1:この狭き世界の理は
時は十二世紀。
今から凡そ千年程遡った時代。
史実にて『魔女狩り』が活発化し、有名になったのは十五世紀からである。
しかし本来行われ始めたのは十二世紀からであった。
何人もの女性が魔女だと疑われ、火炙りの刑によって無惨にも焼き殺された。
「エルヴィラ・セレンディバイト。お前は魔女であるか?」
そして、ここにも魔女だと疑われた少女が一人。
名前をエルヴィラ・セレンディバイト。
まだ十五歳の美しい銀髪を持つ、見目麗しい少女である。
普通の村娘とは違い、騎士のような格好をしている。
彼女は尋ねられたその問いに、琥珀色の瞳を妖しげに輝かせながら答えた。
「いいや、違うが」
「何故そう言いきれる? お前が魔女だと疑うに値する証拠は揃っている」
「ははっ……!」
そうして彼女は楽しげに笑った。
様子を心配そうに伺う村人達は、エルヴィラが魔女であるわけがないと思っている。
聖職者が怒りを露わにして怒鳴り散らす。
全く気に止めずに彼女は話し始めた。
「君達は"水中から浮かび上がれば魔女"だと言うが、それならば君は水中でずっと呼吸が続くのか?」
「"バネのついた針を刺して痛みを感じなければ魔女"だと言うが、あれは手品で使うような小道具だ。何故それで痛みを感じる?」
「"痛みを感じている者に触れて、その者が痛みを感じなくなったり和らげば魔女"だと言うが、それは事実か? 偶々かもしれないし、君達の協力者で演技をしているかもしれないだろう?」
「確かにそうね……」
「まず告発というのが疑わしいさ。一体何処の誰が、エルヴィラの何を知って言ったんだ」
エルヴィラの言葉に村人達は皆同意を示す。
未だこの村で魔女狩りの被害に遭った女性は居ないが、その噂は伝わって来ていた。
今か今かと怯える生活を送っていたが、彼女の言い分は尤もで反論の余地もない。
それは彼女がこの村でどれだけ慕われ、信頼されているかの表れであった。
「だ、黙れ!」
「いいや、君に命令される覚えはないさ。それに私が最も疑問に思っているのは『魔女狩り』という行為と名前自体についてさ」
「何が言いたい!」
「何故狩られる対象が女性だけなんだ。君達の様に神の声を聞けると言い張る者も居るんだ……"魔術師"が存在しても可笑しくはないだろう」
核心を突かれた。
本来魔女というのは漢字の通りに女性を指す。
そしてその反対の男の魔女を魔術師と言う。
冷や汗をかき始めた聖職者達は慌てて反論をしようとする。
「理由はこうだ。君達は自分自身が狩られるのが怖いんだ……だってそうだろう? "神の声を聞ける"人間なんて異質な存在に決まっているのだから!」
「そうよ……そうよ!」
「私達の様な普通の村娘より、貴方達みたいな聖職者の方が余っ程不気味な存在じゃない!」
「巫山戯るな! そんな根拠もなく、道理も通っていない理由でエルヴィラを狩ろうとしたのか!」
声高々に言葉を放つ。
今まで讃え、崇め奉られてきた聖職者にとって、一般市民から反論されることなど初めてなのだろう。
アタフタと慌てるだけで対応も対処も出来ていない。
しかし、位の高い聖職者の一人が声を張り上げて宣言した。
「エルヴィラ・セレンディバイト! お前を魔女として刑に処す!……この村の住人達は、この女に洗脳されていると判断した!」
後ろに控えていた騎士達がエルヴィラを取り囲む。
そのまま背中に腕を押さえつけられて拘束された。
理不尽・身勝手
そんな言葉を体現化したような行為であった。