♥ 1.噴水公園 3 / 指パッチンからの奇跡
マオ
「 あぁ…ほら、台紙に付いてるクリームを塗ってやるよ 」
マオはハンドクリームの容器を一先ず丸台の上に置く。
容器から取り出した台紙を手に取る。
台紙に付いてるハンドクリームを指で丁寧に拭い取ると、観客の老人の手の甲に塗ってあげた。
孫世代になる若いマオに皺くしちゃな手を触られ、ハンドクリームを塗られた老人は心無しか表情が緩んでおり、嬉しそうである。
他の老人達や子供達もマオにハンドクリームを塗って欲しそうな顔をしていた。
台紙に付いていたハンドクリームを残らず指で拭い終えた台紙を紙袋の中へ入れる。
容器の中に入っているハンドクリームを指ですくい取ると、差し出されている手の甲の上に付けていく。
ハンドクリームを付けてもらった老人達や子供達は嬉しそうにハンドクリームを手に馴染ませている。
どうやら容器の中に入っているクリームは、間違いなく正真正銘、嘘偽りないハンドクリームである事を理解してもらえた様だ。
実際に試してもらう事も時には必要なのだろう。
セロフィート
「 有り難う、助手さん。
其のくらいで良いです。
其のままフタを閉めてください 」
マオ
「 ──へ?
閉めるのか? 」
セロフィート
「 はい。
お願いします 」
マオ
「 お、おう… 」
丸台の上に置いていたフタを右手で掴むと、使用済みのハンドクリームの容器の上に合わせて載せると、右側に回し、フタを閉めた。
マオ
「 セロ、閉めたぞ 」
セロフィート
「 有り難う、助手さん。
其では此から指を3回鳴らします。
──助手さん、指を鳴らしてください 」
マオ
「 はぁあ?!
オレがすんの?! 」
セロフィート
「 そうです。
何か問題あります? 」
マオ
「 あるよ!
大ありだ!!
オレ、指パッチンなんて出来た試しないよ! 」
セロフィート
「 おや?
出来ません?
其は残念です…。
実は…恥ずかしながらワタシも指を鳴らせません 」
マオ
「 おい!!
駄目じゃんか…。
何で “ 指パッチン ” にした!?
他の方法にしろよ。
例えば……呪文とかさ 」
セロフィート
「 呪文だと嘘っぽく見えません?
指を鳴らした方が本物っぽく見えます 」
マオ
「 ……………………そうかよ… 」
セロフィート
「 皆さんの中で指をリズミカルに鳴らせる方、居ます? 」
セロフィートは如何にも困っている表情で「 誰か助けてくださいっ!! 」という雰囲気を醸し出しながら観客達の顔を見回す。
其の様子を見上げる姿勢で見ていた観客達の瞳が一斉に輝いたのは言う迄もない。
誰も彼もが皆、目の前で困まっている “ 女神様の化身 ” と言っても過言ではない超絶絶世の美青年を「 手助けしたいっ!! 」という顔付きで手を挙げ出した。
美青年を助ける「 “ 誰か ” になりたい! 」「 “ 誰か ” になる!! 」「 “ 誰か ” は俺,僕,私だっ!! 」と言いた気な表情で、誰もが美青年に指名してもらいたくて、自分自身を精一杯、最大限にアピールしている。
其の光景を間近で見ていてるマオは、何とも言えない鬼気迫る様な迫力に気圧されてしまい、不本意にも、ちょっぴりではあるが恐怖を感じてしまった。
観客達の心に火種を焚き付けた当の本人はといえば、問い掛けに対する反応を前にして、慈悲深い女神が浮かべていそうな笑顔で、嬉しそうに胸の前で合わせた両手を軽く叩いて喜んでいる。
其の様子はまるで、自分が何をしたのか全く以て無自覚な質の悪い犯罪者の姿の様だ。
こういうタイプの犯罪者は、何十年経とうが、自分の犯した罪の重さにも深さも気付かぬフリを続け、自分が悪い事をしたという罪の意識も認識も慚愧の心も罪悪感も抱かずに、自身の犯した罪を少しでも軽減させる為に、精神病を持ち出し、悪利用する様な良心の欠片も持ち合わせていない最低な恥知らずで、唯々無駄に償いの時間を消化しようとする小狡い輩と同等のクズだと言わざるを得ない。
マオ
「( …………セロの奴…自分が何してるのか分かってんのか?!
変な宗教の教祖にでもなれそうな勢いじゃないか!!
…………まぁ…本人には、そんな気は全くないみたいだけど… )」