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ミカンWorld~The Lost Memory~  作者: 方角真夏
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見渡すばかりに木々に溢れた湖で僕は一人の女性と出会った。








 多くの国々が戦乱の世にあった戦国時代、それは既に昔の話となった。今から六年程前に突如世界に降り立った、未確認の生物達。それらは人間の戦闘能力をはるかに超えていた。対抗できたのは戦乱の世の英雄ともいうべき十数人程であった。そのあまりにも大きな戦力差により、徐々に世界は未確認の生物――『災印サイン』へと侵略されていった。

 しかし、そんな絶望的な状況に一人の発明家が希望の光をもたらした。自身の戦闘能力を大きく上昇させる魔磁武装具の発明である。この力により、力の劣っていた人々がサインを討滅する力を持つことになった。それから人類は災印に侵略された地域の奪還と以降の災印への対抗のために、アトラス統制管理機構を設立し、共通の敵に対して戦うことを締結した。

 世界中の国々は、自国の人間をアトラスの本拠地であるアトラス島にあるアトラス統制管理機構付属学園に派遣して災印に対抗するための人材を育成させる。そして、そこで育成した人材を自国へと帰還させて、国の防衛や警察などを行っている。世界は、アトラスを中心に動いているといっても過言ではない。

 アトラス島は世界の中心であり、流行の発信地であり、世界の方針を決める絶対的な政治の中心地でもある。また、そこにあるアトラスにも様々な部門が存在し、防衛部門を主として、管理、研究などの大きなものから些細なものまで幅広い分野に別れている。そこには、世界中から集められたあらゆる部門のエリートが在籍しており、また、アトラス防衛部の中でも怪物たちがアトラス島に在籍しているため、世界の防衛と共に紛争などの抑止力としての力ももつ。

 そのような世界であるから当然、国という垣根を超えてあらゆる人種の人々が交流を深めて、徐々に互いの文化を許容し始め、かつての戦国時代には考えられないような国際協調の道が自然と築かれていった。

 







 アトラス統制管理機構、そこは人間ならば誰もが憧れる場所である。アトラスの、しかもアトラス島勤務になった者は以降の人生が保障されたといってもよいと考えられている。そのため、世界の人々はこぞってアトラスに入るために努力をする。アトラスは世界を管理するという一点の下に、その組織の構成員の選別には大いに目を光らせる。どんなに金持ちでも実力が無ければ所属することは敵わないし、逆にどんなにみすぼらしい貧困者でも実力があれば所属することが叶う。

 そんな組織の中でも、最も人々の手に届きやすい部門が存在する。それは、防衛部門である。現在、魔磁武装具が主流となったこの世界において、人々は懸命に努力すれば一定の力を得ることが叶う。そして、アトラスの民間公募に募集して最終選考まで残れば、晴れてアトラスの組織員となることが出来る。誰にでもチャンスがあるという点で最も手に届きやすいと言える。

 民間公募は防衛部など少数の部門が行う特殊な採用法であるが、正式な採用法が一つ存在する。それは、付属の学園を卒業して所属認可を得ることだ。アトラス島に存在するアトラス統制管理機構付属学園では、人類の未来を担う人材を育成するための教育を行っている。そこを卒業できたものは未来を担う資格ありとして、アトラスに所属することが出来る。しかし、学園に通うには相応の資金が必要となり、貧困な者は奨学金を得るか、後見人が必要となる。さらに、一年に入学することのできる人数も限られているので正に狭き門ともいえよう。

 そんなアトラスの本拠地が存在する島に一人の男がやってきた。








『お客様にご連絡いたします。まもなく、当船はアトラス島国際港へとご到着いたします。少々機体が揺れることがございますので椅子に座り、備え付けのシートベルトをご着用ください』

 艦内にアナウンスが響く。それを聞いた乗船客は速やかに自分の席へと戻り、シートベルトを締める。

「ふぁあああ……」

 そんな乗船客の一人に欠伸をする男が一人、自前のアイマスクを額の上の方へとずらして、右側にある窓から外を見渡す。そこからは上空から垣間見れるアトラス島の全貌を見ることが出来た。島の中央にはアトラスの本部である巨大なメタリックカラーのアトラスタワーが存在していて、その周りはペンタゴン型に町が整備されている。世界首都アトラスは様々な文化が融合した幻想的であり、機能的であり、芸術的な世界最大の都市である。上空から見渡しただけでも、スポーツの試合を行うための競技場や、学校などの教育施設、遊園地など多種多様な建築物が存在する。世界中に人々はこの年に住むことに憧れ、必死の努力をする。

 そんな街並みを窓からのぞき見をしながら、アイマスク男――湖傍ススムは自分の身に着けていたアイマスクを取り、太腿の上に載せていた文庫本の上に置く。そして、文庫本とその上に乗せたアイマスクを前の椅子に備え付けられている簡易的な机の上に置くと、アナウンスの指示に従い、シートベルトを慣れた手つきで速やかに装着する。そして、そのまま流れるように上着のポケットに入っていた小さな円柱状の棒を取り出す。それの先についているボタンを押すと、棒は細長く伸びて、そのまま縦に二分し、何やら膜のようなものを張る。ススムはその二等分された棒を持って膜を広げるように離す。そして、その上に先程机の上に置いた文庫本とアイマスクを置き、左側にある先程とは逆の方にあるボタンを押す。すると、文庫本とアイマスクは膜のようなものに吸い込まれていった。それを見たススムは離した方である右側の最初とは逆の方のボタンを押し、離れていた棒を再び一体化させて最初の長さに戻す。そして、先程と同じポケットにしまう。

「よくもまあ、こんなものを思いつくよな」

 ススムはこの魔磁収納機を開発した知り合いの顔を思い浮かべる。どうしても、ドヤ顔しか思い浮かばなかったので少々イラッとした。

 知り合いの顔を思考の外へと投げ捨てて、自分をこのアトラス島に呼んだ張本人について考える。

「あの野郎が俺を呼ぶ時は、基本的に何か厄介ごとがあるときだけだからなあ」

 思いつくだけの厄介ごとを思い浮かべながら、はぁとため息をつく。以前には飛龍の巣から卵を持ってこいとかテロ組織を壊滅させてこいとか無茶な任務を押し付けられたりもしたから、今回は階位も上がったことだしさらに無茶なものが課されるのかと思わずにはいられなかった。

「とにかく、今回に限ってはそれは付属品のようなものだ」

 自分に待ち受けるであろう不安で一杯の未来をとりあえずに頭の隅に置いておきつつ、再び窓の外を眺める。その先には、アトラスタワーの外装が至近距離に見えていた。

「もうそろそろか」

 ススムはこれからの自分の予定を頭で再確認しつつ、外を眺めた。








『またのご乗船を船員一同お待ちしております』

 社交辞令のような女性声のアナウンスを背後に受けながら、ススムは港の出入り口から外へ出る。そのまま、歩いてすぐの階段を下るとアトラスの街並みが見えた。魔導船の港のある港町には、様々な特産品が並ぶ露店が並ぶ商店街が広がっている。そこには、純人や、エルフ、ドワーフなど様々な人種の人間が露店の品々を吟味したりしている。港町ということもあってかここでしか手に入らない物品もあるらしく多くの人々で溢れかえっている。

「相も変わらず、賑わってんな」

 活気のある商店街を少し離れた場所で見ながらススムはつぶやく。それと同時に、今まで自分が本拠地としていた場所のなんと貧しいことかを理解してしまう。しかし、世界首都と一介の港町を比べるのはあまりに意味がないので、全く別のものであると頭の中で処理をする。

「良い町でしょう、ここは」

 ススムは唐突に投げかけられた女性の声の方へと顔を向ける。そこにはアトラス統制管理部の制服を身に纏った、薄い緑の髪の丸型レンズをかけた女性がいた。女性は、その抜群のスタイルと容姿から周囲の人々を魅了していた。しかし、そんな様子の周囲に全く目を向けずにまっすぐススムの方を見ていた。

 ススムはそんな彼女の存在を認識して、溜息をつきながら彼女の方へと歩き出す。

「全く、出迎えはいらないんだが」

 頭を掻きながら、彼女の前で止まる。二人の身長差から自ずとススムを彼女が見上げる形になる。彼女自身も身長が低いわけではないのだが、ススムの身長が高いためどうしてもそうなる。

「いえ、こちらとしても統制管理部からの指令ですので無碍にはできません」

 彼女は表情を変えずに淡々と言葉を紡ぐ。

「はあ、なあキルシュバウム。俺がここに来るときはいつもお前が出迎えだけど、お前暇なのか?」

 来るたびに疑問に思っていたことをススムはキルシュバウムに質問する。キルシュバウムはそれを聞いて無表情のまま答える。

「暇ではありません。完遂すべき業務を全てこなしてからここにきています。こう見えて第捌統制管理官です。それぐらい当然でございます。それと私のことはキルシュと呼ぶように申し上げたはずです」

「あ、ああそうだったな、すまないなキルシュ」

「はい、それで良いのです」

 時刻を知らせる鐘が鳴る。ゴーン、ゴーンと12回。一日の折り返し時である。

 それを聞いたキルシュはススムに声をかける。

「では、現在ちょうど昼時でございますので食事をしてから本部へと向かいましょう」

 それを聞いたススムは「ああ」と頷く。

「食事代は経費で落とすので心配ありませんよ。では、ついてきてください。最近見つけた良い店があります」

 そう言うと、キルシュは港町の方へと向かって歩き始める。

 ススムは後ろから見ても彼女は固いなと思いながら、彼女についていった。

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