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キュクスの叫び  作者: おかのん
第4章
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鳥かごでの再会

 鳥かごのような建物は、温室だった。

 二つの階層に分かれていて、一階に木々、大きく採光用の隙間を作って、二階に鉢植えの草花を扱っているようだ。

 

「いい所だね」


 そう言うと、エクレアは潤ませた瞳のまま、輝くような笑顔をする。


 ライラックの花や時期はずれのネリネを見せてくる。綺麗だね、とか、この花、僕も好きだな、と言うたびに、私もだというように、何度も頷く。

 なのに、ピニオンの言葉が続かないのを感じるたびに、少し顔が陰る。


(・・・・・・何か、欲しい言葉があるんだ)


 彼女の名前であるはずの、エクレア、という言葉が一番そういう反応をする。嫌がるというよりも、落胆したみたいに。

 ピニオンは、会話の中で、なるべくその名を呼ばないようにする。


「・・・・・・誰かいるの?」

「あ」


 下の方から階段で登ってきたのは、なんとサリアだった。


「サリアさん!!」

「! やだ、ピニオンじゃない!! そ、そっか。今日着いたの?」

「はい、今朝のことです。・・・・・・いやー、海ってすごいですね。一日目は死ぬかと思いました」

「酔った?」

「さすがに。でも、次の日には平気でしたし、景色には感動しましたよ」


 サリアは前に見た格好だった。大きな魔石(ツェナ)の付いた杖も変わらない。

 ついこないだのことなのに、ピニオンは懐かしく感じた。


「でも、どうしてこんなところに?」

「あ、はい。その・・・・・・ あれ?」


 エクレアがいない。

 しかし、下に行く階段は一つしかないようだったし、そこを今サリアが上がってきたという事は、まだここにいる筈だ。どこかに隠れているのだろうか。いろんな物が植えてあるし、なかなか広い温室だ。隠れる場所には事欠くまい。


「いや、ちょっと迷ってしまって。というか、目立つ建物だったので、ついふらふらと」

「ふうん? あなた、そういうタイプに見えないけどね」


 エクレアは、多分サリアにも見つかりたくないのだろう。


「サリアさんはここへは何の用だったんですか? 珍しい果物の栽培でもしてて、水やりに来たとか?」

「実際ザクロとか育ててるけど、今はそうじゃないの。・・・・・・ええとその、人探しというか、迷子搜索というか」


 ・・・・・・なるほど。


「その子もここが好きだから、いるかもと思ったんだけど・・・・・・」

「うーん・・・・・・ でも、僕も来たのはついさっきですけど、僕より先に来た人はいませんでしたよ?」


 嘘は言っていない。

 ここへは先にピニオンが足を踏み入れた。


「そっか・・・・・・」

「僕も探しましょうか?」

「う、ううん、いいわ。目立つ子だし、すぐに見つかると思う。あ、でもごめんなさい。そういうわけだから、案内が出来ないわ。正面入口から入れば、受付もあるから、『カルファト教授の研究室』を訪ねてくれればいいはずよ」

「はい。もし、その子に偶然会ったりしたら、伝えておきますよ。どんな子です?」


 サリアは少し逡巡した後、


「ここの制服を着てて、みつあみで、金色の目の子。エクレアっていうの」


(やっぱり)


「その子、喋れないから・・・・・・ あ、でも、耳は聞こえるの。もし見つけたら、そのまま研究室に連れて行って」

「分かりました」


 そう言うと、サリアは他の場所を探しに行った。

 しばらく間をおいて、後ろを向いて言う。


「で? 君はなんでサリアさんから逃げてるのさ。さっきの男の人の声も、グウィンさんじゃないの?」


 どこかで聞いた声だと思ったが、多分そうだろう。ピニオンも一度会った。

 大きな鉢植えの影から出てきたエクレアは、ほんの少し恨めしげな目でピニオンを見る。


「まあいいか。聞かないよ。

 喋れないのはなんとなくわかってたし・・・・・・

 でもさ、これからどうするの? 逃げ続けるわけにもいかないんじゃないの?

 そりゃあ僕も、誰と何時に会うって約束をしてるわけじゃないし、いまさら急ぎの用でもなくなっちゃってるしね。こうなると」


 こうなると、そうだ。

 サリアがどういうつもりだったのかなんとなく分かった。


 エクレアは、少ししゅんとしていたが、すぐに何かをひらめいたようで、パアッと顔を輝かせる。

 ピニオンの手を取り、温室からだとよく見える、大きな門を指差した。


 ピニオンが入ってきた、あの巨大な正門だ。


 ・・・・・・勿論、門がどうしたというわけではないだろう。


「・・・・・・本気(マジ)?」


 コクコクと頷くエクレア。


 要するに、外に連れ出せというのだろう。

 ピニオンは少し迷ったが、黙っていたのは向こうが先だし、義理立てすることもないだろう。

 何より、彼女とのデートは魅力的だった。

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