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キュクスの叫び  作者: おかのん
第2章
17/50

丸一日ぶりくらいの、相手のいる独り言

「・・・・・・と、いうわけなんだ」

「・・・・・・はあ」

 

 その夜、二人に割り当てられた部屋で、リアルトとの取引の結果を聞かされた。

 コハクの事をばらす代わりにいい条件を引き出そうと思ったら、正論を盾に難題を押し付けられたらしい。

 しかもその条件がピニオンの徴兵だという。


「・・・・・・で、僕はどうしたらいいんですか?」


 ピニオンに判断のつくことではない。


「正直、あの人は柔軟にも関わらず、したたかというか、狡い。出来る範囲で便宜を、しかも面倒くさがらずやってくれるので、つい頼ったり甘えたりしたくなる」

「ラトみたい」

「にもかかわらず、同時に弱みも的確に分析して、ピンポイントでついてくる。正直二度と交渉事をしたくない相手だ。というかおいサリア(ねえ)。今さらっととんでもないこと吐かなかったか」

「ラトのこと大好きって言っただけ♥」


 この二人はお似合いすぎて正直ムカつく。


「つまり、お二人にもどうしていいかわからないってことでいいんですね?」

「まあそうだ。徴兵云々はさすがに君が嫌なら突っぱねる。僕らの重要な協力者でもあると言っておいたから、君が嫌といえばこちらも無理は言えないという話になっている」

「お二人は僕が首を縦に降れば助かりますか?」

「否定はしないが気にはしないで欲しい。君の命に関わるからな」


 でも。

 それが同時にコハクのために・・・・・・

 彼女を復活させるためには、カーリマンズ学院に連れて行かねばならないのだ。


 いや。


 

 それとは別に、ピニオンは気になっていたことがある。


 どうして、エスハーン帝国は戦争を始めたんだろう。という事。



「・・・・・・・・・・・・」


 戦争なんてまっぴらだ。

 当たり前に人が死んでいく。

 大勢で殺し合いをする。

 何かを賭けて。

 命まで懸けて、賭けさせて。

 何を?


 ピニオンは、自分の考えを振り払う。

 馬鹿な。

 兵士になったところで、それが・・・・・・ 戦争をする理由が解るわけじゃない。


「・・・・・・コハクと、二人きりになれますか?」


 どうだ? という目線を、ラトがサリアに送る。


「可能よ」



 ((( ・ )))


「丸一日ぶり・・・・・・位かな。君の答えは聞けないけど、君に声が届いているなら、こうやって喋るのも無意味なわけじゃないんだよね」


 (((( ・ )))) 


 『波動』が来る。

 相変わらず、気持ちいい。

 ベッドのへりに座って、少し、体をかがめる。見上げるような角度でのコハク。

 ありえない大きさの宝石の中に、物語の中の世界樹のようなガジュマルに守られ、枝葉と共に閉じ込められた、翼を無くした天使。


 いや。


「『翼人(フェザーフォルク)』だっけ」


 知りもしなかった、第六の種族。

 僕等『人間(ヒューマン)』と同じ、この世界で生きる仲間。


「僕は、君のことなんにも知らない。いつからこうしていたの?どうしてあそこに?どうして琥珀の中に?翼を失ったのはどうして?伝える力を・・・・・・『悟られ』を失ったのはどうして?

 ・・・・・・答えて欲しいんじゃないんだ。僕が、君のことを知りたいって思ってることを、知っておいて欲しいと思ったんだ」


 君のことを知るために、それをしてくれる人の手伝いをするために。

 僕は、命を落とすかもしれないことをすることになるから。


「・・・・・・僕のことを、君がどう思ってるのかもわからない。君はそこで退屈なのかな。それとも、安らかな眠りを望んでいるのかな。前者なら、僕が話しかけるのは、退屈凌ぎになってるんだろうか。後者なら、答えることも出来ないのがわかってるくせにちょくちょく安眠妨害するうざったい嫌な奴なんだろうか」


 ( (( ((( ・ ))) )) )

 

 一際大きな『波動』。強い強い・・・・・・ 何らかの、意志。


 何を意味するのか、わからない。


「・・・・・・困らせたかな。怒った? もしそうなら、謝る」


 ( ((( ・ ))) )


 もし本当に迷惑であっても、まだそれはピニオンには伝わらない。

 だから、ピニオンは、会いに来るのをやめられない。

 会いたいから。


「また来るよ」


 ピニオンはベッドから立ち上がり、部屋を出た。


 (・)   (( ・ ))


「こちらからも条件が有ります。期限を区切ってください」


 ピニオンはリアルトにそう告げた。

 戦争の準備まではしてもいい。でも、殺し合いに参加はしたくない。

 虫のいい話というなら、この話はなしだ。

 グウィン先輩という人は、連絡を取るための『鏡』を持ち歩いているという。だったら、ここに留まるのは、自分たちにとって楽なだけで、彼女にはあまり関係がない。

 盗賊の心配がないのは共通のメリットだが、命の危険はここの2週間後の方が高い。


「2週間。それでいいか。それを過ぎたら、あの娘の国外連れ出しの許可をやる」

「はい」

「・・・・・・こき使ってやるぞ」

「無理を通させた元くらいはお返しします」


 リアルトは愉快そうに笑う。もっとも、人相の悪さもあって、控えめに行って魔王の笑いにしか見えない。

 それでも、ピニオンは、この人がただ本当に嬉しいだけなのがわかった。


「早速仕事だ」


 もうかよ。


「何をすればいいですか?」


「斥候だ。ついてこい」


 ?????????????


 ついて来い??

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