♥ 1.噴水公園 2 / 奇術の始まり
──*──*──*── 噴水公園
雨上がりの午後────。
空には美しい七色の虹が、くっきりと架かっている。
虹の下でセロフィートは “ 7人の奇蹟の聖女の噴水公園 ” と呼ばれ、都民達から親しまれている聖女像の噴水前に立っている。
誰よりも絶世の美女──ではなく、美青年のセロフィートの前には、多くの老若男女が集まっていた。
セロフィートは成人男性なのだが…、成人に見えないのもセロフィートから醸し出される不思議な魅力の1つといってもいいだろう。
背の低い子供や腰の曲がった老人は、1番前を陣取って居る。
此から何が始まるのか──、此から何を見られるのか──、キラキラと瞳を輝かせながら、心をワクワクと弾ませながら、目の前の長身の美青年を見上げていた。
セロフィート
「 御多忙の中、御集まり頂き、有り難う御座います。
其では此より……吟遊大詩人であるワタシ──、セロフィート・シンミンが “ 世にも不思議な手品 ” と呼ばれる “ 奇術 ” を皆様へ御見せ致します。
成功しましたら、どうぞ拍手を御願いします。
失敗しても御愛嬌で笑ってください 」
はにかんだ表情でセロフィートが言うと、集まっている観客達から、どっ…と笑いが起きた。
誰も彼もが此から披露されるであろう吟遊大詩人の手品を待ちわびていた。
何の様な手品を見られるのか観客達は身体全体をウズウズさせていた。
セロフィート
「 ワタシが使いますのは、1つだけ。
ハンドクリームの入った丸い容器──、ハンドクリームのジャータイプです 」
そう言ったセロフィートは何処からともなく、何処にでもある様な茶色い紙袋を出すと、白いシーツを被せている丸台の上に置いた。
紙袋にはシールが貼られており、店で買った商品である事が一目で解る。
セロフィート
「 昨日、隣の彼に買って来てもらったハンドクリームです 」
紙袋に貼られているシールの半分を剥がし、紙袋の口を開けると、男の手にしては女性的な──、其の場に居る欲求肥満な男性達が「 全部の指をチュパチュパしてしゃぶりたいっ!! 」と言う “ いけない欲情 ” を湧き起こさせる様な滑らかで美しい手を紙袋の中へ入れ、ハンドクリームの容器を取り出した。
丸台の上にハンドクリームの容器を上品且つ静かに置く。
ハンドクリームの容器は未開封で、未使用である事が誰にで判る。
セロフィート
「 此の未使用のハンドクリームの容器を使います。
──君、ワタシの代わりにハンドクリームの包み紙を取ってください 」
マオ
「 ………………は?
オレがするの? 」
セロフィート
「 はい♪
…君はワタシの助手です。
お願いします 」
マオ
「 じょ…助手だぁ?
…………分かったよ。
包み紙を取ればいいんだな?
{ 特等席って、そういう意味かよ… }」
マオは小声で、ぶつくさ言いながらもハンドクリームの容器を包んでいる “ 未使用の証 ” である包み紙を丁寧に外した。
包み紙を丁寧に折り畳むと、目の前に置かれている紙袋の中へ入れた。
マオ
「 ──ん。
此でいいだろ? 」
セロフィート
「 有り難う、助手さん。
では、フタを開けてください。
容器の中を皆さんに見せてください 」
マオ
「 はぁあ?!
其もオレがするのかよ? 」
セロフィート
「 はい♪
お願いします。
助手さん 」
マオ
「 ……………………。
やればいいんだろ?
やれば!! 」
少し声を荒げて言ったマオは、左手でハンドクリームの容器を持ち、右手の指で上のフタを掴むと、左側へ回し、フタを取った。
右手に持ったフタを丸台の上へ置く。
直ぐにクリームが見える訳ではなく、中には白くて丸い台紙が入っていた。
其の台紙を右手の指で掴むと丁寧に容器から取り出した。
マオ
「 此でいいか? 」
セロフィート
「 有り難う、助手さん。
ちゃんとハンドクリームである事を皆さんに確めてもらってください 」
マオ
「 …………其もかよ… 」
セロフィート
「 お願いします 」
マオ
「 ……分かったよ…。
──ほらっ、ちゃんとハンドクリームか確めてくれ 」
マオはハンドクリームの容器の中身が観客達に見える様に傾けた。
マオ
「 何なら直接肌に塗ってもらうか? 」
セロフィート
「 其は助手さんにお任せします 」
マオ
「( はぁぁぁぁぁん?!
任せちゃうのかよ…!! )」