは自覚がある女誑しのクソ野郎だろ? 手前は無自覚天然人間誑しじゃねえか」


「知らないね。君の勘違いだろう」



額に青筋を立てながら言い合いを続ける二人を止めようと、今度は紫色の騎士が割り込んでくる。

イリアスは我が兄の執務室でこの様に騒いでもいいものかと思案していた。

軽い騒動となったこの場を止められる者などエルヴィラかジクルドしか居らず、彼女は巻き込まれているし、彼も面白そうに観察しているだけで手出しをしてこない。



「そろそろ止めよ、モルドー。私はヨルキオ・ダレイオス。其方の罪は知っている」


「へぇ……態々気の立っている私に喧嘩を売りにでも来たのか、とでも言いたいが君はそういう人間性ではないようだね」


「左様。其方の罪は罪であって罪でない。故にその武、楽しみにしておる」


「君とは気が合いそうだ。今度、話をする機会を与えて貰えると嬉しいのだが」


「それは私とて同じ事。酒でも酌み交わすことを望もう」



ヨルキオ・ダレイオスはこの聖騎士団全体で最も年配の騎士である。

細剣、よく知られている名ではレイピアと呼ばれる細身の剣を扱い、硬い話し方をするが笑うと柔らかみを帯びる初老の男性であった。

握手をしてにこやかに笑い合う二人の空気を壊すかのようにジクルドが肩を引いて引き離してきた。



「何だい、君よりもヨルキオの方が居心地が良いんだ。離してくれ」


「嫌だ。そもそもお前を雇ったのは俺だ。お前の所有権は俺にある」


「……その言葉は条件違反だ。それ以上何かを紡ぐのならば、私はそれ相応の対処を取らせてもらうよ」



鋭い目付きで睨み付け、彼の拘束を振り解く。

身体が離れた時にはもう既に彼女の右手に棒状の武器が握られていた。

息をするのが苦しくなるような威圧が発せられ、先程まで談笑していたヨルキオも本能で自己を守る為に防衛態勢を取ってしまう。



「私は私にしか縛られない。故に、君に束縛も拘束もされる謂れは無いよ」



これが彼女の本質か、この場に居る騎士達の中でも把握していた物が多いモルドーとランサスでさえも瞠目する。

黒色の騎士だけが、彼女をじっと、何もせずに見詰めていた。


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