買われたピニオンの腕
「・・・・・・この距離でいいんですか?」
「ああ。好きに始めろ」
そうリアルトに示された距離は、ピニオンの歩幅で5,60歩ほどか。ピニオンの感覚で言えば、遠くも近くもない距離だ。
そして、的にもよるが、ほぼ外すことのない距離だった。
力は入れない。当たるのが分かっている距離なのだから、人がいて緊張するとかでなければ、固くなることもない。
狙い打つ。
・・・・・・ッタァン!!
ど真ん中である。
・・・・・・もう一本。
・・・・・・ッタァン!!
少し右にずれた。
中心の丸の中には入っているが、やはり祖父に及ばないとピニオンは感じた。祖父はこの距離なら、二本目で一本目を掠める。調子が良ければまっぷたつにするのだ。
・・・・・・ッタァン!!
今度は少し上。やはり円の中とはいえ、さっきより開いた。思ったより鈍っている。
・・・・・・ッタァン!!
・・・・・・ッタァン!!
・・・・・・ッタァン!!
・・・・・・ッタァン!!
ペースは早くなるが、なかなか矢に当たらない。
中心の円の赤はもう見えなくなっていた。
「あー もういいもういい。からかって悪かった。まいった」
「?」
まいった・・・・・・?
「はあ・・・・・・」
「たいしたもんだ。お前、軍に入らないか? 弓隊の一つくらいくれてやるぞ」
!?
「隊一つって・・・・・・」
「足らんか?」
冗談ではない。戦争に巻き込まれている場合ではないのだ。そもそも興味もない。
だが、リアルトは本気の目をしていた。
「僕には僕のやりたいことがあります」
「そうか」
それ以上は、リアルトは何も言わなかった。
そしてすぐに、コツを教えろだの稽古をつけてくれだのとほかの兵士たちにもみくちゃにされた。
しかし、祖父に教えてもらったのは、一言だけだった。
{どうすれば当たるか考えながら、最後の一本のつもりで放ち続けろ。百本射って真ん中に行かなかったら、ぶん殴ってやる}
そう言われてピニオンが真ん中に当てたのは17本目だった。
今のと同じくらいの距離だったはずである。
( (・) )
「開戦ギリギリまでここに留まらせろだと?」
「ダメですか?」
どのみち二週間身動きが取れないなら、ここにいた方がいい。『鏡』があるし、食料も問題ない。
国家間で共通の条約を結んでいる、『学院』との関係を考えれば、リアルトの裁量で許可が降ろせる筈だ。
「・・・・・・出来なくはないが・・・・・・ その前に、結局君らが運んでるものはなんなんだ? 見て構わないものなら、見せてもらえないか」
「まあ、問題ないと思います」
この時、ラトは判断を誤った・・・・・・ と、言えるのだろうか。
リアルトの目の付け所は、人が悪く、鋭すぎた。
(( (・) ))
「・・・・・・これは」
士官用の一室。使っていないこの部屋に三人はいた。
リアルトはコハクを見て、少なからず驚く。
「翼人の少女です。琥珀の中に閉じ込められていますが、死んでいるわけではありません。彼女には、常識はずれの大きさのガジュマルによって、大量のエネルギーが送られていました。それを必要としたことからも、同族である研究員に種族独自の信号が届いたことからも、生きていることがうかがえます」
リアルトは、ニヤリと笑った。
その顔は、後ろから話しかけるラトとサリアには見えなかった。
「この娘のことは、ピニオンは知っているのか?」
「彼が第一発見者です。見つけて半年は経っていると言ってました」
リアルトは振り向いて、二人に言い放つ。
「この娘、国外への連れ出しは許可できない」
「「ええ!?」」
いきなり手のひらを返された。
ついさっきまで協力的であったのに。
「生きていると確信出来て、ハルツ王国の領内で保護されたからには、国民であると取ることも出来る。同時に遺物であるとしても適用される。彼女の意志なしに国外に行くことを許可しない義務が我々にはある」
この時点でそれが判断できないからこそ、胸先三寸で許可を貰えるよう、譲歩したというのに。
しかし、正論を持ち出されて抗うすべもない。
「そこでだ。超法規的措置というものを考えよう。ここに留まる間でいい。開戦ギリギリにここを出て、ハルツ国内に戻る形でもいい。その間、我らに協力してもらおう」
「・・・・・・何をしろと?」
「君らはその少女を守っているといい」
リアルトが力を借りたいのは、学者ではない。
「ピニオンを徴兵させてもらう」