『グウィン先輩』への報告と、ピニオンの『もったいない』
次の日。
ラトは、やっとカーリマンズ学院との連絡を取ることができた。
相手は、『グウィン先輩』。
「ええと、まとめると、俺が感じ、お前たちに確認に行かせた『波動』の発生元の少女は、琥珀の中に封印され、絡みつくガジュマルに生かされていた? しかも羽は見当たらず、『悟られ』部分が機能してない・・・・・・」
「はい。しかもそのせいか、サリア姉が『魔石』を使っても、読み取ることが出来なかった。
魔石の能力は、『記憶を読み取る』のとは違います。『その時考えていること』を、主に読み取ります。
だから、悟られの能力が齟齬をきたしていることが、この現象に何らかの影響を与えているのは多分間違いないでしょう。問題はそのことを解決する手段はこの場に多分無いってこと。そしてそちらに戻ることが出来ないって現状です」
サリアは引き続き呼びかけを続けているが、成果は芳しくない。
「分かった。身重のサリアを抱えたまま、砂漠越えは無理だろうしな。で、どうする? エスハーンからすぐ船で出れれば、実質の移動がなくて済むって算段が裏目に出た格好だな。逆に、そこに留まるなら負担はなさそうなのか?」
「はい。開戦間近の要塞ってのはアレですけど、食糧は実質タダですし」
食堂の利用をタダにしてくれたのはありがたかった。
こういう気遣いをしてくれる貴族はそういない。
「とりあえず俺がそっちに行くよ。ただ、こちらもケリをつけなきゃならん物もあるし、すぐにとはいかん。どんなに早くても2週間はかかる」
「・・・・・・開戦ギリギリですよそれ。後輩の危機なんですからもうちょっと無理してください」
「いざって時にお前らがそこにいる義理まではないだろうよ。『鏡』は予備を持ち歩くことにするから、状況が変わったら言ってくれ。それじゃあな」
フツンッ・・・・・・
「・・・・・・気軽に言ってくれるよ。まあいいか。2週間動きが取れないとなれば、それはそれで対処のしようがあったはずだ」
・・・・・・ふと。
「・・・・・・身重のって表現はちょっとオヤジ入ってないかあの人」
まあ、どうでもいい事である。
( (・) )
その頃、ピニオンはハルツ側の草原で寝転んでいた。
コハクにはあまり会えていない。サリアがあてがわれた部屋に引きこもりに近い状態になっているためだ。
会うといっても、その姿を見るだけなのだが。
コハクは、綺麗だ。
初めて目にした時の感動はまだ薄れていない。もう半年以上経ってるのに。
死んでいるなんて思えなかった。どうやって生きてるか不思議でもそう思っていた。
研究者の人から、間違いなく生きていると言われて、彼女の復活はピニオンの一番の願いになった。
時々放たれる、『波動』。
彼女自身の存在感が広がってゆき、包まれるような感覚。
その度に、彼女のことが知りたくなる。
瞳の色が知りたい。
声を聞きたい。
話してみたい。
いろんな顔を見てみたい。
触れて、みたい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
((( ・ )))
いつも、ちょっとエッチな想像に差し掛かった所でそばを離れる。
今も、そうしてきた所なのだ。
何か、とても失礼な気分になるのだ。
そして、この気持ちをどうしていいか分からない。
「・・・・・・はあ」
タァンッ・・・・・・
・・・・・・小気味よい音がした。
音のあった方を向いて見ると、弓の訓練をしていた。
20近く並べられた木の板の的に、300人近くが順番に矢を射っている。
(・・・・・・そういえば、戦争が始まると言っていたっけ)
よく見れば、そこかしこで訓練をしている。
国を守るために、若くて健康な男が、戦うための技を磨いている。
それはご立派なことなのだが、ピニオンはまず、『もったいない』と思ってしまう。
この草原にしたってそうだが、畑にできそうな土地というのはまだまだある。
そもそも、刈り入れの作物もいろいろあるこの時期、人手は必要なはずだ。
なのに、数千人の男が、何も作ることなく運動して、人の2倍の食べ物を食べる。
国そのものを守る。そのための力。それはもちろん、無駄なものではけしてない。むしろ、大切だ。
それでも、戦争がなければ使わなくてよかった、そして得られたはずの富。それはやはり、もったいなかった。
「暇そうだな」
「うわあ!?」
いつの間にか、後ろにリアルトが立っていた。
「猟師にしては鈍いな。この距離までどころか、声をかけて気づくとは」
冗談ではない。
(・・・・・・気配を消すのが上手すぎるよ)
むしろ、正面からぶつかる戦いに特化しているはずの聖騎士から出世した将軍閣下が、なんでそんなアサッシンみたいな技能があるのか聞きたかった。
「馬鹿にしないでください。そりゃあ獲物の豊富なあの森以外知らないような猟師ですけど、弓矢でそこいらの人に負けるようなサボり方はしていませんでしたよ」
むくれて反論すると、リアルトは、面白いおもちゃを見つけた子供のような顔をした。
「ほう。じゃあ、あいつらに稽古をつけてくれまいか? あいつらが今立っている距離から当ててみてくれ」
手本を見せてみろということか。
「かまいませんよ」
退屈していたところだった。
したいこと(コハクに会うこと)はろくに出来ず、食糧事情が解決したので狩りの必要もないし。
自分の腕がどれだけ戦争に使えるのかなんてわからないけど。