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この乙女ゲーはバグってる。  作者: 江川ショーコ
11/13

友達作りパーティー千歌編

 あっという間に当日。ゲームの説明を聞きながら私は怒っていた。というよりも文句を言いたくなっていた。ゲームは鬼ごっこではなかった。鬼ごっこは鬼が捕まえる側なのだが、このゲームは鬼が捕まる側なのだ。元のルールであれば適当にブラブラ歩いているうちに他の人が捕まえてくれると楽をできたように思うが、捕まる側ならば逃げなくてはいけない。疲れる。疲れずに帰りたい。誰かきちんと来た私をほめて。


「偉いね。嫌なのによく来てくれたよ。助かった。ありがとう?」


 横にいた千歌が私に言ってきた。どうやら聞こえていたらしい。大分小声で話していたはずなのだが。先のことを考えて疲れている私にそのキラキラスマイルはやめてほしい。頭痛にしかならない。


「いえ、お気になさらず。ただその笑顔はやめてください」


 笑顔をやめろと言われたことはなかったのだろう。千歌はきょとんと私を見て吹き出した。そうだね、ごめんね、と言っているが手で口をおさえ肩を震わせている時点で反省の色は見当たらない。ツボがおかしすぎないか。最近やっと千歌にモノが言えるようになってきた。事務的な会話が多いためなかなかに距離が掴みづらかったことが要因だろう。


「さて、そろそろ始まるよ」


 笑い終えた千歌がふうっと一呼吸入れて前を向く。教室の時計を確認すると、4時を指していた。開始時間は4時5分。あと数分でゲームが始まる。心臓がバクバクと早くなってきたその時、


「いたぞ!鬼だ!」


 鬼役で制服に身を包んだ私達を生徒が見つけた。急な大声で思考が混乱する。時計は4時のまま。ゲームは開始していないのになぜ生徒が・・・


《そういえば鬼に伝え忘れたわ!時計はずっと4時で止まっているから確認しても無駄よ。時計を止めて世界観を作り込む。楽しみなさい!》


 学園長の声が校内に響く。そういうことは早く言えやぁぁ!と思いつつも捕まらないようにしっかりと逃げる。幸いなことに相手も足が速くはなかったため、なんとか逃げ切れそうだ。しかし、千歌が立ち止まった。


「行き止まりだ」


 よく見ると繋がっていたはずの廊下が簡易的な壁で塞がれていた。ゲームを面白くするために定期的に廊下が行き止まりになる。そこに当たったのか。後ろからはバタバタ走る音が聞こえている。どうする?どうする・・・。


「こっち」


 千歌に手を引っ張られ物置部屋に入る。しばしの間静かにしているとドアの向こうでこっちに鬼がいると叫んだ他の生徒の声が聞こえた。追っていた生徒は私達を追うことをやめ、そちらの鬼の方へ行ったようだ。


「な、なんとか助かりましたね・・・」


 ドアの半分が特殊なガラスで外を見られるようになっているため、ひょこっと頭を出してうかがった。ドアを背にして座る千歌、その千歌の足の間に向かい合って座っている私。再び隠れるように身を屈める。


「そもそも、このゲームの設定上、鬼役は制服だなんて酷いですよね。走りづらいったらありゃしない」


 鬼が学生に化け、黄昏時に人を拐いにくる。この学園の生徒は鬼を封じる力を持っており、人間界に出さないように鬼を捕まえる。この学園は結界で守られていて、その結界のせいで時間が止まると。鐘が鳴るまでに鬼を捕まえれば人間の勝ち。その逆は鬼の勝ち。鐘がなるのは5時。集会のお偉いさんの話が少し長引いて始まりが5分となったため、制限時間は55分。


「そうだね、女の子はスカートを気を付けないと・・・」


 そうなのだ。アンタは今日は制服ちゃんとして来ること!と学園長に言われ、今日はスカートを穿いている。ちゃんと穿いてきたと制服を見せに行ったらスカートを折りまくられ、完全にミニスカートと化している。いくら見えても良いヤツを穿いているとはいえ、普通に走りづらいだろ・・・これぇ・・・と思ったものだ。


「可愛いね・・・なんで着ないの?似合うのに」


 急な口説き文句が降ってきて、はぁ?と思う。


「あのですね。ズボンの方が圧倒的に楽なんですよ!動きやすいし!そもそも似合ってませんから!」


 必死に反論するも千歌には届かず、はいはい、という瞳を向けられた。やりきれない。


「もういきますよ!外誰もいないみたいですし!」


 立ち上がろうとすると、肩を押さえられて、そのまま押し倒された。


「なっ・・・!」


「しっ!静かに!」


 千歌は口に人差し指をあてて、静かにするよう求める。私は急な指示に黙った。押し倒されたまま沈黙が流れる。


「ねえ、」


 沈黙を破ったのは千歌だった。


「静かに!って言われてほんとに静かにしたらダメだよ?こんな格好なんだし、ちゃんと警戒心持ってもらわないと・・・それとも男としてしか見られないようにした方がいい?」


 にやっと不適な笑みを浮かべ、千歌がリボンを緩めながら顔を近づけてきた。現状が理解できないまま、唇同士が触れそうになった瞬間、


「何しているの」


 ドアがガラッと開いた。開けたのは一二三だった。


「なにもしてないよ。まだ、ね」


 顔をあげた千歌が答えた。い、今何をしようとしていた??頭の理解が追い付かない。一二三はふうんと千歌の顔を見ていうと、部屋にぐんぐん入ってきて、私の腕を掴み引っ張り出した。チッと誰のか分からない舌打ちが聞こえた気がしたが、そんなことよりも私の思考は固まって動かない。


「君はついてこないで。行くよ」


 返事を聞くことなく、私の手を引いて一二三は歩き出した。

○○編という形でお話ししていきたいと思います。

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