入学式
この世界は、スマホ乙女ゲーム『ラブスクールドリームズ』、通称;『LSD』の世界。
そして、ここは丸の阜学園、略して丸学。普通科、進学科、スポーツ科、そして芸能科の4つの科で1学年が構成されており、ゲームの舞台は芸能科。
そんな芸能科に私、柊 透は乙女ゲームのモブとして在籍しています!
ちなみに今は入学式の真っ最中。私は放送部ゆえに入学式を記録するという仕事中です。
カメラをいじる振りをしながら一年生を見渡す。普通科、進学科は真面目にしているが、スポーツ科は誰もスピーチしてないのに頷いている輩が、船をこいでいる輩がいる。そして芸能科は・・・・・・うん、派手。もう既にデビューしている者も居たりするので、髪色自由。制服も出来れば着て。くらいのもので、わりとバラバラだし、一言で言えば、派手。
(我ながら、あれが自分と同じ科だとは・・・人生何があるか分からないもんだねぇ。)
蛇足だが、私の容姿はいたってフツー。よく、普通科の人間と間違われる。そもそも普通科に入りたかったので、別に嫌ではないのだが、学園長から、
『もっと芸能科らしくなりなさいっ!』
とお叱りを受ける。毎度のことなのであまり気にしていないし、正直、人前が苦手なので、芸能関係は勘弁してほしい。
そんなことを考えているうちにあれよあれよと入学式が終わる。この学園の良いところは、学園長の話が短いところだ。大体いつも、
『体に気を付けて、自分を磨きなさいっ!』
で終わる。何でいつも学園長って叫んでるんだろう。落ち着いて喋れば良いのに・・・。
「ちょっと!透!そんなとこでボケっとしてないで、マイク取りに来たらどうなの!」
学園長がマイクを使って叫ぶ。
学園長・・・すぐそばに先輩いましたよね!?私じゃなくてもよくないっ?
「柊さん、学園長が君が良いって言って聞かないんだ。カメラは私がやっておくから学園長のところに行ってくれる?」
「はい。」
私は、学園長のもとへ走った。ちなみに紹介し忘れたが、さっきの先輩は、攻略対象だ。この乙女ゲーは攻略対象が四人、隠れキャラが一人。
奏 夏樹 [かなで なつき]
一年生。イメージカラーは紫。かわいい系で割とS。アイドルとして活動。
千賀 律 [せんが りつ]
二年生。イメージカラーは赤。爽やかスポーツマンで何事にも怯まず挑戦する熱血漢。クラスのリーダー格であり土足で人の心に踏み入るタイプ。ダンサーとして活動。同じクラス。
天星 千歌 [あまほし ちか]
三年生。イメージカラーは白。クールでしっかり者。俳優として活動。放送部部長であり、生徒会長。
神野音 楽 [かみのね らく]
先生。イメージカラーは黒。国語教師。担任。千歌と対立することが多い。元子役。放送部顧問。
天使 ネイロ [あまつか ねいろ]
転校生。イメージカラーは青。ハーフで色気がある、フェミニスト。日本語に疎い。タレントとして活動。同じクラス。
そして、攻略対象のライバルとして鎮座していたのが私の幼馴染みの越前谷兄弟。である。私はヒロインが好きでプレイしていたので、あんまり覚えていないが、主要キャラは大体そんな感じ。
このゲームに悪役はいないので、女の子が著しく不幸になることはない。女の子が不幸にならなければそれで良い。イケメンがどうなろうと知ったこっちゃない。
つまり、この席は攻略対象とヒロインの恋を片隅で見れる最高のポジションなのだよ。分かったか、諸君。どうだ、羨ましいだろう。ちょー可愛い女の子と同じクラスだぞ?まあ、話しかけれはせんがなっ!
「なに一人で百面相してるのよ。」
考えすぎて変な文脈になっていたところに、学園長が話しかけてきた。学園長は数本のマイクを私に渡してくる。
「集めてくださったんですか。」
「あんたが遅いからよっ!相変わらず芋臭いカッコしてるんだからっ!もうちょっとお洒落とかねぇ・・・」
学園長の式典での挨拶は短い。しかし、なぜか私に対するこのお説教は長い。そりゃあ、もう、長い。
「ありがとうございます。」
ぶつぶつ話し続けていた学園長の言葉を絶ち切るように感謝を学園長の言葉の上に重ねる。
「集めてくださって、ありがとうございます・・・」
集める手間が省けたことに口元が緩む。地味に体育館は広いので、先生を探しに走り回るのは辛い。
「あんたの為じゃないって言ってんでしょ!もう、そういう顔できるのに何であんたは芸能活動しないわけ!拾った意味がないじゃない!」
「拾ってくれと言った覚えはありませんがね。」
目を閉じて笑う。
「んもう!生意気!・・・あんたの性格は絶対、人にウケると思うのよねぇ~。」
「この世に絶対はありませんよ。」
「残念でした。あたしの勘は当たるのよ!」
そんな無駄な会話をしているところに、攻略対象・天星千歌がやってくる。
「何の話です?楽しそうですね。まぜてくださいよ。」
「何の話でもないわよ。気にしないでちょうだい。」
私が返答するよりも早く、学園長が返事をする。この人・・・他の人と話すときは落ち着いてるんだけどなぁ~。
「あんたも。くっちゃべってないで、マイク、さっさと片付けてきなさいよ。」
会話の途中でいなくなろうとすると怒るのはあんただろ!
「はいはい、片付けてきますよ。」
「柊さん、私も手伝うよ。」
手伝うっつっても、そんな量じゃないし・・・
「一人でできますよ?」
「そう言って、片付けたあと、不安になるのが柊さんでしょ?それに、鍵の始末、苦手なんでしょ?」
確かに、それはそうだが・・・
「私が、心配だなぁって思うからついていくだけ。それなら良いよね?」
ついてきても暇だろうし・・・、でもでも、いてくれて損はないか。
「ね?」
「分かりました。よろしくお願いします。」
それから数十分後。後片付けを終え、天星千歌と別れる。
明日から、ゲームが本格的に始動する。入学するまでゲームの事を忘れていたが、これからはそうもいかない。攻略対象のことはそれとなーく覚えている。関係は良くも悪くもなくいい案配だ。大丈夫。
極限まで息を吐き、大きく息を吸う。
《電話よ。早く出なさい!。》
学園長の声の着信音が鳴り響く。この着信音はすぐに誰の電話か分かって良いなと結構気に入っている。これで、いつでも学園長の声が聞けますね、と言ったものだ。
「もしもし。」
「あたしよ。あんた今どこ?」
「階段下ですが・・・いかがなされました?」
「ちょっと、あんたに頼みたいことがあってね。」
「承知いたしました。すぐに向かいます。」
電話を切り、私は校舎に戻った。
そういえば、私が何で死んだのか、分からないな。少し足を止めて考える。・・・ま、いっか。そんなことより、今は用事だな。
再び、歩き出す。ゲームが始まるまで、あと一晩。
やっと一話始まりました。書いていくうちに切り所がなくて、長くなりそうでしたが、なんとか。
本作の主人公は口調が変わりやすいですが、気分で変えてるだけです。
ご意見・ご感想、お待ちしております。
皆様に楽しんでいただければ、嬉しい限りです。