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最恐の幼馴染1

今回から何話かかけて、タイムスリップ前後をかきますです!


 俺の名前は工藤夏樹。年は十五、能力も性格も平凡だと自負している。

 そして唐突だが、今俺が置かれている状況を簡単に説明したい。


 まず全力疾走している俺。


 後方から銃を撃ちながら接近してくる騎馬隊。


 そして巧妙に俺を盾にして、俺の数メートル先を走る幼馴染の本城…あっ!今こっちを見て笑いやがった!


「どうしてこうなるんだ―――!」


 俺の悲痛な叫びは嫌味なほどにきれいな空に消えていった。






 少し時間をさかのぼり、こんなことになってしまった当日の朝。

 季節は春。世間ではよく変な人が増える時期などと言われているが、俺の直近には世間の標準をはるかに上回るレベルの変人が日常的にうろついているから気にはしない。

 基本的に平日の俺は朝六時前に起き、一人で朝食と学校の弁当を二人前作るのが日課…というより義務だ。

 義務と化している理由は後述するとして、三十分ほどで冷凍食品に頼らない、世間一般の主婦の皆さんも真っ青の出来の手作り弁当と和風朝食が一通り出来上がる。フッ、なぜに高校一年生の男子がこんな所帯じみた技術を身につけなくてはいけないのか。ちょっと涙。

 そんなことをしているうちに時刻は六時半。俺の義務の中でも最大の難関が近づいてきた。

 台所を出てリビングダイニングを通過。そのまま廊下へつながるドアに立てかけてある鉄パイプを手に取る。その到る所に刻まれた傷跡が猛烈に不吉な印象を与える。

 そのまま玄関に向かい、そこに吊るしてあるアメリカ陸軍謹製のデジタル迷彩の施された防弾チョッキを身につける。ご丁寧にセラミックプレートまで入った完全実戦仕様。メットと合わせ、総重量は十五キロ。

 姿見を見れば、完全防御の日系アメリカ兵士の完成である。

 …我ながら、朝っぱらからこんな恰好している高校生は異常だと思う。だが、俺がこれから赴く場所はこれだけの装備でもまだ生ぬるいと感じられる人外魔境なのだ。




 ようやく装備を終えてこれだけで十分。現在時刻は六時四十分、残り時間は後二十分だ。

 そのまま、覚悟を決めて扉をあける。

 家の周囲には廃工場と空き地が広がっている。自治体が工業団地にするか住宅地にするかで紛糾した揚句、玉虫色の結果になって両方とも失敗したという悲惨な計画のなれの果てだ。

 さっと玄関周りの草地を目で確認する。もしここにクレイモアもどきが仕掛けられているのを見落としたら、それ一発で今日が最悪の一日になる事が確約される。

 一応赤外線カメラで確認して目的地に向かって歩き始める。幸い、すぐそこはアスファルト舗装の公道だ。いくらあいつでもそこに地雷を仕掛けるような行動はしない…といいなー…。

 そのまま慎重に、僅か十メートルほど先の斜向かいの一軒家へと進んでいく。

 もしこの光景を街の人に見られたら俺は確実に頭がおかしい人だと思われるだろう。だが、俺は正気だし、そもそもこの周辺に来るのは新聞屋と郵便配達を除けば俺とあいつの二人だけである。

 そして、目的地の家の扉の前に立つ。

 その瞬間、条件反射的に全身から冷や汗が吹き出す。ここから先は三途の川で八艘跳びをするぐらいの覚悟が必要である。失敗したら命は無い。少なくとも社会的に抹殺される事はこれまでの経験から確約されている。

 覚悟を決め一気に扉を開く!

 一見すると普通の日本家屋。だが、一歩進めば大昔の忍者屋敷顔負けの凄まじいからくりに満たされた地獄。背後で金属のこすれるような音がしたので振り返る。見れば扉をあけると同時に、地面に埋め込まれていた有刺鉄線が家の敷地の境界に飛び出し退路をふさいでいる。

 我に退路無し。

 その事実を確認して、手に握った鉄パイプの感触を確かめる。


「行くぞッ!」


 叫んで、俺は突入した。


 直後、扉は勝手に閉ざされ、同時に中からは俺の悲鳴と正体不明の轟音が鳴り響いた。






 六時五十九分。

 俺はようやく目的の扉の前にたどり着いた。

 ここまでの苦労は到る所が裂けた防弾チョッキと新たな傷をその身の刻んだ鉄パイプの姿で分かるだろう。魔王城に侵入した勇者顔負けの死闘を繰り広げたのだ。

 半端ない達成感とともに、目の前の扉をあける。

 すると、扉のセンサーが反応して部屋の明かりが自動的につく。

 LEDに照らされるそこには、これまでの和風の内装とまったく異なる印象の空間が広がっていた。

 まず目につくのは各種分析装置の数々。細菌の培養装置からエックス線回折を利用した最新の分析装置まで、ありとあらゆる機器が二十畳ほどの無駄に広い部屋に据え付けられている。

 それらの間の所々にかわいらしい人形やぬいぐるみが飾ってあって、それが部屋の無機質な印象を和らげている。

 それらのど真ん中にある、部屋の印象から浮いている一脚の学習机。

 俺がこんな早朝サバイバルを繰り広げる羽目になった元凶が、そこに突っ伏して寝ていた。

 こいつの名前は本城美樹。年は俺と同じ十五。なんか違う気もするが、気違いと天才は紙一重というのを具現化した存在だ。

 すでにこの年でいくつもの重要な特許を持ち、全世界レベルでその引き抜き合戦が行われている天才児。

 これで顔が不細工だったら世の女性の嫉妬も和らいだだろうが、こいつは何の手入れをしている形跡もないのに素で美少女である。体型はまだ子供で身長も低いが、そのかわいい小動物系の顔にはむしろ合っている。

 運動神経も抜群で、以前道を歩いていて性質の悪い男に絡まれた時、その男が余裕で二メートル以上浮き上がり、顔面から地面に叩きつけられるのを目撃したことがある。合掌。

 おっと。うっかりここまで来た俺の仕事を忘れるところだった。


「おい本城、朝だぞ、起きろ」

「んっ…」


 俺の呼びかけに伏せていた頭をゆっくりと起こす。

 寝起きで髪はボサボサ、口の端からはよだれが垂れているという悲惨な状況だが、寝ぼけて無垢な表情を浮かべる本城は普通にかわいかった。

 もっとも、それもこいつの意識が覚醒するまでの話だった。

 いままでぼんやりしていた目の焦点がゆっくりと俺にあっていき、完全にそれが像を結んだところでその顔にまったく似合わないシニカルな笑みを浮かべる。


「おはよう夏樹。どうした、夜這いでもかけに来たか?」

「寝言は寝て言え」


 本城のからかいを一言で切って捨てる。


「なんだ、こっちは楽しみに待ってたのに」

「いいからさっさと家まで来い。学校に間に合わないぞ」


 残念そうな演技をする本城に簡潔に事実だけを伝える。


「おお、それはまずいな。今日はやってみたい事が色々あるからな」

「おれに関わらなければいくらでもやってくれ」


 時刻は七時五分。


 そのまま俺と本城は、トラップの解除された家を抜けて朝食と弁当の用意してある俺の家へと移動する。




 この時俺は、我が家で食べる朝食が今日で最後になるなんて考えもしなかった。

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