他の誰にも許さない
『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』
「・・・・・・っ!!」
・・・・・・ものすごい響き方だ。
目の前にいるという事が何か関係あるのだろうか。
「サリア姉、大丈夫か」
とっさに耳を庇うようにして竦んだサリアに、ラトは心配そうな顔を見せる。
「・・・・・・大丈夫。今なら出来るかもしれないもの。
・・・・・・本当は、そんな事態じゃないのにね・・・・・・」
気づいたのは、ついさっきだ。
コハクの『派動』のパターンと大きさが変化している。
そして、段々と膨らんでいる。
中庭のコハクの前に、ラトとサリアは立っていた。
この強烈な、でも何かを掻き立てるような。
不安や恐れではなく、怒り、憤りに近いそれ。
でも、それを感じて、誰かを抱きしめたくなるような、魂を揺さぶられるような、血の昂りが引き起こされるその『派動』。
(宿命のライバルと戦っている時間と、お腹いっぱい食べていい時に『いただきます』って言ってすぐと、ラトと・・・・・・してる時が、いっぺんに来たみたいな)
根底に、それがある。
誰に向けてのものかは、考えなくてもいいだろう。
そして、彼の思いもコハクに届いているのだろう。
だからこそ、それが失われるかもしれないこの事態をなんとかしたい、その思いが暴走しているのだ。
正直、こんなことをしている場合ではない。
しかし、カーリュッフの遺物研究員である二人は、この戦争に手を出せない。条約違反になるからだ。
サリアの持つ巨大な魔石は、遺物なのだ。
戦争に使ったことがバレたら大目玉である。
が、『コハク』がおこした『事故』ならば?
まだ処理のしようがあるのだ。
「『言葉』にしよう。つながろう。私も、力を貸す。
だって、言わなきゃ分かんないよ。伝えなきゃ伝わらないよ。
言うだけならなんとでも言えるよね。でも、考えてよ。
伝わってるんでしょう?
伝えたいんだよね? 出来ないだけだよね?
でも、『派動』はこれだけ伝わるんだもん。多分、貴方の心次第。
荒っぽいかもしれないけど、今はこんな方法しかないんだ。
ごめん。グウィンなら、もっと上手くやれるのかもしれないけど・・・・・・」
『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』!!!
『《「〔([[{{〈【:*:】〉}}]])〕」》』!!!!!!!!!!!
グウィンは間に合わなかった。
しかし、今、コハクの力がここまで膨れ上がっている今なら。
別の事が出来るかもしれないのだ。
「ラト」
「・・・・・・まあ、突発的な状態変化をうけての緊急実験とデータ採取の中での暴走って線でごまかせるだろうかな。いいよ。やりたいようにやったら」
波動がはっきりと届かないラトには、サリアが掻き立てられている事自体ピンと来ていない。
少し、寂しい。
サリアは、ラトにも感じて欲しいのだ。この『派動』を。
「ピニオンは、優しいよね。きっと、今までの誰より、貴方のこと考えてるんじゃない?
その彼の、『今』は、貴方にとって、どう?
彼、何を考えてる?
敵の兵士を殺す事?
ここから逃げる事?
人殺しなんて嫌だって泣いてる?
仲間の兵士を殺されて、怒り狂ってたり?
もしかして、もう死んだ?」
心を吹き飛ばされそうな、悪意と殺意と憤怒がサリアに浴びせられる。
『《「〔([[{{〈【:########*########:】〉}}]])〕」》』!!!!!
「・・・・・・っ!!!」
体中の血が一度全部抜かれたような、とてつもない脱力感と同時に、細胞一つ一つに雷撃が走ったような激痛。
「サリア姉っ!!!?」
「か・・・・・・はっ。だ、大丈夫」
ラトはコハクを睨みつける。精神系の魔術関連では役に立たないラトだが、今のがコハクの仕業なのはわかる。
「貴様っ・・・・・・」
「違うのラト。この子は怒っただけ。挑発したのは私。この子は・・・・・・彼女は何も悪くない」
コハクは自分の思いが届いていることに怯えている。
サリアは知らない。彼女が、自分の『悟られ』の力で、どんな目にあったのかを。
でも、コハクも望んでいるのだ。
自分の思いを、伝えたいと。
サリアは続けて、コハクに語りかける。
「わかったでしょう?伝えられたのが。言葉にはなってなかったけど、感じたよ。私は少し他の人より、心の耳が敏感なだけ」
『《「〔([[{{〈【:・・・・・・・*・・・・・・・:】〉}}]])〕」》』
「それが貴方の『感じた』怒り? 違うわね。彼が死ぬかもしれないって事、実感させられて、『恐怖』が走ったのね。
私も、わかる。
ラトがもし、って思うと、きっとそう感じるんだ。
ねえ。
戦争が起きてるよ。
人が、死んでるよ。
今みたいな『恐怖』が、どんどん『絶望』に変わっていってる。
ピニオンは、あなたを守りたいって思ってるのに、誰も殺したくないってさ。
伝えるのは、まだいいから。
今の彼を、感じてあげてよ。
ピニオンは、何も隠さなかったでしょう?
半年も一緒にいたなら、全部さらけ出してったでしょ?
ならきっと!
世界で一番、貴方がそばにいるべきでしょ!?」
ラトの腕に、サリアが抱きつく。
これは私のだからね、とでも言うように。
『世界で一番、貴方がそばにいるべき』
そんなこと、分かってる。
ていうか、他の誰にも、許さない。