願イ
翼を無くした鳥は願う。
「一度だけ、もう一度だけでもいい。
天を飛べる羽根を取り戻したい」
脚を無くした馬は願う。
「一度だけ、もう一度だけでもいい。
地を駆ける脚を取り戻したい」
耳を無くした兎は願う。
「一度だけ、もう一度だけでもいい。
音が聴ける耳を取り戻したい」
瞳を無くした鷹は願う。
「一度だけ、もう一度だけでもいい。
獲物を見据える瞳を取り戻したい」
例えば鼻。例えば口。
無くした物は、数知れず。
他にも沢山あるけれど。
共通している、一つの願い。
「無クシタモノヲ、取リ戻シタイ」
心の底から、切に願う。
されどもそれは、叶わぬ願い。
幻想が見せる、報われぬ思い。
けれども願い、思い続ける。
願いが叶う、その日を夢見て――――――――――――。
人間に、翼は無い。
ヒトは、翼を持たない。
けれど。
手足を無くした人間は。
耳を無くした人間は。
瞳を無くした人間は。
叶わないはずの願いを。
届かないはずの思いを。
欲望に変え、摂理を曲げる。
そのたびに、セカイは壊れ。
そのたびに、束縛は増えていく。
自らが作り出したその鎖に囚われながらも。
それでも人間は、その行為を止めない。
願い続けて、思い続ける。
鎖で身動きが取れなくなっても。
欲望に塗れて、穢れてしまっても。
いつか自らが浄化され、セカイが元通りになる日を、待ち続けている。
人間には翼が無い。
けれどあの空を翔る鳥のように、自由に大空を飛びたい。
「ならばモノに翼を持たせよう。
私たちを乗せて大空を羽ばたけるように」
人間には足がある。
けれどあの大地を駆ける馬のような、強靭な脚が欲しい。
「ならばモノに脚を持たせよう。
私たちを乗せて速く走れるように」
人間には耳がある。
けれどあの兎のような、小さな音でも聴けるような耳が欲しい。
「ならばモノに耳を持たせよう。
その場にいなくても音が聴けるように」
人間には目がある。
けれどあの鷹のような、全てを見渡せる瞳が欲しい。
「ならばモノに瞳を持たせよう。
私たちが遠くをも見渡せるように」
そうやって自らの願望のみを追い求め、造りだす。
その先に、なにが存在するのか。それも知らずに、造って、壊して、また造って。
そうやっているうちに、いつからかヒトは、《真実》を見失った。
けれども足掻いて、足掻いて、足掻き続けて。
正義など欠片も無くなったこの世界で、生を掴み取ろうとし続けている。
そんな、嘘で塗り固められた世界で。
僕らは今日も、怠惰に身を委ねている。