越前谷兄弟
いつの間にか5人という多いような多くないような人数になりながら事務室へと向かう。ついて扉を開けると3人の姿が目に入った。
「お前ら、事務室はそんなに入らねぇぞ~。」
白衣を着た先生らしき人が私達に向かって言ってきた。全員を合わせると8人だ。確かに少し狭めかもしれない。
「それじゃあ、サポートルームの方に移動しよっか。」
眼鏡をかけた真面目そうな子が提案して、私たちは更に部屋を変えた。
「ふーっ、疲れた疲れた~。」
私はサポートルームにつくなり、あぐらをかいて座った。サポートルームは保健室の隣にあり、生徒の精神的サポートをする部屋だ。部屋の半分には畳が敷いてあって居心地が良い。
「もうちょっと女らしさってもんをなぁ・・・」
燈也が溜め息混じりに何かを言っている。あぐらをかいたと言っても私はズボンなので、特に問題はないと思うのだが。
「そんなに溜め息ばっかりついてると幸せが逃げるぞ。」
私の言葉に燈也は皺を寄せる。誰のせいだと言わんばかりの表情だ。
「まあまあ、ひーちゃんもはい、お茶。」
移動を提案した男の子が皆にお茶を配っている。そうして一息つくと、
「で、転校生だろ?楽先生から聞いてんぞ。軽く自己紹介でもするか」
と白衣の男性が話始めた。
「俺は越前谷先人。養護教諭兼事務職員だ。何かあったら担任か俺に来ると良い。」
次に八重歯が光る男の子が
「俺は越前谷環!サッカー部で、スポーツ科!燈也とは双子!」
そして最後に眼鏡の男の子が
「僕は越前谷神二です。生徒会で副生徒会長をしています。何か分からないこと等があったら遠慮なく申し出てくださいね。」
と、自己紹介を終える。まあ、私は昔から知っている身なので、自己紹介を聞くことなく燈也に餌付けされているのだが。
「お前はちょっとは話聞けよ」
先人は呆れて笑った。
「俺も食いたい!燈也!」
「はいはい」
環は私の肩を掴んでよしかかり、すぐに立っている燈也の方に顔を向けた。神二は忙しない兄を見て笑っている。
「相変わらず仲良いね。幼馴染み達は。」
律が笑顔でそう言った。
「ん?まあな。」
私は全く笑っていない律の瞳に気付くことなく返した。
「なんで千賀もいるの?」
マフィンを食べながら環は聞く。
「居ちゃ悪い?」
律は不機嫌な色を強めて返す。
「別に!」
そんな色を微塵も感じないで環は笑顔で言い放った。律は小さく舌打ちをして目をそらす。少し悪くなったような空気を感じ、私は
「あー、昨日放送してた番組録画し忘れたんだよな~。」
という的はずれな発言をしてしまった。
「あ、それなら俺録ってるぞ。」
燈也が気を遣ったことを察してくれて会話が続く。
「ほんと!?お願い!今日見せてよ~。どうせこのまま帰るんでしょ?」
燈也を拝むポーズをして懇願する。
「見せるって・・・俺の部屋でかよ!?」
「それ以外になくない?」
「だって二人きりだろ?一応男女だし、俺らも子供じゃないんだから・・・そのだな・・・」
燈也が言いにくそうにモゴモゴとくちごもる。
「お願い!燈也の部屋で見つけたゴム、戻しておくから!」
再度パンっと手を合わせ懇願する。
「あれ、なくなってたの、お前か!ていうか勝手に人の部屋に入ってるんじゃねぇ!」
顔を真っ赤にしながら燈也が怒る。頬を引っ張られて痛い痛いと笑いながらリアクションをとった。
「別に良いじゃんか~。男なんだから仕方ないって!」
「そういうことを言ってるんじゃねんだよ。だからもっと女らしくなぁ・・・」
やっと解放されて頬がヒリヒリと痛む。まだまだ続きそうな説教を止めるため、他の人に助けを求めるが、皆が目をそらした。仕方がないので、更に言葉を重ねるがどれも逆効果なものばかり。
「別に使うとこ見てないんだし良いじゃん」
「なんで見ること前提なんだよ」
「むしろ自分で用意して偉いと思うよ!」
「お前の偉いはずれてるんだよ、昔から!」
「え~・・・とにかく許してよ~。」
もう言える言葉もなく、すでに録画の話から変わってしまっている。燈也は深い溜め息をつき、
「お前な、いい加減にしろよ。俺だって男なんだぞ。お前がその気なくても、男がその気を持ってたら無理矢理されるかもしれないんだぞ。分かってんのか!」
と叫んだ。私は口を尖らせて頭をかきながら
「分かってるよ~。でも、燈也はしないじゃん。無理矢理なんて。」
と自信満々で答えた。燈也は私の言葉に今日1ではと思う溜め息をつき、頭を抱えた。他の男達も同情の目を向ける。気まずい空気はなくなったが、今度は別の重たい空気になってしまい、やっぱり気の遣い方を間違えたかな、と思った。
透は好かれていることに全く気づかない子です。
ので、越前谷兄弟はとても苦労しています。いろんな意味で。
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