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キュクスの叫び  作者: おかのん
第3章
35/50

選べと言われれば迷わない

 そのあまりの波動に。

 いや、その熱波に、ピニオンは思わず顔を上げる。


 太陽が降ってきていた。


 戦略級だろうと思われる閃光の魔法が、ディグニット王子の手のひらの中にある。

 そして、その小さな太陽のような光は、降りてくる。

 

「よくも・・・・・・ リアルトをっ!!!!!」


 遠目に見ても助からない出血。

 友を殺された事に、頭に血が登ったのだろう。ディグニットは上段から飛び降りていた。

 キュクスの構造は『半円形の椅子』だ。そのまさに絶壁である城壁の高さは、落ちれば死ぬだろうと思い始めるくらいはある。

 上段の方も同じくらいはある。魔法で滑空出来るとはいえ、飛び降りようと思えるような高度ではない。


 リアルトがその閃光を見て、微笑む。

 ピニオンはその視界には入っていないだろう。

 敵将はようやく気付き、槍を捨てて逃げ出す。

 が、遅過ぎる。


 

 ドヴァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!



 閃光と熱波が、敵の背中を焼く。抉るように削れていき、内蔵に火が通る。

 あまりの熱量に、着火することなく消える。熱を短時間で使い切る事で威力を上げているからである。

 右に体をひねって避けようとしたために、敵は体制を崩して仰向けになり、エスハーン兵の兵装である帽子を落とした。



「あ・・・・・・」



 リアルトを突き殺し、ディグニット王子に背を抉り焼かれた敵将。

 偵察任務の時に、キュクスについて聞いてきた、あの青年だった。


「あ・・・・・・ああ・・・・・・」


 ピニオンは知らない。彼を支える家族の名も、必ず帰ると約束した許嫁の顔も。

 許されなくていい、救いも要らない、ただ守りたい、と、空を見上げて、胸の内だけで祈ったその思いも。

 優しそうで、でも、自分に厳しそうな人だ。

 そう思っただけ。


 あの時、ただの猟師のピニオンの話を、聞いてくれた事。

 ピニオンが、エスハーンを見限りきれないのは、それがあったからだ。

 

 怒りに任せてディグニット王子が放った、魔法の威力の大きさに皆驚愕し・・・・・・

 戦場の時間が、一旦停止した。



  『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』



 先ほどの魔法の第二撃が来ることはなさそうな気配だったためか、何処からとも誰からともなく、戦いは再開され始めた。

 槍を背中から生やしたまま、俯せに倒れているリアルトは動かない。

 背を抉り焼かれて、仰向けになったエスハーンの青年もとっくに事切れていた。

 ディグニット王子はリアルトを見つめたまま涙を流す。

 ピニオンはへたりこんだまま這って移動したのか、エスハーンの青年の前で佇む。


 中央通路に繋がる部分が魔法の余波で削れてしまって使えそうにない。

 いくらかの弓兵以外は、別の通路から回り込むために移動した。


 四人は、取り残されていた。

 直ぐに次の行動に移らねばならない。

 二人の亡骸をどうするのか。魔法の二撃目が撃てるのなら戦線に復帰せねばならない。ピニオンも得意武器は弓なのだから、ここからでも参加は出来る。


 でも。

 今は、心がそう動いてくれなかった。


「・・・・・・僕、この人・・・・・・知ってます」


 聞いているのかいないのか、ディグニットは反応しない。

 剣戟の鳴りも戻ってきている。なのにそこだけは時間が別の流れを持っているかのようだった。

 無論錯覚だ。こうしている間にも戦は続く。共に生きるべき者達と、国を守る為に戦っている最中だ。直ぐにでも戻って、一人でも多く敵を倒さねばならないというのに。


「リアルトさんみたいに、国を、人々を守る為に命をかけてた・・・・・・」


 その方法は、他国の財産を奪うという、目をつけられた国にしてみればたまったものではない方法だった。

 その、守りたいという思いは、疑いようがないにしても。

 いや、だからこそか。


「だから、なんだ」


 ディグニットにとっては、そんなことは関係なかった。


「リアルトは殺されたぞ。奪いに来たこいつらに殺されたぞ! こいつにッ!! 殺されたんだぞッ!!!!!!」


 ディグニットの憤りはわかる。

 ピニオンも、リアルトは好きだったのだ。

 自分にも他人にも厳しい人で、それは、その人に期待しているという事で。

 器用な割に、他人に誠実だったから、余計にだ。

 関われば関わるほど、自分を磨きたいと思わせる人だった。


 ディグニット王子は、どんな出会い方をしたのだろう。

 リアルトは、王子と会ってどう変わったのだろう。


 そして、その先が紡がれることはもうないのだ。


 ならば、その元凶となったこの青年は、エスハーンは、その怒りで惨めに殺されて滅ぶべきか。


 違う。


 この悲しみを、作りたくなかったはずだ。

 ただ、自分の近しい人から優先的にと考えてしまう。

 そうすると、関わりが薄ければ薄いほどその順位は下がる。

 その自分と関わりの薄い誰かにも大切な人や守るべき何かがある事を分かっていても。


 自分に近しい誰かの悲しみには代えたくない。


「奪うしか、なかったんです」


 どうなろうと知ったことかとは言わない。

 けれど、選べと言われれば、迷わない。

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