リアルト=ストーウィック
『鏡』というのは、『遠見の鏡』の略。俗称である。魔導ギルドや国家レベルで使われる連絡手段の一つだ。
お互いに特定の鏡の前に立ち、相手を意識しないと連絡が取れない。
微妙に不便だが、定時連絡や、『用があったら何時に鏡の前に立つ』と決めておき、片方がその時間に毎日鏡の前に立てば、直接会話が出来るメリットがある。
カーリマンズ学院のカルファト教授の研究室では、正午に連絡を取ることを決めていた。
つまり、昼過ぎにキュクスに到着したため、翌日まで連絡は取れなかった。
一応、3人は客人として招かれた。遺物関係の研究者であるからか、融通もきくらしい。
数千人単位の人員を要している以上、食糧は豊富だった。とりあえず当面の心配はない。
ラトとサリアは、コハクに呼びかける作業を続けるという。
「あなたは自由にしてていいわ」
集中力のいる作業ということなので、邪魔にしかならないだろう。それでもコハクのそばにいたかったが、我が侭を行っても始まらない。
地形を把握するのは、猟師の癖みたいなものだ。ピニオンもその例にもれず、散策を始めた。
キュクスは突き出した半円形の城壁。さらにその後ろにその倍ほどもある、壁そのものといった城壁が続く。
巨人の椅子が置いてあるように見える。
長い間、二つの国を隔ててきた、まさに壁そのもの。
「・・・・・・・・・・・・」
その、椅子の背もたれのてっぺんから見て思った。
ここまでの拒絶って、そもそもなんであるんだろう。
いや・・・・・・
逆に、お互いに拒絶し続けて、それが当たり前で、そのままなんとかやってきたのに、それを壊して、戦争を初めて・・・・・・
何が目的なんだろう?
国はいつだって良い土地を求めてる。
でも、ここを落とすのは本当に大変なはずだ。
それでも攻めて来るだけの何かがあるんだろうか。
ふと。
コハクのことを思い出した。
彼女は、もしかして・・・・・・
彼らにとって、何か重大な意味があるとか?
彼らが独自に彼女のことを知って、何か、ハルツ側では思いつきもしないような利用法があるとか・・・・・・
ラトとサリアの言ってることはあくまで彼らの視点での考えだ。
そういう機関が他に秘密裏にあってもおかしくない。
自分の国の遺跡は自分達で調べたいだろうし、ほかの国で見つけても、自分の国にこっそり持ち帰って使いたいってのは普通だろう。
・・・・・・だめだ。
想像が悪い方へ悪い方へと行ってしまう。
一人でいるのは、やっぱり良くない。
「一人か」
声に振り向くと、さっきの『責任者』の人がいた。
確か・・・・・・『リアルト』さんだ。
「ご迷惑かけます」
「何、迷惑をかけてるのはこっちという見方もある。国同士の関係を良好に保てれば、向こうに通して終いでよかったんだからな」
「まるで王様のセリフですね」
「ディグニットへのイヤミさ」
・・・・・・ディグニット?
「ディグニットって・・・・・・王子様ですか?」
「ああ。明日ここに来る」
「そうなんですか・・・・・・じゃなくて。なんで王子様呼び捨ててるんです?」
「個人的に知り合いでな。公の場以外は呼び捨てさせてもらっている」
そんないい加減な。
「リアルトさんて、えと・・・・・・ 家名は『ストーウィック』ですよね」
リアルトの方が、ピニオンの考えを察した。
「聞き覚えがないだろう? そりゃあそうだ。俺は家なんかない。流れ者だ」
それならばますますおかしい。国境の警備は重要度次第で任される人間は違ってくるが、国同士の境目で、責任者が貴族以外というのはありえないだろう。
ましてや流れ者だなどと。
「東方面軍の将軍を無理矢理押し付けられたからな。愚痴を言う権利くらいある」
思い出した。
祖父がなくなる少し前くらいだ。
ラシィ・・・・・・ブラッシカが、『今度のここいらの将軍様は、旅の聖騎士様だって話よ』と話していた。
聖騎士ともなれば通常領土持ちだ。ずいぶん矛盾しているし、旅の・・・・・・ということはよそ者だ。
いいのだろうか・・・・・・と思った覚えがある。
この人か。
東方面軍の将軍。
確かにここの責任者のようなものだ。
東方面一帯の、という意味で。




