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14:対等



「僕からもお願い申し上げる」


「だから、君達に謝罪されようが何をされようが私に利は無いと言っているだろう。まさか君までもが権力を振り回すつもりかい」


「強ち間違いではないけれど、僕はきちんと君に対価を支払おう。もしこの場で彼を見逃してくれるのならば、君達の望む物を与えられる範囲で与えさせてもう」



真っ直ぐな意志を灯した瞳で見据えられ、エルヴィラはやっとジャマダハルを懐に仕舞う。

その聖騎士を鬱陶しそうに集団の方へと蹴り飛ばすと再び彼に向き直った。

与えられる範囲で、と前置きを言う所が実に現実主義で過去の文献をずっと読み漁って日々を過ごしていた彼らしいと言える。

過去の文献には勝者の命令を敗者が聞く事は多々あっても、対等な立ち位置に居る者同士がどちらかの命令や指令を聞くことなど極僅かであった。

勿論それは友人などでもいえるが、ジクルドにその様な関係の人間など居らず、またこの国は強国で大国であったが故に格下になることなど少なかったのだ。



「ふぅん、実に君らしいね。君の本質が良く出ていて私としては好ましいよ」


「それは嬉しいな……して、返答は」


「良いよ、君に免じて殺しはしない」



そう言ってエルヴィラは今度こそ完全に戦闘態勢を解いた。

再びあの笑顔で話をし始める彼女にイリアスは安堵と興味を覚え、ジクルドは関心と畏怖を感じた。

この感情に切り替わりの速さと、その技は何処でどのようにして手に入れたのだろう。

流石兄弟と言った所か、彼も探究心や好奇心が旺盛で彼女の技術に興味を持ち始めたのだ。

イリアスとエルヴィラが先程の等価交換について話していると、横から突如ジクルドが乱入してきた。



「エルヴィラと言ったな」


「あぁ、それで何だい。君に用は何もないのだけれど」


「俺はあるんだ。お前、この国に、俺達兄弟に仕えないか」


「はぁ?」



それにはイリアスも驚いた。

呆気に取られ言葉が出て来ていない彼と、不機嫌そうに訝しげに顔を顰めるエルヴィラ、そして良いことを思い付いたと上機嫌で笑っているジクルドという異様な三人がその場に存在している。

傍から聞いていたモルドー、ランサス、ガリアスの三人は話が急展開過ぎて付いて来れていない。

こっそり盗み聞きしていたレインとシノンは、何故こうも面倒そうな輩から好かれるのかと呆れを通り越している。



「……お兄さん」


「何かな、少女」


「お兄さんに仕えたら、私達はずっとお母さんと居られる?」


「そうなるな。考えてみるんだ、もし一般人と同じ生活を始めたならば仕事に就かなくてはならない。そうなると仕事の時間は一緒に居られないだろう?」


「……うん」


「だがもし俺達に仕えるのならば、少女に城内で自由に行動できる許可書を渡そう。そうすれば君は仕事中でもエルヴィラと共に居られるんだ」


「何を有ること無いこと言って――」



咄嗟にモルドーが彼女の口を手で覆い隠す。

単語ではなく音しか出せなくなったエルヴィラは反抗するが、ランサスによって後ろから抱きつかれて身動きが取れなくなった。

努力虚しくシユンは瞳をきらきらと輝かせて見上げている。



「お母さん」


「けれどねシユン、仕えるということは危険を冒すことも多くなるんだぞ」


「お母さんなら大丈夫だもん」


「……はぁ、分かったよ。欲の少ないシユンからのお願いを無下には出来ないからね」




嬉しそうに抱き着いてくるシユンに苦笑を零す。

可愛い娘のような、妹のような存在の彼女の願いを極力叶えてやりたかったのだ。

条件として彼に三つ、提示した。



「レインも共に仕えること、シユンとシノンの安全を必ず保証すること、それと私達には君達からの絶対的な強制力は受けないこと。これが呑めないのならば交渉は決裂さ」


「分かった、それで構わない」


「はぁ……面倒臭いなぁ」



遠い目をして空を見るエルヴィラにイリアスは軽く同情した。

自分としては彼女が近くに居てくれるのならば願ったり叶ったりだが、兄であるジクルドに目を付けられてしまったことには憐れみしか感じない。

彼は自身が気に入ったものは手に入れようとし、また一度手に入れることが出来れば余程の事が無い限り手放すことも無い。

今までは物体であった為、特に何か弊害が起きた訳ではなかったが今回はエルヴィラという一人の女性である。



「エルヴィラ、何かあれば僕に言っておくれ。出来る限り助力するよ……特に兄様に関しては」


「そうだねぇ。きっと彼は支配欲求の強い人間だろう? そんな輩に目を付けられればどうなるかなんて容易に想像出来てしまったよ……」


「……頑張っておくれ」



項垂れる彼女の背を摩る。

すると音も無くレインがシノンを抱えて姿を現した。

ジクルドを忌々しそうに睨むと、イリアスとエルヴィラの前まで歩いて来た。

そうして彼女の頭を軽く叩く。



「何するんだい」


「それは俺の科白だ。何で俺まで巻き込みやがった」


「私達は一心同体だろう? なんせ、私達はシユンとシノンの母と父なんだからさ」



シユンとシノンが手を繋ぎ、そして空いた手でシユンがエルヴィラと、シノンがレインと手を繋ぐ。

にんまりと悪戯っ子の様に笑う彼女に頭が軽く痛くなった。


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