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キュクスの叫び  作者: おかのん
第1章
2/50

北の森

 ここで時間は巻き戻る。

 ただの猟師であるはずのピニオンが、ここにいる理由。

 それを知るには、彼の身に起こる半年前の出来事について理解せねばならないから。 


 重なる物語の片翼を綴る。 


 ピニオンは、村の北にある森を狩場にしていた。

 この森は、何故か奥に行くほど獲物が少ない。入り口となる周辺のほうが、緑や木々も豊かで動物も多く棲む。


 普通は逆だ。

 そもそも水源や豊かな土壌を中心に広がるのが森のはずである。


 不思議に思う者は多かったが、しかし事実、奥に行くほどに木は枯れ、折り重なって道を塞ぎ、毒虫や蛇も多くなる。

 わざわざ行く者はいなかった。

 

 ピニオンは、少し違った。



 すでに他界した祖父とは二人きりの家族で、弓の扱いを教えてくれた。

 

 そして・・・


 『森の奥には近づくな』


 そう、口をすっぱくして言っていた。


 若い頃、何か宝物でもあるのでは…とか、古代の遺跡でもあって、それの何かが今でも動いているのではないか… などと思って、行ってみたそうだ。確かに、遺跡が今だに環境に影響を与えているという話はあるらしい。

 死の森は果てが無いわけではなく、祖父はその途切れ目を見たことがあると言っていた。少し緑が戻ってきたあたりで、目の前にはまた森が広がっていたらしい。勿論そうなるとただ向こう側に出ただけということも考えられる。どちらにしろ祖父はさらに前にいくことは出来なかった。急に霧が深くなり、道に迷い、恐ろしい数の毒虫が出てきて、逃げ帰ったという話だ。



 その日、ピニオンは退屈していた。


 こう言っては何だが、ピニオンは弓の腕はともかく、猟師としては祖父より成績がいい。

 とけ込むのがうまいというか、無害っぽく見えるというか…

 警戒心を抱きにくいのである。

 そのおかげか、長い間身を潜めなくても、獲物に気付いたらそっと身をかがめて、慣れで矢を放つ。それだけで獲物を取れてしまう。

 当たれと集中することもない。余計な力は全く入れない。ただそこに、射るべきものを見つけたから、狩る。

 あまりにも自然すぎて警戒が出来ないのだ。

 殺気を撒かずに獲物を仕留める。この凄さに当の本人は気付いていないのだが、その才能のせいもあって、それなりにピニオンは生活に余裕があった。

  

 そんなこともあってか。

 森の奥に入ってみようと思い立った。

 実は前々から下準備はしてあった。


 今日は晴れに晴れている。雲ひとつない。

 自作した虫除けのこう薬を使い始めてから、刺されたことは無い。

 なにより、人は自分で体験してみないことには、納得しないということは多い。ピニオンもその例に漏れなかった。

 狩りの準備はいつだって出来ている。気持ち多めに持ったら準備完了である。

 彼を動かすのは、祖父のような物欲ではない。冒険家の中にあるもの。その中から名誉欲を取り除いた…

 いうなれば、好奇心。


 木々が段々に枯れて折り重なり、道を塞いでいるあたりは、これも暇な時にこつこつと取り除いておいた。そのおかげで、3時間もしないうちに、祖父が言っていた『緑の戻ってくるあたり』についていた。

 毒虫にも遭わない。祖父はその時『急に霧が深くなった』と言っていたが、ここまで晴れ渡っているとその気配さえない。緑は戻ってくるに留まらずどんどん濃くなり、鬱蒼としてきた。ここまで深いとさすがに霧が出てきてもおかしくは無いのだが、空気が湿ってはいても霧は出てこなかった。

 一時間半も歩くと、今度は普通の森に戻った。

 入り口あたりに広がっているのと変わらない、豊かな森だ。人の手が入っていないので、獲物はさらに多いだろう。夏になったら何度かキャンプに来て、多めに狩っておくと冬の蓄えが楽になるだろう。

 

      

         ・



 ?


 なんだろう。

 ピニオンは、気配? …を、感じたような気がした。

 …気のせいだろうか。


     


        ( )



 …っまただ。

 水の波紋を見ているような、気配が広がって… でも、力を失っていくような、また元の泉に戻るのを見ているような。




       ( ・ )

 



 …どこからだろう。 

 なんとなく、さらに奥のような気がした。

 その方角には、ひと際大きな木が見えた。

 さっきまで歩いていた、鬱蒼とした部分、そしてその間にある枯れた木々の折り重なる場所。それに邪魔されていたのだろう。今の森からなら十分に目立つ大樹だが、入り口に広がる森あたりからではこの木は見えない。

 ピニオンは、その大樹を目指して、さらに森の奥へと入っていった。

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