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13:性質の把握



真っ直ぐに見詰め合う二人の間には居心地の悪い異様な空間が広がっていた。

両者とも笑みを崩さずにずっと仮面を被っている。



「これはこれは、随分と見目麗しいご婦人ではないか。貴女のような方が大の男を一人殺すことが出来るとは思わないが」


「思ってもいないことを言うのは良した方がいい。見た目と実力は何も関係は無いということを知らないのかい」


「……だがこうも簡単に姿を現すとは」


「話し方が気持ち悪いよ」




ばっさりと彼を切り捨てるエルヴィラにイリアスは笑いを堪えることが出来ていない。

口元に手を添えてくつくつと笑っている彼は、男から睨まれると咳払いをして視線を逸らした。

ガリアスは恐れ多いと思いながらも体勢を整えて立ち上がる、

それに気付いた三人の視線を受けて軽く萎縮するが、その震えている口を思い切って開いた。



「イリアス様、先程の言葉の意味をお教え頂くことは可能でしょうか!」


「ん? あぁそれか。彼女はウォリー・ディブァイネアに襲われそうになった所を反抗し、殺してしまったというのは事実だよ」


「イリアス、その情報の提供者は誰だ」


「そこからずっと此方を覗いている少女です……おいで」



優しく手招きされ、広間へと出て来たシユンにエルヴィラは瞠目する。

レインではないことは分かっていたがまさか彼女が証言者だとは思わなかったのだ。

聖騎士達を掻き分け急いで傍に向かうと飛び付いてくる。

何故、と問うと、お母さんが酷いことされるのかと思って、とエルヴィラを気遣う言葉が紡がれた。



「シユン……」


「エルヴィラは私達の唯一のお母さんだから、居なくなっちゃだめ」


「ははっ、これは一本取られたね」



今までとは違い、穏やかに笑う彼女を見てシユンも嬉しくなり微笑み返す。

しかしこの場はざわついていた。

母、という名で呼ばれた彼女に対して心許無い言葉を投げかける聖騎士も居る。

シユンはその雰囲気が怖いのか、ぎゅっと彼女にしがみ付いた。

優しく頭を撫でると少しは落ち着いたようだがそれでも震えが止まっていない。


今の雰囲気はイリアスも男も気に入らなかった。

エルヴィラとシユンは確かに互いを大切な存在だと思い合っているのに、それを他者がとやかく口を挟む理由も無ければ挟まれる道理もない。

どうしようかと考えていると、咆哮が聞こえた。



「口を閉じよ愚か者共」



瞳孔を開き、騒いでいた聖騎士達を鋭い目付きで睨んでいるエルヴィラであった。

ざわざわと騒がしかったこの場は一瞬にて静寂に包まれる。

レイン、と一声掛けるとすぐ近くに彼が降り立った音がした。

シユンを預けると彼女は腕を胸元で組み、苛立ちを隠さずに口を開く。



「貴様ら赤の他人に我らの関係を勘繰られる必要も、口を出される必要も無い。これ以上無駄口を開くなら即刻我らは立ち去らせて貰う」


「私達聖なる騎士に何という口をきくのだ売春婦め!」



売春婦、と酷い言葉が浴びされた。

歯を食いしばりその聖騎士を睨んでいるイリアスを見て、男は少し考え込む。

一方エルヴィラは何の感情も読み取れない表情をしていた。

琥珀の瞳は濁って何も移さず、笑顔の仮面は剥がれて無表情を貫き、唯々その聖騎士を真っ直ぐに見詰めている。

そうして次に彼女はにんまりと歪な笑みを浮かべた。


一気に距離を縮めると顔面に膝を叩き込む。

後方にふらついた聖騎士の足元を掬って転ばせるとそのまま顔を踏み付け、彼女の靴の踵が鼻にめり込み骨が軋む音がした。

鼻血を出して呆然とされるがままになっていた彼は反抗しようと腕を伸ばすが、エルヴィラの隠し持っていた針でツボを押され、腱を刺されて動かなくなる。



「無駄口を開くな、と言っただろう」



冷徹な氷のような瞳で見下ろされて萎縮する。

何時の間にか彼女の両手にはジャマダハルが握り締められていた。

別名ブンディ・ダガーと呼ばれるその武器は斬ることよりも刺すことに特化しており、下で組み伏せられている聖騎士からは恐怖の対象でしかない。

くるくると手元でそれを弄ぶエルヴィラを、男が制止をかけた。



「何だい」


「我らの非礼を詫びよう。勝手に連れて来られて、尋問を受け、そして口汚い言葉を言われればそれも仕方ない。彼にも指導を行っておく。頼む、殺すのはやめてくれ」


「君如きから謝罪を送られて、私に何か利はあるかい。無いだろう? 君は自分の立場を踏まえてそう言ったのかもしれないか、私にとってはそんなもの欠片も興味が無いし意味も無いんだよ」



立場、というのは第三王子イリアスの兄であるということ。

男はこの国の第一王子ジクルド・クロノスリアであった。

彼女はそれに気が付いていると思っていた為にその提案をしたのだが、全く意味を持たなかった。

今まで出会ったことの無いタイプのエルヴィラに頭を抱えたくなるジクルドの横を通り抜けて、彼女の目の前に立ったのはイリアスであった。


先程話していた時と全く違う冷たい視線を向けられ怯みそうになるが、思い切って言葉を紡いだ。



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