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キュクスの叫び  作者: おかのん
第3章
36/50

守りたいものを支える力

 ピニオンは、繰り返した。

 エスハーンの現状を表す、この一言を。


「・・・・・・奪うしか、なかったんです」 


 奪うという事がどういう事か。この青年が無視したとは思えない。

 ならば刻んだはずだ。魂にその罪を。

 

 ピニオンは知る由もない。だが確かにこの青年は・・・・・・

 

 フィアロウ=メピクスは抱き、刻んだ。『許されなくていい、救いも要らない、ただ守りたい』愛する者と自分だけに向けるその最悪で純粋なエゴを。


 そして。


 エスハーンがどうして攻めてきたのか判ったのなら、話は変わってくると言い出したピニオンに、 『はぁ? どう変わるんだそんなもの』と言った、リアルト。


 最悪で純粋なエゴを抱いていたのは、それこそリアルトも同じだったのではないか。

 申し訳ない、貴方達の事を救う事は出来ない、と。

 俺達が生きていくために、苦境にある貴方達を見捨てる。

 それを公言して曲げなかったのだ。


「もう、自分達だけの力では、生きることの出来ない人達に、今を乗り切ることの出来ない境遇に陥ってしまった人達に・・・・・・

 貴方達を救おうとすれば共倒れになるから、奪われるわけにはいかないから、奪うな・・・・・・

 それって、『死ね』って言ってるのと全然変わりない」


 リアルトは、その自覚があった。その上で、救う道がないなら、俺達は俺達を守るまでだとそう決めたのだ。


 さらに言うなら。

 そんなことは、皆わかっているのだ。

 


 命を奪うことを。

 命を奪われるかもしれない場所に立つことを。

 見つめたことがあるのなら。

 

 それを思い悩まずに戦場に立てる者など稀だ。

 戦場という場所に慣れてしまった者でも、最初は考えるはずだ。

 そして、その手の平で掴める物の大きさと照らし合わせて、悟るのだ。



 『自分達が生きる』という正義は、絶対だと。

 少なくとも、それ以外の正義が戦場で通ることは絶対にないと。


 そして、自分自身以外の『自分達』を、誰も取りこぼさないために。

 『戦う』のだ。



 皆、命を懸けて。殺されるかもしれない場所で。自分とおよそ関わりのない、むしろ生きていられると邪魔になる誰かを懸命に殺す。

 その誰かも大切な誰かのために戦っていると分かっていても。


 

 大切な人と、どこかの誰か。

 選べと言われれば、迷わないから。



  『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』

  『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』!!

  『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』!!!!!!


 

 でも。

 その上で、ピニオンは。


 納得がいかなかった。


 だって。



 みんな、が。



 これだけの人が。



 命まで懸けてるのに!!!



「罪さえ背負う覚悟が出来て、自分の命まで懸ける事が出来てッ!!!!!

 そんな人達が、これだけ集まってッ!!!!!

 それで・・・・・・ それでなんで!!!!!


 殺し合うことしか、出来ないんですかぁーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 


 人が一人、命を懸けて。

 それで出来る事って、どれだけだろう。


 食べ物を作る人は、自分の分だけ作るわけじゃない。何十人、何百人分を作るだろう。その人が一生に作る作物やチーズやバター、育てた家畜は、どれだけの人を生かしてゆくだろう。

 夏の日差しや冬の寒さを和らげる住み家や衣服だって人が造る。怪我や病気から人を救う医者、数々の便利な道具を作り続ける職人、これからの世の中を変えてゆく子供たちを導く教育者、人々の楽しみそのものとなり、生きる事に豊かさを与える音楽家、芸人や役者、小説家。


 人が一人命を懸けて、きっと変わる事がある。


 人が生き抜いて、残せる物がきっとある。


 その人によって大きい小さいはあるかもしれない。

 自分の得意だと思ったもので、さらに優れた誰かと比べて、自分の出来た事の小ささに、自分の意味を見いだせなくなることもあるかもしれない。


 でも、命を懸けて、それで死んでしまったら、もう何も残せなくなってしまうのだ。

 例えその戦いが、誰かの心に響くことになっても。

 

 その人の言葉は、もう聞けない。


 だったら。


「お互いに『自分達』を失いたくないからって、おんなじ答えを選んで・・・・・・」


 『自分達』以外を守る力がないからって、切り捨てて、結果、


「リアルトさんもこの人も、殺し合って死んで・・・・・・!!!!!!」


 これからの互いの国に必要なはずの二人は、もう何も出来なくなった。


 それが。



 戦争だから、仕方がない。



  『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』


 

 それで済ませるような事か・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!




「守りたいものを支える(ひと)を、失い合ってどうするんですかぁッ!!!!!!」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!




 (    (  ( ◎ )  )    )



 戦わないと決めたら、殺されずに済むわけじゃない。

 奪う事を決めずに死んだら、本当に何一つ救われないまま、守れないままだったろう。


 それでも。


 この戦争は間違ってるんだって、そう叫んだピニオンの言葉は。



 耳を傾けていたディグニットと。




 彼女に、届いた。

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