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キュクスの叫び  作者: おかのん
第1章
11/50

キャロルで憂鬱

   ((・))


 『波動』が時々来るたびに、ほっとする。

 彼女が生きていると知ることが出来るたびに、こそばゆいような幸せが胸を満たす。

 ……これが無ければこの旅はついて来たくは無い。寂しさで死にたくなるかもしれない。


 ラトとサリアは恋人同士だ。それは本人達からも聞いたし、見ていれば解る。


「……おなかすいた」

「もうないぞ。馬車にいっぱいの食料が3日でなくなるってどういう計算なんだ」

「おなかすいた」

「話聞いてるか? サリア(ねえ)

「すいたったらすいたもん!!!」


 子供かこの人は。


「……この先の村で先に交渉しておきます」

「すまん。助かる」


 どのみち配役はこれ以外ありえない。

 

 (  (・)  )


 なんだか慰められてるような気がした。



   (・)



 あの後、三人は、ひとまずピニオンの小屋まで戻った。

 コハクを運ぶのはサリア一人だった。

 運ぶといっても、魔石がスライムのようになって、クッションと荷車の役を同時にはたしていて、危なげはなかった。

 それはいいが、じゃあピニオンやラトが楽だったかと言えばそういうわけでもない。

 この運び方は、常に魔石を使い続ける状態なので、膨大なエネルギー……『魔石(ツェナ)』で言う所の、『熱量(キャロル)』を必要とする。

 しかもこのエネルギーは、よく言われる『魔法』とは違うらしく、『精神力』をエネルギーとして使うのではないという。

 じゃあ何を使うのかというと。


 『食べ物』なのだそうだ。


 

 サリアが食べた物の中で、脂肪などになってしまうだろう余分な栄養を、魔石が勝手に吸い取るらしい。

 他にも、直接、『食べられる』とサリアが認識しているものを、魔石に溶かしてもよいのだが、効率は悪いようだ。

 つまり。


 今までのガジュマルの変わりに、コハクにエネルギーを送る役割をサリアが受け持つという事は、サリアは、魔石を使い続けるエネルギーと、コハクに送るエネルギーと、自分の分…… その合計分、何か食べねばならないのだ。

 

「多分一日12,3人分だと思う」

 

 さらっと言われたが、とてもではない。早くカーリマンズ学院につかねば、この旅そのものが立ち行かない。

 プロフ村まで戻った時点で何とか馬車を譲ってもらい、ピニオンの蓄えを一切合財持ってきたが、レイゲンの町に着くまでに、その半分が彼女の胃に消えた。

 泣くしかない。


 ((・))


 レイゲンの町ではまだ良い方だった。琥珀を削って換金が出来たからだ。

 琥珀は宝石の中ではそこまで高価な部類でもないが、やはり粒の大きいものは価値がある。

 取り扱いが難しく、額が額になってしまうので、ブラッシカも最初は難色を示したが、儲け話であることには違いが無いので、迷っていたようだった。が、ラトのアドバイスで、


「これは、プレゼントって事でラシィにあげるよ」


 と、グリッターの綺麗な所を小さめのティアドロップにして渡すと、首を縦に振ってくれた。

 ピニオンもダシにされたのはわかるが、何も言わない。

 ハチミツの壷やら度数の高い酒やら、油の樽やらを買い込んだ。


「油って…… まさか、飲むんですか?」

「野草に小麦粉つけて揚げるんだよ。手間はかかるが熱量は高いし元手が安い。廃油は魔石に溶かせるしな」


 いやなこなれ方である。

 ちなみに後で食べさせてもらったら結構美味しかった。



  (( (・) ))


 そんなこんなで街道に出て、今に至る。

 魔石はある程度、熱量(キャロル)をため込む事が出来るらしいのだが、その量に満ちるまでは、術者、つまりサリアが常に空腹になるデメリットがあるらしい。今回は、運ぶ分までサリアが魔石を使った反動で蓄えをカラにしてしまい、それが長く続いているようだ。

 エネルギーの補給は死活問題だが、安くて腹持ちがいいだけの物を大量に食べさせると後で機嫌が悪くなるらしく、ラトは予算内で少しでも『美味しい物』を食べさせようと工夫していた。スパイスや調味料の類は、旅人とは思えない種類を持っていたし、保存食の種類も豊富であった。

 一方ピニオンは現地調達ならラトより数段上なので、先行して狩りや採集を良くやった。

 新鮮な食材であれば良いものが作れると、ラトは嬉しそうにしていた。


 サリアはコハクの面倒を見ているのだから仕事はしているのだが、はたから見ると食って寝ているだけだ。

 あの村で補給が出来れば、後2日で国境の、要塞『キュクス』である。

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