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キュクスの叫び  作者: おかのん
幕間
12/50

なんとかなるよね

ここでまた、現在の一幕を語る。

この先の物語を語る前に。


キュクスは、変わらずそこにある。

えぐりぬいたような、谷の挟間。


 訓練を終えたリアルトとピニオンは、訓練用の剣を片付けていた。

 

「で、どうだった。自分では」


「……付け焼刃でどうにかなる物でもなさそうですね。やっぱり。でも、振り回せるくらいにはなったのは収穫かもしれません。狩りと違って、弓が殆どじゃないし」


 防衛側である以上、近接戦闘にまで持ち込まれれば旗色は悪くなっている状態だろう。

 が、そこで踏みとどまれるかどうかだというなら、剣を握れるという事は無駄ではない。


「リアルトさん」


「何だ」


「あのことは、殿下に?」


「当然だ。これからではあるがな」


 軍靴の響きだけが、こだまする。

 偵察に出向いて知りえた事実。

 解ってみれば、どうということもない。

 そして、どうしようもない。

 

 ピニオンが理解できるほど単純で、解りやすい理由だった。

 リアルトが即座に諦めるほど明確で、救えない原因だった。


 リアルトは、叩き潰すつもりだ。

 それを、ピニオンが知れるはずもないが。


 (・)


 試合場を見下ろせる、三層目の屋上。

 そこに、さっきまではいなかった人影がある。


「ディグニット!!!」


 呼ばれた人物は振り返り、リアルトに気付くと顔をほころばせる。


「リアルト! 戻ったか。……あまり無茶をしないでくれ。この数日で胃の痛みがぶり返した」

「なら、こんな部下を迎えん事だ」

「言うな……」


 リアルトは、王子であるディグニットに気に入られ、無理矢理に将となった、旅の騎士だ。

 騎士というのも、格好や立ち居振る舞いがそれを連想させるというだけで、やっていたことは傭兵だった。

 通常、どんな腕の立つものでも、こういうとり上げられ方はしないし、それを一度はけられなお執着するのは、さらにおかしかった。

 しかし、ディグニットの王位継承の順位がかなり下であること、武が重視されるハルツで王子が魔道士である事もあるのか、噂には上っても、それをどうこうするものも少なかった。


 彼自身、尋常な将軍ではない。

 今回の偵察でもそうだ。

 将軍自ら(・ ・ ・ ・)偵察に赴くというのは、考えられる事ではない。


 それはともかく、報告だった。


「何か解ったのか?」


「大雑把に2つ」


「うん」


 つい、と、エスハーンの方を見やる。

 このあたりは、美しい。

 木々も茂っているし、獲物も多そうだ。木の実も秋に入ったばかり。さぞ多く取れる。


 気にならぬわけが無い。が、気にしている場合でもない。


「エスハーン帝国が攻めてくる理由と、戦いは避けられないという事、だ」


 王子の顔が、曇る。

 ディグニットはどちらかというと穏健派である。降りかかる火の粉は掃わねばならぬ、くらいの認識はあるが、戦いが避けられぬと聞いて、内心を隠せるほどでもない。


 それに思い至ったリアルト。


「……ここは冷える。中で話そう」


 胃薬どころか、頭痛薬が欲しくなるだろう。



 ((・))



 コハクに二度目のただいまを言いに行った後、ピニオンは中庭で草笛を吹いていた。

 周りはそれなりに慌しくしているが、何もする気になれない。

 サリアもラトも、これからの事を、彼らの視点で考えているだろう。


「なんとかなるよね」

 

 根拠は何も無い。

 暢気なだけだ。


 ピニオンは、彼らのしようとしている事が理解できるにもかかわらず、世界そのものの善性を信じているかのような、そんな思考停止をしていた。

 自分でさえ、コハクの為ならどんなことでもすると誓った。その事を思い出そうともしない。


「戦わなくても、いい筈だよね」


 ピニオンがそう考える事と、現実の流れは関係が無い。

 それだって解っているはずだ。


「だって、隊長さんは。あの国で生まれ、あの国で生きてきた、あの国を守りたいあの人は」


   ( ((・)) )


「……優しい感じの人だった」


 ならばこそ。守るべき物の為に、修羅となることもあるだろう。

 それは、自分でさえかつて刻んだ誓い。

 

 信じるという行為で生み出されるのは、信じたほうの心の安寧と、思いを受けた者の動く理由。

 世の中の善性を信じるピニオンの思いを受けて、応える者とは、だれだ?


 少なくとも世界は、ただそこにある。


 



 

 興味は、ない。





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