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12:認識の相違



その違和感の正体は、聖騎士達の中に紛れていた。

他の者より線が細く色白、そして何より鎧が体の大きさと合っていない。

ぶかぶかの鎧を着たその人物はエルヴィラとガリアスの前へと歩いて来る。

ゆったりとした落ち着きのある声色と口調で話しかけてきた。



「君の考えはとても面白く、そして斬新だね。その堂々とした態度も素晴らしいと思うよ」


「それはどうも……さて、態々君のような人がこの場に紛れ込んだ理由は何かな」


「一体どういうことだ、エルヴィラ?」



ガリアスは訳が分からないといった顔をしている。

人を食った様な笑みを湛えながらエルヴィラは先程話していた本人に視線を向けた。

彼女は突如、思い切り脚を振り上げて彼の兜を蹴り飛ばす。

思わず顔を背けた彼の素顔を見て、聖騎士達は驚きの声を上げた。



「何故貴方様がこの場に!?」


「君はこの国の第三王子である、イリアス・クロノスリア、だろう」



肩より少し短い黒髪を風に(なび)かせ、紅玉の様な優しげな瞳を彼女に向けている。

疲れたように溜息を一つつくと、その重たい鎧を脱ぎ捨てていく。

金属音が重なり合い、響き終えた後、彼の全身像が現れた。

真っ白なワイシャツに黒色のパンツを合わせ、その上からは薄手のコートを羽織っている。

革靴の踵をコツリと一度音を鳴らし、イリアスはエルヴィラへと更に近付いた。



「君はとても興味深い……どのような経験をして、どのような生き方をすれば、その考えが思いつくのかな?」


「さぁ? 私は思うままに生き、思うままに先程も言葉を発しただけさ」



貴様、と聖騎士達が声を荒らげる。

自国の第三王子にそのような言葉遣いをしていれば当然のことだろう。

しかしイリアスは彼らを制した。


彼は嬉しかったのだ。

身分から対等な友人など居らず、凝り固まった小さな空間でしか生きることが出来ない。

新たな世界を知る為には本や文献を読み漁り、新たな知識をそこから得るしか方法がなかった。

それでも限界があり、己の考えを共有することも、また他者の違う考えを知ることも出来ないことが常であった。


けれど今日、この城に罪人の可能性のある人物がやって来るという。

若しかしたら話す機会があるかもしれない、例えそれが出来なくても姿を見ることが出来るかもしれない。

そんな淡い希望を持って臨んだのだ。


そうしたら、本当に彼女と会話が出来た。

彼女の自分とは全く違う考えを知り、そして共有することが出来た。

こんな嬉しいことは無い、彼はそう感じた。



「僕が兄様に進言してみよう。君の刑を軽く出来ないか、とね」


「それは職権乱用に当たるのではないのかい」


「そう言われてしまえばそうなるんだけどね。でも、君はウォリー・ディブァイネア公に襲われそうになった為に反抗したら()()()()()()()()()のではないかな?」



少しだけ瞠目する彼女に、してやったりとした顔を向ける。

実はシユンが彼に伝えたのだ。

彼女は聖騎士達とエルヴィラとの会話を盗み聞きしており、このままいくと殺されてしまうのではないかと考えた。

しかし頼れる人間はあの三人以外に誰も居ない、けれどエルヴィラが死んでしまうのは耐えられない。

思い切って近場に居た聖騎士に話しかけたところ、偶々それがイリアスであったという偶然が重なったのだ。



「レイン……ではないね、まぁいい。私としては他人からどう認識されようが興味がないよ」


「君は、他人に興味がないのかい?」


「ん? 私は別に――」



「そこまでにしろ、イリアス」



すると革靴の音を響かせながら此方へと歩いて来る姿が見える。

この国の紋章が刺繍された羽織を纏い、色素の薄い金髪をした男性はイリアスを呼び捨てにして呼びかけた。

何時の間にか聖騎士達は片膝をついて頭を垂れている。

今この場で立っているのはエルヴィラとイリアス、そしてその男だけであった。



「全く、お前がまさか書庫から出て来て人間に興味を持つとは思わなかった」


「すみません、でも僕も興味関心くらいならありますよ」



諌めるように彼に話しかけると、男はエルヴィラへと視線を移す。

琥珀と紅玉の光が重なり合った。



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