セロフィート
「 其では皆さん、ワタシの合図で一緒に手を3回叩いてください。
指を鳴らせる方は、手を叩いた後に指を鳴らしてください 」
セロフィートがノリノリで両手を広げて観客達に呼び掛けると、観客達のテンションは最高潮に達した。
観客達による “ アンコールコール ” が聖女像の噴水前で繰り返されている。
真っ昼間から、人気絶頂のアイドル達も真っ青な顔をして裸足で泣きながら去って行く程の熱狂ぶりである。
観客の人数も明らかに増えている。
何時の間にか噴水公園は吟遊大詩人の手品ショーを見たい都民達で埋尽くされていた。
セロフィートが1回目の手を叩く仕草をすると、観客達が手を叩く。
指を鳴らせる観客達は、1回目の指を鳴らした。
此の一連の流れが3回続いた。
マオ
「( な…長いっ!!
何で最後に限って、3回じゃないんだよっ!!
何回続ける気だよ!!
早く終わらせろ〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!! )」
腕を上げ続けて、紙袋を上下にシャカシャカし続けているマオの腕は限界らしい。
心の中でマオは、セロフィートを責めまくっていた。
そんなマオの心境を知ろうともしないセロフィートは観客達しか見ていない。
────そして、漸く最後の1回だ。
5回目の指パッチンが終わると、マオがずっと上下に振り続けていた紙袋をセロフィートが横から受け取る。
マオは漸く、長く続いたシャカシャカから解放された。
マオは今にも吊りそうな両腕を片方ずつ、揉み解し始めた。
紙袋を受け取ったセロフィートはというと、折り曲げていた部分を下から上へクルクルと戻すと、紙袋の口を開けた。
紙袋の口が開いた途端、紙袋から大量の花弁が勢い良く飛び出した。
一種類の花弁ではなく、様々な種類の花弁が風に煽られて宙に舞っている。
ついさっき迄は確かに “ ゴミ ” しか入ってなかった筈の紙袋から、こんなにも大量の花弁が入る筈がない。
現実的に考えても、ハンドクリームの容器を入れていた小振りの紙袋の中に無理矢理に入れ様としても無理である。
心地好い風に乗り、宙を舞う美しい花吹雪は暫く続いた。
噴水公園に居た誰も彼もが美しい花吹雪に見惚れていた。
花弁は未だ紙袋から吹き出している。
紙袋は丸台の上に置かれている訳ではなく、観客達に見える様にとセロフィートが両手で持っている。
紙袋を確り持っている両手が塞がっているセロフィートには、紙袋の中に大量の花弁を入れる等、不可能である事は誰がどう見ても明らかだ。
一体全体、どの様な方法を使って紙袋の中に大量の花弁を補充しているのだろうか??
紙袋の底にも横の左右にも穴らしいものは開いていない。
助手として駒使いにしているマオ以外に協力者が何処かに潜んで居るのだろうか??
花弁だけではなく、中に入っていた筈のゴミは一体何処へ消えてしまったのだろう??
抑、ゴミは消えてしまったのだろうか??
マオ
「 ──すごっ…!!
( 何時迄…花弁、出続けるんだよ?
其に──何時迄…花吹雪も続くんだ?? )」
マオは顔を上げて、未だに宙に舞っている花吹雪に見惚れる。
マオ
「( …………綺麗だ…。
綺麗過ぎる……。
風って…本物だよな??
…………『 本物の風 』って何だよ… )」
セロフィート
「 其では此の辺で、お開きにしましょう 」
セロフィートは観客達に、そう切り出すと観客達は本当に残念そうな顔でセロフィートを見詰める。
観客全員の瞳は、大好きな御主人に今にも捨てられる寸前の老犬の様な悲しそうな瞳でセロフィートを見上げている。
マオ
「( セロの手品が…もっと見たいのかな? )」
セロフィート
「 すみません、皆さん。
そろそろ家へ戻らなければいけません。
ですね、助手さん 」
マオ
「 ……え?
あ…あぁ……そうだな…。
公園の片付けもしないといけないしな… 」
セロフィート
「 公園の片付けは助手さんにお願いします 」