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キュクスの叫び  作者: おかのん
第2章
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人を殺してでも得たい事

幕間と繋がる、東方将軍と王子の密談。

第二幕の終。


ハルツとエスハーン。互いに譲れぬ正義。


善や悪ではない。

野望でも理念でもない。


それ(譲れぬ事)こそが、正義。

「・・・・・・と、いうわけだ」


 ディグニット王子は、呆然としていた。

 

 キュクス内、ディグニットの執務室である。

 魔導に関する幾許かの文献と、教育係が選んだのだろう、少し偏った帝王学の本の数々。

 装飾は派手ではないが、丁寧に作られたのが一目でわかる机。

 しかしあまりに重厚すぎて、優男か、下手をすれば少年と間違われそうなディグニットに全く似合っていない。


 それはともかく、今聞かされた、リアルト自らが出向いて掴んできた情報。

 それは、エスハーン帝国がハルツ王国に攻め込もうとする、分かりやすすぎる原因であった。


 食糧難。


 エスハーンは他国の支配から近年無理矢理独立したばかり。国力をこれから増やそうと思った矢先。

 蓄えの全くなくなった所を見計らったような干ばつ。


 事情がわかった所でどうしようもない。

 それがディグニットにもわかった。


「彼らは、戦う前から窮地にある。つまり、どう考えても長期化はないということだ」


 モタモタ戦っていては、残った貴重な食料を兵士たち自身が食い尽くしてしまう。こんなバカバカしいことはない。

 勿論、勝つために来るのだろう。だがこれはある意味口減らしでもあるのではないか。二万が精鋭か今期の徴兵かどうかでも意味合いが違ってくる。

 どちらにしても、国にも兵にも不幸すぎる。


「エスハーンは・・・・・・ 彼らの国はそこまで酷い状態なのか?」


「ああ。ピニオンが、騎士クラスとおぼしき青年から、『勝てねばエスハーンが無くなる』『サルチェ平原辺りは死の大地だ』という言葉を聞いている。希望的観測が入る余地があるとは思えん。

 繰り返すが、彼らは戦う前から窮地にある。だからこそ・・・・・・ 凄まじい勢いで来るぞ。

 こちらも全勢力で、ここを守りきる!!」


 当然だ。相手の事情より優先されるものがある。

 この国。

 だが・・・・・・


「ただの『侵略』ではなく・・・・・・ この戦を、最後の希望として向かってくるというのか・・・・・・!?」


 それでも侵略に変わりない。

 何より・・・・・・


「おい!! ・・・・・・しっかりしろッ!!!

 どんな理由だろうと、奴等は俺達を殺しに来るんだッ!!!!

 飢えた国一つが冬を越せるだけの食糧というのが、どれだけになるのかわかるだろう!?

 今年の俺等の食い扶持を仲良く分ければ、共倒れになるところまでなッ!!!!」


 そうだ。

 どんな理由であっても、こちらがおとなしく殺される道理はない。


「・・・・・・わかってる」


 わかってはいるのだ。


「僕だって、自分の国を守るだけだ。奪おうとするというのなら・・・・・・殺してでも」


 殺してでも。


 人が、人を殺してでも得たい事。得続けなければならない事。

 人が、生きるという事。生き続ける事。


 たとえ彼らが、守るべき者の為に生命を賭しているのであっても。

 我らとて、同じく守るべき者の為に負けるわけになどいかない。



 ((  ・  ))



「『どんな理由があったって、押し込み強盗なんかやられたら、話し合いも出来ない』か・・・・・・」


 ピニオンを見つけた兵士だった。

 あれから数日が経つ。

 気にしても仕方の無いことだと思いながら、半日の行軍を終えて、食事の準備が整い始める頃になるとどうしても思い出してしまう。

 

「皆も聞いていたからね。少しだけど、動揺も走ってるよ」


 鍋の実をかき混ぜながら、仲間が会話に入ってくる。

 同じことを思い出していたのだろうか。


「無理もない。皆感じていたことだろうからな。だが・・・・・・」


 その言葉を、別の声が繋げる。


「他国の力を借りて、再び栄えた国などない」


 ピニオンにキュクスのことを訪ねた青年であった。


「・・・・・・フィアロウ様」


「俺達の国はもう、やり方を選んでいる場合じゃないんだ」


 フィアロウ・メピクス。

 エスハーン帝国第二師団で、主に先鋒を得意とする第四中隊の騎士長である。

 通りがかったらしいが、口を挟まずにいられなかったのだろうか。立ち止まって、しかし兵士達に背を向けたまま、呟く。


「命を賭す事も、罪を犯す事も・・・・・・ 守りたいものを守れたら、報われる」


 そう。『報われる』のだ。

 それ以外は、望んではならない。

 俺達は、自分たちの都合で人殺しを前提に略奪をしに行くのだ。


「そう・・・・・・ ですよね。兵に志願した時、そんなことは覚悟したつもりだったんですけど・・・・・・」


 既にフィアロウは歩き出していた。

 無言で通せばそれでこの話は終わったろうに、思わず言い訳をしていた。

 フィアロウはそれには答えず、自らの戦う理由を脳裏に映す。


(許されなくていい)


 もとより、許されるはずもない。許されたいとも思わない.

 それは、なんとも思わないというのではない。罰を受けねばならぬと分かっているのだ。

 途切れさせるわけにいかない、その時の為に、背負うことを厭うわけにはいかない。


(救いもいらない)


 救われようなどとおこがましい。

 罪を背負い、磨り減って、苦しみ抜いた後に倒れ、地獄に落ちるべきだ。

 そこに救いの入り込む余地などない。


 ただ・・・・・・


(守りたい・・・・・・!!)


 命は。

 途切れてしまったら終わりなのだ。

 

 ならばどんなことをしてでも、紡ぎ続けねばならないのだ。



 彼女は今、この国にいる。

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