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キュクスの叫び  作者: おかのん
第3章
33/50

他の誰にも許さない

 『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』


「・・・・・・っ!!」


 ・・・・・・ものすごい響き方だ。

 目の前にいるという事が何か関係あるのだろうか。


「サリア姉、大丈夫か」


 とっさに耳を庇うようにして竦んだサリアに、ラトは心配そうな顔を見せる。


「・・・・・・大丈夫。今なら出来るかもしれないもの。

 ・・・・・・本当は、そんな事態じゃないのにね・・・・・・」


 気づいたのは、ついさっきだ。


 コハクの『派動』のパターンと大きさが変化している。

 そして、段々と膨らんでいる。


 中庭のコハクの前に、ラトとサリアは立っていた。


 この強烈な、でも何かを掻き立てるような。

 不安や恐れではなく、怒り、憤りに近いそれ。

 でも、それを感じて、誰かを抱きしめたくなるような、魂を揺さぶられるような、血の昂りが引き起こされるその『派動』。


(宿命のライバルと戦っている時間と、お腹いっぱい食べていい時に『いただきます』って言ってすぐと、ラトと・・・・・・してる時が、いっぺんに来たみたいな)


 根底に、それがある。

 誰に向けてのものかは、考えなくてもいいだろう。


 そして、彼の思いもコハクに届いているのだろう。

 だからこそ、それが失われるかもしれないこの事態をなんとかしたい、その思いが暴走しているのだ。


 正直、こんなことをしている場合ではない。

 しかし、カーリュッフの遺物(ロストマギカ)研究員である二人は、この戦争に手を出せない。条約違反になるからだ。

 サリアの持つ巨大な魔石(ツェナ)は、遺物(ロストマギカ)なのだ。

 戦争に使ったことがバレたら大目玉である。


 が、『コハク』がおこした『事故』ならば?

 まだ処理のしようがあるのだ。


「『言葉』にしよう。つながろう。私も、力を貸す。

 だって、言わなきゃ分かんないよ。伝えなきゃ伝わらないよ。


 言うだけならなんとでも言えるよね。でも、考えてよ。

 

 伝わってるんでしょう?


 伝えたいんだよね? 出来ないだけだよね?

 でも、『派動』はこれだけ伝わるんだもん。多分、貴方の心次第。


 荒っぽいかもしれないけど、今はこんな方法しかないんだ。

 ごめん。グウィンなら、もっと上手くやれるのかもしれないけど・・・・・・」



 『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』!!!

 『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』!!!!!!!!!!!



 グウィンは間に合わなかった。

 しかし、今、コハクの力がここまで膨れ上がっている今なら。


 別の事が出来るかもしれないのだ。


「ラト」


「・・・・・・まあ、突発的な状態変化をうけての緊急実験とデータ採取の中での暴走って線でごまかせるだろうかな。いいよ。やりたいようにやったら」


 波動がはっきりと届かないラトには、サリアが掻き立てられている事自体ピンと来ていない。

 少し、寂しい。


 サリアは、ラトにも感じて欲しいのだ。この『派動』を。


「ピニオンは、優しいよね。きっと、今までの誰より、貴方のこと考えてるんじゃない?

 その彼の、『今』は、貴方にとって、どう?


 彼、何を考えてる?


 敵の兵士を殺す事?

 ここから逃げる事?

 人殺しなんて嫌だって泣いてる?

 仲間の兵士を殺されて、怒り狂ってたり?


 もしかして、もう死んだ?」



 心を吹き飛ばされそうな、悪意と殺意と憤怒がサリアに浴びせられる。



 『《「〔([[{{〈【:########*########:】〉}}]])〕」》』!!!!!



「・・・・・・っ!!!」


 体中の血が一度全部抜かれたような、とてつもない脱力感と同時に、細胞一つ一つに雷撃が走ったような激痛。


「サリア姉っ!!!?」

「か・・・・・・はっ。だ、大丈夫」


 ラトはコハクを睨みつける。精神系の魔術関連では役に立たないラトだが、今のがコハクの仕業なのはわかる。


「貴様っ・・・・・・」

「違うのラト。この子は怒っただけ。挑発したのは私。この子は・・・・・・彼女は何も悪くない」


 コハクは自分の思いが届いていることに怯えている。

 サリアは知らない。彼女が、自分の『悟られ』の力で、どんな目にあったのかを。

 でも、コハクも望んでいるのだ。

 自分の思いを、伝えたいと。

 サリアは続けて、コハクに語りかける。


「わかったでしょう?伝えられたのが。言葉にはなってなかったけど、感じたよ。私は少し他の人より、心の耳が敏感なだけ」


 『《「〔([[{{〈【:・・・・・・・*・・・・・・・:】〉}}]])〕」》』


「それが貴方の『感じた』怒り? 違うわね。彼が死ぬかもしれないって事、実感させられて、『恐怖』が走ったのね。

 私も、わかる。

 ラトがもし、って思うと、きっとそう感じるんだ。

 

 ねえ。

 戦争が起きてるよ。


 人が、死んでるよ。


 今みたいな『恐怖』が、どんどん『絶望』に変わっていってる。

 

 ピニオンは、あなたを守りたいって思ってるのに、誰も殺したくないってさ。


 伝えるのは、まだいいから。


 今の彼を、感じてあげてよ。

 

 

 ピニオンは、何も隠さなかったでしょう?

 半年も一緒にいたなら、全部さらけ出してったでしょ?



 ならきっと!

 世界で一番、貴方がそばにいるべきでしょ!?」


 ラトの腕に、サリアが抱きつく。

 これは私のだからね、とでも言うように。




『世界で一番、貴方がそばにいるべき』


 そんなこと、分かってる。

 ていうか、他の誰にも、許さない。

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