表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/35

1941~北の凍土 南の煉獄~

総合評価があと少しで二百なのです!

…これを読んでる皆さんは、戦闘シーンと本城さん達のどたばたと、どっちの方が好きですか?気になるのです!

ついでに、そのドタバタを極めた作品として、新しく『飛ばされて西の果て!?』という作品も書き始めたです!


今回の戦闘は、呉空襲と同時に始まったトラック攻防戦、そして、翌日に開始される満州・冀東きとうの防衛戦です!日本はこの両面の危機をどう乗り越えるのか!?

十二月十日午前一時 朝露国境地帯羅南沿岸

 あたりは闇に包まれていた。僅かな月と星の光が、海岸線まで迫った急峻な山岳地帯を浮かび上がらせている。

 その時、海上から突如として砲火が生じた。

 それは連続して発生し、数秒後、陸地上空に無数の照明弾が点火され眼下の大地を照らしだした。

 そこにあったのは、大地を埋め尽くす無数の戦車だった。

 砲塔に設けられた二枚のハッチを開いた姿がミッキーマウスのように見えるBT7。

 砲塔と車体が台形をした、現状で世界最高の戦車の一つであるT-34。

 さらに、車体に大型砲を直接装備し、さらにその上に小型砲塔を設けた背の高い戦車、アメリカ製のM3中戦車の姿まで見える。

 夜間で整備を行っていた車両の間では多数の整備兵が照明弾の明かりの元、恐慌状態で逃げまどっている。

 彼らの脅威は、洋上にあった。






第五艦隊旗艦『那智』

「全艦砲撃始め!」


 艦隊総司令官の細萱戊子郎中将は、憔悴した、それでもなお戦意に満ちた表情で命令を下す。

 次の瞬間、照明弾に照らされた敵地上部隊に傘下の艦隊が一斉に砲撃を開始する。

 最も目立つのは、旗艦である『高雄』型重巡『那智』と姉妹艦である『摩耶』の二隻。双方ともに五基十門の二十・三センチ砲を振りかざし、一斉に砲撃を加えている。

 それに続く、一回り小さい艦は軽巡『夕張』五千トン級軽巡と同等の武装を三千トン強の小柄な体に押し込んだ特異な艦。主砲である人力装填の十四センチ砲を必死になって撃ちまくっている。

 沿岸近くには、先だって照明弾射撃を行った駆逐隊が展開している。今も五インチ級の主砲は榴弾に照明弾を織り交ぜて射撃を継続している。

 降り注ぐ砲弾は、ソ連軍地上部隊に破滅的被害をもたらしていた。

 戦車を直撃した二十・三センチ砲弾は一撃で戦車を爆砕し、残骸を空高く舞い上げる。大地に穿たれた巨大な穴は容易に戦車を呑みこむサイズがあり、転げ落ちた戦車は、衝撃で主砲を捻じ曲げ内部の戦車兵を傷つける。

『夕張』や駆逐隊の砲撃も次々と着弾を果たす。

 十四センチ砲の直撃を受けた戦車は、こちらも一瞬でスクラップと化す。駆逐隊の放つ榴弾は、その弾片で戦車の履帯や整備兵を容赦なく引き裂く。

 状況に、満足げな表情を浮かべる細萱。

 まさに一方的な虐殺だった。


 終わりは、唐突だった。

 突如、見張り員が悲鳴のような報告を上げる。


「雷跡発見!右舷前方、距離20(二千メートル)!」

「面舵一杯!」


 とっさに指示を出す。


(しまった、敵潜の待ち伏せか!)


 操舵手は、命令を受け即座に舵輪を回しているのだろう。

 だが、この状況で重巡の艦体はあまりにも重すぎた。


(間に合わない…!)


 次の瞬間、激しい衝撃が『那智』を貫いた。






十二月十一日 西カロリン諸島 トラック環礁

 上空は、数次にわたって繰り返された空襲に対する対空砲火のせいで黒く染まっている。

 そこへ、撃墜された彼我の航空機の残した黒い筋と、地上から立ち上る火災煙が混じり混沌とした様相を呈している。

 兵士達は疲れ切った表情で、陣地に散らばる空薬莢を片付け、滑走路に開いた穴を重機で埋め戻して行く。

 その時、再び空襲警報が鳴り響いた。

 滑走路の補修を行っていた部隊は、急いで重機を片付け、上空から発見されないように偽装を施す。

 対空陣地では、射撃管制レーダーの予熱が行われ真空管を温めている。

 滑走路には、続々と戦闘機が掩体壕から引き出されてくる。

 主力は海軍の九八式戦闘機。他にも、少数の紫電や飛燕が見える。

 レーダーが捉えた敵編隊への距離は二百五十キロ。まだ余裕はあるが、急ぐにこしたことはない。

 ばらばらに離陸していく戦闘機隊。離陸直後に、ここ数日の激しい空襲で力尽きた艦艇の骸が視界に入る。いずれも浅い環礁の海底に着底し、焼け焦げた上部構造物だけを波間にのぞかせている。

 戦闘機隊は高度を上げながら、その上空をフライパスしていく。その針路は南に向けられていた。

 環礁を離脱した編隊は、その眼下に多数の艨艟の姿を見つける。

 艦隊の中央に位置するのは、長年連合艦隊の旗艦を務め、かるたにも載っている戦艦『長門』『陸奥』巨大な四十一センチ砲は僅かに仰角がかけられ、臨戦状態にあることをうかがわせる。

 それに続くのは、一回り小柄な艦体に連装六基十二門の三十六センチ砲を搭載した『伊勢』『日向』『山城』『扶桑』どれも艦齢二十年を超える老嬢である。

 周囲には妙高型をはじめとする重巡や各種五千五百トン型軽巡、それらに率いられる水雷戦隊が輪形陣を組んでいる。

 煙こそ噴き出していないが、艦隊の中には明らかに火災の痕跡をとどめているものもあった。

 その針路は、戦闘機隊とは僅かに異なっている。

 その舳先の先には、ラバウルを出撃した敵艦隊があるはずだった。

 掲げる旗は、星条旗とユニオンジャック。

 大西洋連邦の双璧、その片翼をなす艦隊だった。






十二月十二日 満州国北部サルト市

 市内の鉄道は、開戦以来二十四時間フル稼働状態が続いていた。

 行きは増援を送り込み、帰路は避難民を満載して新京方面へと脱出していた。

 満鉄職員は文字通り不眠不休でその運行業務に当たり、奇跡的にこれまで大きな事故を起こさずに運行を続けている。

 戦局は、劣勢を極めていた。

 混乱の続く戦局で、司令部が見積もった北部からの侵攻戦力は最低でも三十万。実際は五十万を上回ると推測された。国境の要塞群は後方との連絡を絶たれ次々に玉砕。残存部隊は総力を挙げて遅滞防御戦を遂行していたが、すでに孫呉そんご北安ほくあんが陥落。綏化すいかの陥落も時間の問題であり、ハルビンには佳木斯じゃむすを落とした機械化部隊が迫りつつあった。

 羅津方面(朝露国境)から侵入したソ連軍は東部方面軍の戦線を突破。海岸沿いに朝鮮半島への侵攻をうかがい朝鮮総軍を牽制すると同時に、主力が延吉から牡丹江を目指し、東部全域を包囲する動きを見せ、牡丹江と東部方面軍の側面を守る満州国軍を端から削り込む形になっている。正面も、虎頭ことうがすでに陥落。強力な圧力を受けている。

 西正面戦線は三倍以上の戦力を誇るソ連軍の猛攻を受けて、殿に臨時集成装甲団を残し新京・奉天地区まで主力は後退。一部歩兵部隊が白城市・チチハル間に展開してサルトが包囲されるのを阻止し、残りの機械化装甲軍は再編完了し次第吉林に集結していた。

 航空部隊は陸海軍に統合航空軍まで加えた総力戦を続けているが、数で圧倒的差をつけられ絶望的な戦いを強いられている。

 軍はハルビン・チチハル間を絶対防衛線と定め、サルトを死守する構えだった。

 その理由は、多数そびえたつ鉄骨の塔にあった。

 日本国内の石油の大半を供給するサルト油田がそこにはあった。






同日 中満国境地帯 冀東きとう国民党自治区

 そこは地獄と化していた。

 貿易で潤っていた市内は、敗走した国民党軍の脱走兵による略奪の嵐にさらされ、至る所で火の手が上がっている。商店は売上金から商品まで、ありとあらゆるものを剥ぎ取られていく。

 外国人居留区では、各国の警備隊と日本軍が共同して周囲に繋がる道路を閉鎖し、残された自国民を決死の覚悟で離脱させている。

 すでに鉄道は満州領内まで侵入した便衣ゲリラ兵に破壊され、軍の機甲部隊の護衛のもとトラックで脱出を試みていた。

 本来この地区を守るべき国民党政府軍は、国境付近の敗北の報が流れるや統率を失い、ただの匪賊ひぞくと化した。

 駐留していた日本軍は味方と便衣ゲリラ兵の区別もつかない戦況に、ひとまず戦線を立て直そうと満州南西部へ後退としていたが、侵入した便衣ゲリラ兵が猛威を振るい、ありとあらゆる通信インフラが破壊され情勢の把握もままならない状況になっていた。

 司令部偵察機が捉えた敵侵攻軍の総数は最低でも二百万、銃のかわりに鍬や鋤を持って向かってくる連中も含めると三百万を余裕で超えていた。

 掲げる旗は赤一色。

 冀東は、害虫に食い漁られるように赤に染められよとしていた。

 進む先には、満州の地があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ