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キュクスの叫び  作者: おかのん
第3章
24/50

その頃のラトとサリア

 ピニオンとリアルトが斥候に出ている間。

 ラトとサリアは、特にすることはなかった。

 頼みのグウィンは開戦に間に合うかどうかも分からないし、ピニオンが帰ってくるまで待って、戻り次第最寄りの街に行けばいいだけである。

 そもそもここに留まらねばならない理由もない。

 

 ではなぜここにいるのかというと、理由は。

 一つ、グウィンから連絡を取りたいと思った場合に、連絡を受け取る側の『鏡』がここにある事。

 一つ、ピニオンが徴兵されているため、どちらにしろこの近辺にいなければならない事。

 そして・・・・・・


 食糧事情であった。


 「おばちゃーん! おなかすいたあ!!」


 サリアの辞書にダイエットという文字はない。

 必要がないからだ。

 胸はなかなかある。というかかなり大きい。

 背は低くもないが、けして高くない。平均よりは若干低いがその程度。

 顔や首周りには、余分に肉はない。しかし臀部から大腿部にかけてはしっかりついている。

 余計な話だか、可愛らしい顔立ちでもある。加えてエキゾチックな魅力がどこかあり、話してみると明るく気さくだ。

 

 何故か。

 彼女が使う『魔石(ツェナ)』は、熱をエネルギーとし、その供給は術者が口にした食べ物で行う。

 もしくは、直接魔石に触れさせた物が『食べられるものである』と認識できれば、直接溶かすことが出来る。

 あらゆる形を取れる『魔石』は、痛みを感じないほど細い針となって体内に刺すことも可能。


 つまり。


 サリアは自分で、魔法による『部分痩せ』が出来るのである。

 殆ど反則だ。


 『お腹いっぱい食べて理想のプロポーションでいたい』という我が儘が通ってしまうわけだ。


 そして、料理をする者にとって、幸せそうに自分の作ったものを食べ、きれいに食べ終えるどころか、もっと、もっとと要求してくる人間というのは、自らの存在を誰より肯定する相手である。

 今日も厨房には残り物はない。

 その日に出した食糧は、端数含めて数%はサリアが平らげる。

 数千人の食事をまかなう食堂で、数%というのは冗談ではない数値である。


「・・・・・・」


 こういう時男としては一言言いたいのだが、ラトは何も言わない。

 伝家の宝刀であるはずの『太るぞ』というセリフが全く効かないからである。

 実際に絶対太らないのでは脅しにならない。


「・・・・・・もう5日になるか」


 ここに来てからそれくらいになる。

 ピニオンが斥候に出てからは3日程か。

 どちらにしろここから動くメリットはないからと、ここに居座ると決めると、サリアはすぐにここに打ち解けた。

 ついでにラトも、サリアの恋人として紹介を受け、その線で馴染んでしまった。

 幼少の頃は孤児で、同じ境遇の子供のリーダーだった彼女は、そういうことがうまい。

 

「はいよ。いつものピラフとスープと今日のメインのあまりと・・・・・・」


 先に出してもらった、チョコレートをひとかけ入れたコーヒーをすすりながら、おばちゃんの出すメニューを目をキラキラさせて待っているサリアを見つめる。

 いつものピラフとスープというのは、サリア専用メニューである。

 別にただ飯を食らっている上にそんな頼み事をしたというわけではない。これらはほぼラトが作ったものであるし、一応二人は厨房を手伝っている。

 どこでも誰とでも持ちつ持たれつというのが二人のスタイルである。

 

「いただきまーす!!」


 手を合わせて元気良くそう宣言し、満面の笑みでピラフの山を崩しにかかる姿は子供のようである。

 ちなみにこのピラフ、厨房の奥で少し漬け過ぎになっていた肉やらピクルスやらで出来ている。塩漬け肉などの塩抜きをし、古くなりかけた乾パスタなども砕かれて入っている。スープの方などは、各種骨やガラなどを煮出したフォンに塩抜きに使った汁を混ぜてスパイスで風味を出す。クズ野菜の形を整え、煮るなり揚げるなりして食べやすくして具として浮かべている。

 手間はかかるが元手は殆どかかっていなかったりする。

 器具のレンタル代と古めの食材の下取り分くらいは働いているだろう。メインの余りをもらうのは処分品であるからもらう時点で商談が成立している。

 恐るべきは。

 これが日に三回ある『おやつの時間』だということだ。

 席に着くと顔が見えなくなるようなピラフの山と、鍋のまま出てくるスープ。余り物だからと、これでもかと重ねられたミックスフライ。


(この環境は・・・・・・サリア姉にすれば天国に近いだろうけど)


 勿論サリアは我慢の出来ない子ではない。子というのもなんだが。

 そもそも孤児であったのだから、無いものはどうあってもないという時は何も言わない。

 しかし、そのせいか、どうとでもなる環境では歯止めが効かない。

 自らを美しく保つという、女の永遠の命題でさえ反則を使っているので歯止めにならない。

 逆にじゃあ何が問題かというと。


(旅の生活を始めるときに耐えてる姿が忍びないんだよな・・・・・・)


 この生活は旅を送る中では絶対不可能だ。

 キャラバンなどに同行しても絶対無理である。

 つまり、ここでの生活を満喫すればするほど、旅が辛くなるのだ。


(年取ったら、こういう場所に就職するかな)


 勿論サリアも一緒に。


 ちなみに、魔石使いは食い逸れる事がまず無い。

 その反則的な美容法を金持ち相手にすればいいだけだからだ。

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