二人でいるなら
「どど、どうしようヴァイス。お、お化け・・・・・・」
「・・・・・・お化け?」
(その発想はなかった。透き通ってるわけでもなし・・・・・・ まあ、神秘的なところがあるのは認めるけれど)
ティーガーの言う事はいつまでたってもヴァイスの想像の中にない。
「この前、おばあちゃんの大事にしていたツボに悪戯したら、夜になって裏庭に出てきたんだ。雰囲気が違うけど、同じ顔してる・・・・・・!」
「あー・・・・・・」
祖母の、瑠璃を使ったツボに水面の模様を描いたバカがいた。
(ティーガー以外にいないと思っていたがやはりそうだったか)
祖母は、二人よりも若干背が低いくらい。ローブと帽子とを深くかぶり、顔には御簾を付けていて、どんな顔かどころか肌さえ見せない。声は年相応のしわがれ声で、しかし腰や背中は全く曲がっていない。
ものすごく強いとかではけっしてないし、すごい魔法を使う所を見たわけでもないけれど、なぜか逆らえない迫力を感じる人。
ちなみにヴァイスは、祖母の事は結構好きである。
話を聞いて欲しい時や、そばに誰かいて欲しいと思う時に、なんとなく声をかけてくれる不思議な人なのだ。
「・・・・・・大丈夫だよ。怖い感じとか、しない。し」
ティーガーが怖がっているのを意に介さず、ヴァイスは琥珀を手にとった。
「もらっていい・・・・・・んだよね?」
一応確認すると、どうぞお一つ、とでも言うように一山すくって差し出してくれた。
ティーガーもうながされて、ヴァイスの背に隠れながらおずおずと一つ手に取る。
ティーガーはとにかく大きいのを。ヴァイスは色の良いものを手にとった。
これで、この儀式、この冒険は終わりだ。
「は、早く行こうヴァイス・・・・・・!!」
「う、うん」
二人は慌てて降りていった。ヴァイスの方は名残惜しそうだったが、ヴァイス自身屋敷で何度か会っているために、ティーガーについて行った。
「やれやれ、この『儀式』も、マンネリかな?」
二人が見えなくなってから、女の子に声がかかる。
初老の男性だ。足腰はしっかりしていて、年を感じさせない。
女の子はふるふると首を振る。それなりに楽しかったようだ。
(・)
「まあね。僕もまだまだ君のそばにいるつもりだよ。君とは寿命が違うから、いつまでもってわけにはいかないのは知ってるからこそ、ね」
もうピニオンもおじいちゃんである。
それでも見た目の変わらない嫁、コハクのためか、気持ちどころか体もまだ全然若々しい。
翼人の寿命はエルフの半分。約500年である。
だから、ピニオンはまず、家族を作ることに精一杯になった。
自分が居なくなっても、寂しくないように。寂しくないのは無理でも、その先が寂しいだけのものになってしまわぬように。
一族はそれなりに大きくなった。
いつまでも若いままではおかしいので、コハクは皆の前では一切肌さえ見せなくなった。
知っているのはピニオンだけでもないが。
そして。
結局声帯は元通りにはならず、少ししわがれた声になってしまった。
『悟り』は少しだけ戻り、『悟られ』はうまく戻らなかった。
二人にとっては、あまり関係がない事かもしれない。『いられるだけ一緒にいたい』その気持ちは、変わってなどいないのだから。
「さて。もうこれで孫や娘達はかたがついたし、長めの旅行にでも行こうか。
とりあえずアーフィリア大陸にある隠れ里にでもいってさ、そこでのんびりして、リアントラントに飛び乗ろうよ」
コハクお気に入りの浮遊大陸満喫コースだ。極上の笑顔のまま首肯を繰り返すコハク。
そこに着くまでのルートにカーリュッフは当然入る。また懐かしい顔にあってこよう。そして、浮遊大陸は、今度はどこで降りようか。アムエルイア大陸のルヴァーノス王国はまだ降りたことがない。
さあ、世界を満喫しに行こう。
準備は出来ている。
二人でいるなら、どうとでも。
~FIN~
これにて完結です。
読んでいただいた方、ありがとうございました!