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1941~反撃の狼煙~1

北太平洋上。

 呉を襲撃したアメリカ軍機動部隊は、自らが世界最強であると自負していた。

 だがその考えも、これを見れば一瞬で吹き飛んでしまうだろう。

 二つの輪形陣を組んだ艦隊。その中央をそれぞれ航行するのは四隻の正規空母。

 右側の輪形陣で守られるは、艦首部分の飛行甲板を支える支柱が目立つ日本で最も古い正規空母『赤城』『加賀』そしてバランスの取れた中型空母として現在慣熟訓練中のヘリ空母『十勝』の原型にもなった『蒼龍』型空母『蒼龍』『飛龍』の四隻。

 左側の輪形陣ではアングルドデッキ(斜め甲板)を世界で始めて装備した大型正規空母『翔鶴』型空母が四隻勢ぞろいしている。艦名は一番艦から『翔鶴』『瑞鶴』『紅鶴』『蒼鶴』である。

 輪形陣を構成する護衛艦もそうそうたる面々が揃っている。

 輪形陣それぞれに二隻ずつ配されているのは、艦隊の守護神『金剛』型である。

 それぞれ、今年に入って行われた出師準備改装によりケースメイト式副砲の全廃が行われ、代わりに高角砲が十二・七センチ連装高角砲六基十二門に増設。同時に新型の射撃管制レーダーと射撃指揮装置を搭載。これらによって対空戦闘能力は最新鋭の大和型に次ぐ性能を誇っている。

 同じく二隻ずつ配されたのは、世界で初めて艦載機としてヘリコプターを搭載した航空巡洋艦『利根』型である。

 主砲は艦首に集中配置された三基の十五・五センチ三連装砲。

 艦尾は巨大な格納庫が置かれ、そこに二機の哨戒、連絡用のヘリコプター『林檎』を搭載している。

 当初は水上機を多数搭載する案も検討されたが、ヘリコプターの利便性に水上機では太刀打ちできなかった。実際、海軍において水上機の重要性は急速に低下しつつある。

 対空兵装は十二・七センチ高角砲を四基八門搭載。また、主砲の仰角も最大七十五度まで取る事が出来、対空砲としての使用も可能だ。

 レーダーと射撃管制装置は大和型や金剛型の物に比べ一世代古い代物だが、それでも十分な性能と言える。

 それらの間を埋めるように展開するのは各種駆逐艦だ。

 最も数が多いのは『利根』型と同じ第二次補充計画(マル2計画)で建造された防空駆逐艦『白露』型で、六隻全てがこの艦隊に参加している。

 当初は『初春』型の改良型として建造される予定だったが、当時開発が急速に進んでいた各種新型装備の試験艦として利用されたため、艦ごとにかなり外見が異なる奇妙な艦になっている。

 主兵装は砲塔形式の十二・七センチ高角砲で、これを前後に一基ずつ搭載している。

 最大の特徴はその射撃指揮装置であり、いまだに軍極秘の扱いを解かれていない『特型射撃装置一型』を搭載している。従来に比べ飛躍的に計算速度と重量の点で飛躍的に性能が向上した物で、その後の艦艇には全てこれが搭載されている。

 同数が配されているのが『初春』型で、艦隊では『赤城』『加賀』に次ぐロートルである。

 こちらも出師準備改装でドイツ製の二十ミリ四連装機銃を第二主砲に変えて二基増設し、半ば防空艦として扱われている。

 残り四隻が海軍の主力の艦隊型駆逐艦『陽炎』型である。

『朝潮』型から引き続き、艦首側に一基、艦尾側に二基の十二・七センチ連装砲を搭載。雷装は六十一センチ三連装魚雷発射管を三基搭載。搭載する酸素魚雷と合わせて海軍の艦隊型駆逐艦の集大成と言えた。

 その旗艦『蒼鶴』の艦橋。そこでは艦隊司令が最後の会議を開いていた。






『蒼鶴』艦橋。


「本作戦の目的は真珠湾軍港の徹底した破壊だ」


 作戦参謀が全体に告げる。


「先ほどの通信で分かった通り、本日より我が国はアメリカ、イギリス、フランスを中心とする大西洋連邦諸国との戦争状態に突入した。これを受けわが軍は事前に想定されていた計画に基づき『天一号』を発動した。すでに参加各隊はそれぞれの任務を開始している事だろう。本艦隊も予定通り『撃』作戦を開始する」


『撃』作戦はいくつかの行程に分かれている。

 まず第一段階で、空母艦載機による徹底した爆撃を敵飛行場に仕掛ける。予想される敵戦力は四百機前後。それに対し、こちらは第一次攻撃隊だけで四百機以上の戦力を送り込む計画である。後続する第二波も三百機を超える予定であり、まず間違いなく、この二撃で敵航空戦力は叩きつぶせると判断していた。

 第二段階は、真珠湾への艦砲射撃を敢行するにあたり、最大の脅威になると予想される真珠湾要塞群の破壊である。これは機動部隊の第二次攻撃隊が行い、航空部隊の新兵器が使用される事になっている。

 第三段階では、戦艦、巡洋艦による艦砲射撃を予定している。特に燃料タンクは最大の目標である。真珠湾の燃料タンクは地上部分が欺瞞でメインは地下にあると推測されている。これの完全破壊が戦艦部隊に求められている。これに先んじて、航空部隊は第三次攻撃を敢行。第二次攻撃で取りこぼした在泊艦船の殲滅を目指す。

 この段階で、航空部隊の消耗率は二十五パーセントを超えると予想されている。艦隊の弾薬残量は少ないもので二十パーセントを切る見込みだ。

 この時点で、艦隊は後退。可能であればミッドウェー島の敵飛行場を空襲して本土へ帰還する。

 この作戦は、アメリカ軍の呉空襲を遥かに凌ぐ大作戦だった。


「では、質問はないか?」


 説明を終えた作戦参謀から引き継いだ参謀長が、集まった指揮官に問いかける。

 それに全員が沈黙で答える。すでにこの作戦を前に数え切れないほどの作戦会議と図上演習を行っている。後は実行に移すだけだった。




 集まっていた指揮官がヘリでそれぞれの艦に戻り、静かになった艦橋で司令官、山口多聞中将が近くにいた主計課の士官に向かって声をかける。


「今回の作戦、お前はどう思うか?」


 声をかけられた方は恐縮していたが、山口が再度促すとなかなか含みのある答えを返した。


「おそらく、現時点で最大の戦果を上げる目的でしたら、最高の作戦かと思います」

「ほう、つまりそれ以外の目的からすると最高でないと」


 若干の笑いを含んだ山口の言葉にうなずく士官。


「なら、大尉だったらどういった作戦を立案したかね?」


 山口の問いかけに、若干考えた大尉はゆっくりと返事を返した。


「…自分でしたら、 本土を強襲します」


 現状の我が艦隊の戦力は、他国の海軍に比べ懸絶した戦力を保持しています。一度であれば、ハワイを無視したアメリカ本土への攻撃も可能だと考えます。

 大尉はそう締めた。

 それを聞いた山口は含み笑いを漏らした。

 怪訝そうな大尉に、山口が答える。


「いや、優秀な人材は意外なところに隠れていると思ってな」


 これは極秘だぞ、と前置きして山口は告げた。


「お前の言う通りだと俺も思う。だが、今回の『撃』作戦は『天一号』の主役ではないのだ」


 驚く大尉に、子供のような表情を向ける山口。


「本当の主役は、今頃すでに行動を起こしているだろう」


 その顔は、艦橋の窓を通り越し遥か東方を指していた。






十二月六日十八時(東部標準時 日本時間七日八時) 北米大陸東海岸 ノーフォーク

 そこはアメリカ海軍の総本山にして大西洋連邦の総本山でもある。

 無数の艦艇が平時から出入りしているそこは、日本の呉と横須賀を合わせたよりも多数の艦艇が出入りしていた。

 チェサピーク湾の湾口は、哨戒任務の駆潜艇と駆逐艦が十重二十重に網を張り、東ヨーロッパ連合(EEU)所属の潜水艦の進入を断固として阻止している。

 湾の奥に進むと、そこは世界最大の海軍基地として君臨するノーフォーク海軍基地がある。すでに開戦が決定し、近日中にイギリス北部、オークニー諸島にあるイギリス海軍の本拠地スカパフローへの進出が予定され、各艦整備に余念がない。

 川を挟んで対岸に存在するポーツマス造船所は、もう日が落ちているにも関わらず照明が煌煌と照らされている。戦艦の装甲の取り付けは基本的に夜間に行われるのだ。

 当直の兵士達はこの先の戦争について仲間たちと思い思いに話している。だが、そこにさほどの緊張感は感じられない。ピリピリした空気を感じても、具体的な開戦の日取りが分かるわけではないからだ。

 しかし、その彼らに開戦の一撃は容赦なく打ち付けられた。


 ……―――ッ!


 見張りの兵士が、何かが上空から飛来するのを目撃した瞬間だった。


 ズドーン…!


 軍港に、突如として轟音が響き渡った。


「何事だ!」


 眠っていた兵士達が慌てて飛び出してくる。

 その間も、次々と上空から何かが飛び込んできて周囲に破壊と破滅を撒き散らして行く。

 その時、一際巨大な爆発音が軍港全体、ひいてはノーフォーク全体を揺らした。


「なっ…!」


 兵士達の視線の先には、甲板から巨大な火柱を吹きだして松明と化している正規空母の姿があった。

 桟橋に横付けして補給を行っていた空母は一撃で飛行甲板を貫かれ、艦内に積み込まれた航空機もろとも火葬されつつあった。

 桟橋の上では弾薬を輸送していたトラックが、次々に天高く舞い上げられている。

 水線下にも損傷が生じたのか、空母は急速に傾斜を深めつつあった。

 さっきまで照明がついていたドックは慌てて照明を落としたが、直撃による火災で真っ赤に照らしだされていた。熱を受けた照明が音を立てて割れて行く。

 夜の軍港は、急速に混迷の度合いを深めて行った。





 同様な事態はサンディエゴでも起こっていた。

 昼間の軍港に飛来する多数の飛翔体の姿は、市民からもはっきりと見る事が出来た。

 ノーフォークと違い、こちらは多数の多弾頭タイプが使用されていた。

 ドックに入渠しているところを直撃を受け、コンクリートと鋼材の混合物と化す駆逐艦。

 工廠施設に降り注いだ無数の子弾は市街地の一部を巻き込みながら、周囲に破壊の嵐を撒き散らす。

 慌てて脱出を図って、衝突事故を起こす巡洋艦の姿もある。

 市街地で発生した火災は、拡大の兆しを見せていた。






 両軍港からは即座に緊急電が放たれた。

 サンディエゴでは、哨戒中の飛行艇がある光景を目撃していた。

 電文には、こう記されていた。


 刺客は海底より来り。


 日本海軍が誇る戦略型潜水艦『イ400』型。その初陣だった。






 大西洋連邦にとって、最悪の混乱から始まった大戦。

 その混乱は、翌日になりさらに拡大する事になる。

 もっとも、それはEEUや大日本帝国も同じ事だったが。

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