六番目の種族
「聖五種族は知っているよな?」
ラトの質問にピニオンは首肯する。
詳しくは覚えてないが、神が天使に似せて人を作った後、他の可能性を作るために誕生させた、人以外の『種族』。
人に近いようで、人ではない者達。
神は、『手』を与える事で、『種族』を作ったといわれている。
『猿』に『手』を与えて、『人』が生まれた。
『狼』に『手』を与えて、『人狼』が生まれた。
『豹』に『手』を与えて、『人猫』が生まれた。
『兎』に『手』を与えて、『草原妖精』が生まれた。
『土竜』に『手』を与えて、『鎚小人』が生まれた。
『樹木』に『手』を与えて、『森林妖精』が生まれた。
確か南の方に聖五種族が住む島国があるというが、大陸にもそれぞれ多少移住してきている。
国によって扱いは違うが、それでも人以下の扱いをする所は少ない。その行為そのものが、国の品位を貶めるという考え方が根底にある。
ピニオンが知るのはその辺までだ。
「では、人でも、聖五種族でもない、『六番目の種族』の事は?」
!?
ピニオンは目を丸くした。
全く聞いた事がない。
「グウィン先輩ってのは、その『六番目の種族』なんだ。まあ、本人がそういったのは、人が人以外の種族を『聖五種族』と呼んでいるからであって、少なくとも古文書や文献にその記述があるわけじゃない。そもそも、『手』を与えられていないしな」
「?????」
聖五種族は例外なく『手』を持っている。
「与えられていない…?」
「というか、最初から持っていた。あえて聖五種族風に言うなら…
{神は、『人』に『翼』を与えて、『翼人』を生んだ}
という所かな」
「!!!!!!!!!!!!!!??」
それは…
「それってまるっきり…」
「まあ、『天使』にしか見えないよな」
六番目というより、最初の種族だったのではないかと考えるのは極自然である。
天使の記述は呆れるほどあるのだ。
「だけど、彼らは天使の伝承にあるような、神の使いとしての超常の力はない。今現在のエルフより少し上程度の魔力だ」
それは人を含めた七種族のうちで最高の魔力を持つということだが、伝承にある、海を割るだの自在に天気を変えるだの隕石を降らすだのと比べれば、確かに驚くほどの事でもない。
魔力はエルフより少ない人間だが、複数の術者による増幅魔術や、道具の力を借りる魔術、その他の補助によって、魔法をより使いこなしているのは人間だという見方もある。
「まあグウィン先輩の力しか判断材料はないけどな。空も飛べるし、伝承の方が大げさなだけって可能性は勿論ある。天使というのは彼らの事が間違って伝わった物かもしれない。でも、伝承の天使とは関係なく、人知れずそういう種族が生まれてて、近年まで見つかっていなかっただけかもしれない」
確かに、可能性はどちらにもあるのだ。
「どっちの考え方も決め手にかける。グウィン先輩は、隠れ里の位置も知っているらしいけど、教えてくれない。で…
話がここで戻ってくる。
ともあれ、そういう種族がいるってのは解ったよな? で、聖五種族がそれぞれいろんな特技があるように、『翼人』にも、いくつかの特徴や独自の能力がある。翼や強い魔力、飛行能力のほかにも、だ。その中でも特異なのが『悟り』『悟られ』だ」
「『悟り』『悟られ』?」
ピニオンは言葉を聞いても、ピンとこなかった。
「これは俺も経験した。こっちの心を読み取り、自分の考えを他人に伝えるという能力だ」
「!!!!!!!!!!!」
今度はよくわかった。具体的にどういう能力かはまだわからないが。
特定の人からだけ読むという使い方は出来るのか。
特定の人にだけ伝える事は出来るのか。
聞かないことも出来るのか、あるいは無造作に読み、伝えるのか。
どれ位の範囲なのか。範囲の加減はきくのか。
だが、人には持ち得ない特殊な能力なのは間違いない。
「で、グウィン先輩が言うには、『波動』は、呼びかけ… 遠くの人に、『おーい』っていうのと同じだな。それなんだそうだ。つまり、『波動』は、『翼人』の能力の一つということさ」
確かに話がやっと戻ってきた。
コハクの出している『広がりを見せる存在感』は、まさに『波動』という呼び名がぴったりくる。
これまでの話の流れで、ラトもサリアも、それが同じ物だと認識しているという事は、ピニオンにも解った。
つまり…
「じゃあ、コハクは…」
「そう、彼女は…」
(((・)))
「『翼人』だ」