守りたいものを支える力
ピニオンは、繰り返した。
エスハーンの現状を表す、この一言を。
「・・・・・・奪うしか、なかったんです」
奪うという事がどういう事か。この青年が無視したとは思えない。
ならば刻んだはずだ。魂にその罪を。
ピニオンは知る由もない。だが確かにこの青年は・・・・・・
フィアロウ=メピクスは抱き、刻んだ。『許されなくていい、救いも要らない、ただ守りたい』愛する者と自分だけに向けるその最悪で純粋なエゴを。
そして。
エスハーンがどうして攻めてきたのか判ったのなら、話は変わってくると言い出したピニオンに、 『はぁ? どう変わるんだそんなもの』と言った、リアルト。
最悪で純粋なエゴを抱いていたのは、それこそリアルトも同じだったのではないか。
申し訳ない、貴方達の事を救う事は出来ない、と。
俺達が生きていくために、苦境にある貴方達を見捨てる。
それを公言して曲げなかったのだ。
「もう、自分達だけの力では、生きることの出来ない人達に、今を乗り切ることの出来ない境遇に陥ってしまった人達に・・・・・・
貴方達を救おうとすれば共倒れになるから、奪われるわけにはいかないから、奪うな・・・・・・
それって、『死ね』って言ってるのと全然変わりない」
リアルトは、その自覚があった。その上で、救う道がないなら、俺達は俺達を守るまでだとそう決めたのだ。
さらに言うなら。
そんなことは、皆わかっているのだ。
命を奪うことを。
命を奪われるかもしれない場所に立つことを。
見つめたことがあるのなら。
それを思い悩まずに戦場に立てる者など稀だ。
戦場という場所に慣れてしまった者でも、最初は考えるはずだ。
そして、その手の平で掴める物の大きさと照らし合わせて、悟るのだ。
『自分達が生きる』という正義は、絶対だと。
少なくとも、それ以外の正義が戦場で通ることは絶対にないと。
そして、自分自身以外の『自分達』を、誰も取りこぼさないために。
『戦う』のだ。
皆、命を懸けて。殺されるかもしれない場所で。自分とおよそ関わりのない、むしろ生きていられると邪魔になる誰かを懸命に殺す。
その誰かも大切な誰かのために戦っていると分かっていても。
大切な人と、どこかの誰か。
選べと言われれば、迷わないから。
『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』
『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』!!
『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』!!!!!!
でも。
その上で、ピニオンは。
納得がいかなかった。
だって。
みんな、が。
これだけの人が。
命まで懸けてるのに!!!
「罪さえ背負う覚悟が出来て、自分の命まで懸ける事が出来てッ!!!!!
そんな人達が、これだけ集まってッ!!!!!
それで・・・・・・ それでなんで!!!!!
殺し合うことしか、出来ないんですかぁーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
人が一人、命を懸けて。
それで出来る事って、どれだけだろう。
食べ物を作る人は、自分の分だけ作るわけじゃない。何十人、何百人分を作るだろう。その人が一生に作る作物やチーズやバター、育てた家畜は、どれだけの人を生かしてゆくだろう。
夏の日差しや冬の寒さを和らげる住み家や衣服だって人が造る。怪我や病気から人を救う医者、数々の便利な道具を作り続ける職人、これからの世の中を変えてゆく子供たちを導く教育者、人々の楽しみそのものとなり、生きる事に豊かさを与える音楽家、芸人や役者、小説家。
人が一人命を懸けて、きっと変わる事がある。
人が生き抜いて、残せる物がきっとある。
その人によって大きい小さいはあるかもしれない。
自分の得意だと思ったもので、さらに優れた誰かと比べて、自分の出来た事の小ささに、自分の意味を見いだせなくなることもあるかもしれない。
でも、命を懸けて、それで死んでしまったら、もう何も残せなくなってしまうのだ。
例えその戦いが、誰かの心に響くことになっても。
その人の言葉は、もう聞けない。
だったら。
「お互いに『自分達』を失いたくないからって、おんなじ答えを選んで・・・・・・」
『自分達』以外を守る力がないからって、切り捨てて、結果、
「リアルトさんもこの人も、殺し合って死んで・・・・・・!!!!!!」
これからの互いの国に必要なはずの二人は、もう何も出来なくなった。
それが。
戦争だから、仕方がない。
『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』
それで済ませるような事か・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!
「守りたいものを支える力を、失い合ってどうするんですかぁッ!!!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
( ( ( ◎ ) ) )
戦わないと決めたら、殺されずに済むわけじゃない。
奪う事を決めずに死んだら、本当に何一つ救われないまま、守れないままだったろう。
それでも。
この戦争は間違ってるんだって、そう叫んだピニオンの言葉は。
耳を傾けていたディグニットと。
彼女に、届いた。