去る人、帰らず
明日など永遠に来なければいい。
そう思っていたら本当になった。
目覚めても、また同じ日が始まる。
そう願ったのは私。
私は毎日、彼のいる病院へと向かう。
彼は笑顔で私を迎えてくれる。
「おはよう。毎日来なくてもいいんだよ?」
そう言いながらも、私を歓迎してくれる。
「だって夏休みって暇なんだもん。
ねぇ、今日は何の本を読んでいるの?」
昨日と同じやり取り。
昨日と同じ会話。
私はまた同じ日を繰り返している。
そして彼がまだ生きていることに安堵している。
私の前で笑っている。
私の前で話している。
そして私に触れてくれる。
その当たり前の日常がとても大切なことなのだ。
「…もう、終わりにしない?」
「え?」
「君はこれからも生きていくんだ。
僕が死んでもね。
それはもう分かっていることだろう?」
意味が分からない、と私は首を横に振る。
「もう目覚める時間だよ」
「嫌!」
目覚めるのは嫌。
だって、そこには彼はいない。
「生きて。
僕の分も生きて。
そうして幸せになって。
それが僕の願いだ」
そう言うと彼は私の涙を拭ってくれた。
大きな彼の手が大好きだった。
少し低い声が大好きだった。
彼の全部が大好きだった。
「さようなら」
彼の言葉が終わりの合図。
繰り返された日は終わりを告げた。
目覚めても同じ日はやって来ない。
彼は逝ってしまった。
私を置いて、逝ってしまった。
嘆いても、時間は止まってくれない。
私は一人で生きている。
彼の分も生きていくのだ。




